減圧症は、血液中や組織中の窒素ガスが気泡化し、血管を閉塞させることで生じます。その他、肥満、過度の飲酒といった生活習慣の乱れや、繰り返しダイビングを行う場合に重症化しやすいといわれます。引き続きハーバード大学医学部外科学講座研究員の近藤豊先生にお話し頂きました。
減圧症の原因には、記事1『減圧症とは―スキューバダイビングや潜水のあとで関節痛や頭痛を感じたら要注意!』でご説明したとおり、急激な周囲圧の低下が関係しています。
解剖学的には、血液や組織、関節の中に溶解した窒素ガスが、急激な周囲圧の低下により気泡となって、血管の閉塞や血管内皮細胞障害、関節痛などを引きおこします。
ダイビングのときに使用する酸素ボンベには、窒素を含む圧縮空気を用いることが多くなっています。
「窒素が減圧症の原因であれば、ダイビング時に使用するボンベの中身を100%酸素にすればよいのではないか」と考える方もいるのではないでしょうか。しかしながら、100%酸素のボンベを使用すると酸素濃度が高くなりすぎる可能性があります。血中酸素濃度が高い場合には「酸素中毒」という別の疾患を引き起こすことが知られています。酸素中毒では痙攣などの症状が現れ、致死率も高い疾患ですから、できるだけ避けなければなりません。
近年では、窒素の割合を少なくして酸素の割合をやや増やした、ナイトロックスボンベ(エンリッチド・エア・ナイトロックス:酸素32%、窒素68%、または酸素34%、窒素66%)も普及しつつあり、減圧症の発症予防に有用ではないかと考えられています。
減圧症の誘因や増悪(ぞうお)因子には、主に肥満、飲酒、脱水、疲労などが挙げられます。潜水中に息切れを感じるのは危ないサインとして知られているため、そのような場合は早めにスキューバダイビングを終了したほうがよいでしょう。
なお、レジャーダイバーと職業ダイバーの両方が減圧症になる危険性を持っていますが、多くの場合は漁師など職業ダイバーのほうが重症化する傾向にあります。職業ダイバーのほうが深いところまで潜ったり、潜水時間が長かったりするためです。
また、レジャーダイバーの場合、一度減圧症を経験するとダイビングを控えるという方が多い一方、職業ダイバーはダイビングをやめることはありませんから減圧症を何度も繰り返します。これらも減圧症の重症度と関連していると考えられています。
潜水中、精神的にパニックになってしまい急浮上しようとする方がいますが、急激な圧の変化は、先述した窒素の気泡ができやすくなるため、減圧症のリスクが非常に高くなり危険です。慌てずに落ち着いてダイビングインストラクターの方の指示どおり行動しましょう。
また、ダイビング直後は航空機への搭乗を控えてください。航空機内は、高度が上がると気圧が低くなるため、体内に蓄積された窒素が気泡を形成しやすくなります。
急性期の減圧症の患者さんを搬送する際には、航空機やヘリを使用せず救急車で搬送するように努めますが、離島や僻地など車での搬送ができず、止むを得ない場合にはヘリで低空飛行を実施します。低空飛行の場合は、通常飛行に比べ気泡形成のリスクがやや低くなります。
このような理由から、ダイビング後24時間以内の航空機の使用は出来るだけ控えましょう。同時に、ダイビング直後の過度な運動や喫煙も避けるようにしてください。
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