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これからの災害医療-より効率的で効果的な支援のために
記事1『災害医療とは?地震など災害時の医療の仕組みや課題を考える』では、災害医療の考え方や特徴、仕組みなどをお話しいただきました。では、今後の災害医療ではどのようなことが重要になっていくのでしょ...
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これからの災害医療-より効率的で効果的な支援のために

公開日 2017 年 06 月 12 日 | 更新日 2018 年 08 月 10 日

これからの災害医療-より効率的で効果的な支援のために
森村 尚登 先生

東京大学大学院医学系研究科 救急科学 教授

森村 尚登 先生

記事1『災害医療とは?地震など災害時の医療の仕組みや課題を考える』では、災害医療の考え方や特徴、仕組みなどをお話しいただきました。では、今後の災害医療ではどのようなことが重要になっていくのでしょうか。東京大学大学院医学系研究科 救急医学の教授でいらっしゃる森村 尚登先生は、2011年の東日本大震災など、国内外の震災医療に携わってきました。また、2020年東京オリンピック・パラリンピックに係る救急医療体制検討合同委員会でも委員長を務められています。

今回は森村先生に、現地への支援に携わってきた経験から、今後の震災医療における課題や展望をお話しいただきました。

災害医療に携わった経験からの気づき

私はこれまで、海外ではバングラデシュや台湾の震災、日本では2004年の新潟県中越地震、2011年の東日本大震災などに、それぞれ短期間でありますが、主に支援責任者として赴いた経験があります。ここでは、実際に現場に行き、気づいたことをお話しします。

医療従事者が足りている場合は引くことも大切

たとえば、私が新潟県中越地震の際には、発災後少し経ってから複数の支援チームの責任者として被災地に入りました。その際、医療スタッフを中心とした人的リソースは徐々に充足している状況であることが判断しました。それを現地の責任者に伝え、徐々にチーム数を少なくしていきました。せっかく行ったにも関わらず帰ることは勇気が要ることです。しかし、このように、必要ない支援を続けることは、通常時の医療を損なうことにつながってしまいます。そのため、徐々に人員を減らしていくよう調整し、実現しました。

災害医療の初動はボランティア精神だけではできない

私は、災害時の医療の初動というのは、やりたい人がやるのではなく、やらなくてはいけない立場の者がやるべきであると考えています。特に、危険を伴うケースもある災害直後の初動においては、政府により正式に派遣された支援チームが重要です。ボランティア精神のもとに援助をする段階ではないのです。特に初動においては、きちんとトレーニングを受けた専門家が取り組むべきでしょう。

東日本大震災では混合チームで支援を実現

災害時の医療の体験として、ここでは2011 年の東日本大震災の体験を少しお話ししたいと思います。私は、発災以降約1年間、概ね月に1度のペースで、福島第一原発放射線事故対応のために福島県庁内に置かれた緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)に、日本救急医学会からの災害医療の専門家という立場で通いました。主に、医療機関へのアクセスが大きく制限されている状況での、復旧作業中の救急医療ならびに多数傷病者発生時の対応のための臨時体制つくりに参画しておりました。

初の試み-混合チームで震災医療に取り組む

東日本大震災の際に実現した初の試みとして、複数の医療機関による混成チームの派遣があります。横浜市では、A病院の医師、B病院の看護師、C病院の薬剤師に市職員(常に帯同しました)といった混成チームを組み、3泊4日ないし5泊6日の日程で発災以降6月までの107日間にわたって、計31チーム延べ165人を派遣しました。このように、多くの医療機関で多職種の混成チームを組むことは、前例のない取り組みです。この派遣体制には、それぞれの病院が担っている地域医療のパフォーマンスを落とすことなく、派遣の継続を比較的容易に可能にするというメリットがあります。

トリアージとは優先順位を決めること

トリアージ

話は少し逸れますが、災害時の医療においてよくクローズアップされるのがトリアージです。トリアージとは、災害時に突然発生した圧倒的多数の傷病者に対して個々の緊急性を判断したうえで、治療や搬送の優先順位を決める行為です。ときに患者さんの「選別」と説明されることがありますが、「選別」が与える印象は、選ばれなかった人に医療行為を提供しないといったことを想起させるので、妥当な表現ではないと思っています。

災害医療に携わる者は専従にすべきである

森村先生

驚くべきにことに今の日本には、災害時の医療支援チーム全体を統括する組織がありません。法律や仕組みが十分に整備されておらず、それぞれの組織が片手間に対応していることは大きな課題であると思います。

私は、特に急性期の災害医療支援に携わる者は、それを専門とする組織に専従すべきであると考えています。支援のために被災地に赴くメンバーは、普段は日常的にそれぞれの地域で保険医療に携わっています。その多くは病院において、地域の患者さん医療サービスを提供しています。しかし、災害が起こると、地域住民への医療から一度離れ、突然支援に出るという状況が生じます。そこで、特に急性期の災害医療支援に特化した組織をつくり、そこに専従の人員を配置すべきであると考えています。日本のように、ある一定の頻度で災害が起こるような国であるならば、急性期の災害医療支援のための専従の人員がいてもよいのではないでしょうか。

病院船の導入が必要である

また、病院船がないことも大きな課題であると考えています。日本は島国であり、これまでの震災の経験から、海からの援助が重要であることがわかっているからです。これは、今までには非災害時の運用に課題があり、なかなか議論が前に進みませんでしたが、たとえば訓練に使用すればよいと考えています。また日本にはそこまで大きな船は必要ではなく、小さな船でよいと思いますが、今後検討が必要であると思います。

災害医療を科学的に分析することの大事さ

他の分野と比較すると極端に頻度が少ない災害時の医療を科学的に分析し、エビデンスを発信することは難しいことです。それでも、過去の事例を集積して検討し、リスク評価をして、シミュレーションを行うことによって、より実効性の高い対策を立てることの意義は大きいと思います。

災害医療は皆で取り組むべき課題

森村先生

確率論の問題になってしまいますが、災害時の医療への対応はどうしても先送りになりがちです。もちろん、確率で考えてしまうと、震災が起こる可能性は交通事故が発生する可能性よりも圧倒的に低いと思います。しかし、発生すれば、甚大な影響を与えることも事実です。データを蓄積し、平時より、ある程度シミュレーションを繰り返す必要があります。その際には、専門的な人材が大きな役割を果たすと考えており、人材育成は今後の重要な課題のひとつであると思います。

さらに、記事1『災害医療とは?地震など災害時の医療の仕組みや課題を考える』においても触れましたが、災害時の医療は、皆で取り組んでいかなければなりません。ま災害訓練にも同様のことがいえます。どこの病院でも多くて全体の10%ほどしか訓練に参加しないといわれています。今後はいろいろな工夫をして、全員が参加できるようにすべきであると思っています。皆が災害への危機意識を持ち、いつ災害に見舞われても対応できる力をつけていくことが重要です。

2020年東京オリンピック・パラリンピックに係る救急医療体制検討合同委員会Facebookページ

災害医療 (森村 尚登先生)の連載記事

1986年に横浜市立大学医学部を卒業後、日本医科大学付属病院や横浜市立大学医学部附属浦舟病院の救命救急センターで経験を積む。1997年にはフランス院外救急医療支援組織 (SAMU) パリ本部へ留学。2016年に東京大学大学院医学系研究科 救急医学の教授に就任。救急医学の専門家として、国内外の災害医療に携わってきた経験を持つ。