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第14回 都市防災と集団災害医療フォーラム「環境、社会と地域共生活動の課題」前編

第14回 都市防災と集団災害医療フォーラム「環境、社会と地域共生活動の課題」前編
森村 尚登 先生

帝京大学医学部附属病院 救命救急センター 科長/主任教授

森村 尚登 先生

この記事の最終更新は2018年04月23日です。

2018年3月16日(金)、東京大学大学院情報学環・学際情報学府ダイワユビキタス学術研究館ダイワハウス石橋信夫記念ホールにて、第14回 都市防災と集団災害医療フォーラム「都市防災と災害医療を考える東京大学とのコラボフォーラム2」が開催されました。

環境、社会と地域共生活動の課題」をメインテーマとし、さまざまな分野の専門家による講演、パネルディスカッションなどが行われ、活発に意見が交わされました。

本記事では、東京大学大学院医学系研究科救急科 教授の森村尚登先生によるランチョンセミナーを中心に、フォーラムの様子をレポートします。

後編では、独立行政法人労働者健康安全機構 理事長の有賀徹先生の講演をレポートします。詳細はこちらをご覧ください。

定義のポイントは需要と供給の不均衡、外部支援の必要性

医療面からみた「災害」の定義は、以下の通り挙げられます。

  • 医療における需要と供給の絶対的・相対的不均衡
  • 量的・質的不足と組織・計画不足
  • 被災地域以外からの支援が必要な状況
  • 地域保健医療への重大な脅威あるいは継続的に支障をきたす状況

すなわち、以下の2点がポイントとなります。

  • 需要と供給の不均衡
  • 外部支援が必要である

組織力や計画が不足していると、需要と供給の不均衡が生じる原因になりえます。また、外部支援が必要であることは「医療面でいかに備えるか」に大きく関わるため、特に重要といえるでしょう。

災害時の医療には「medicine at the disaster」の視点が重要

大きな災害が発生すると、平時で通常行なっている地域の医療(病院の外来診療、入院患者さんの治療など)が一時的にストップする、あるいは大幅に縮小されるといった状態が起こりえます。しかし、本来は災害が発生したときでも、平時の医療を継続しなくてはなりません。

今後私たちは、高い専門性と特殊性を想起させる「災害医療(disaster medicine)」ではなく、「災害時の医療(medicine at the disaster)」つまり災害が発生したときに医療をどのように維持するのか、という視点で対応を考えていくべきです。

地域の大きな病院

DMATや救急科のスタッフだけでなく、社会全体で担うべき

これまで、災害時の医療はおもにDMAT(災害派遣医療チーム:トレーニングを受け、災害急性期に活動できる機動性を持った医療チーム)や救急科のスタッフが担うという考え方が強くありました。

しかし、災害時には病院の外来機能がストップするのですから、災害時の医療は病院全体、すべての診療科が考えるべき課題と捉えるべきでしょう。さらに今後は、社会全体で災害時医療を考えていく必要があります。

さまざまなレイヤー(層)で課題を抽出し連携していく

社会全体で災害時の医療を考えるためには、IoTを含めた情報共有システムの構築や、さまざまな組織間の連携が必要になります。

IoTとは:Internet of Things(モノのインターネット)、さまざまな物がインターネットに接続され、相互に情報交換・制御を行う仕組みを指します。

多面的に捉える」とき、さまざまな面が浮き彫りになります。

たとえば1つの組織なら、指揮体制、安全管理、情報共有、評価指標といったあらゆる視点が必要です。さらに、診療部門なら患者さんの優先度や搬送といった実際の課題、病院内では診療科間や多職種の連携、病院を超えたところでは消防や警察、行政など、多機関の連携を考える必要があります。

災害時医療の多面性

つまり、あらゆるレイヤーで災害時の医療にかかわる課題を抽出し、連携体制を整えていく必要があるといえます。

平時の救急医療、災害時の医療。2つの課題はほぼ同じである

平時の救急医療、災害時の医療、この2つにはどんな違いがあるのでしょうか。平時における救急医療には、病院内の部門連携が欠かせません。一方、災害時の医療には、地域内の病院間連携や、外部からの支援が必要になります。

つまり、平時の救急医療と災害時の医療の違いは「連携の規模」と「モダリティ(連携の様式や機器)」にあり、考え方には大きな差はないのです。

<平時の救急医療と災害時の医療の違い>

  • 連携の規模
  • モダリティ

平時の医療を適切にマネージメントすることは、災害時における円滑な医療のコントロールにつながるでしょう。

平時の救急医療と災害時の医療の違い

平時のメディカルコントロールの視点から考える

平時の救急医療には、メディカルコントロールという考え方とシステムがあります。

メディカルコントロールとは「医療サービスを提供するにあたり、その質を保証し、同時に患者の安全性を確保する仕組み」です。具体的には、医療関連行為を以下の4要素から担保する仕組みのこと」を指します。

  • 医学的方向性の決定は医師によって包括的になされ
  • 医療関係職種が実施する医療関連行為は医師の指示のもとになされる
  • 実施した結果についてはつねに医師によって医学的解析(検証)を受ける
  • 検証に基づいて体制についても見直しがなされる

引用元:
「救急医療におけるメディカルコントロール」へるす出版
監修:日本救急医学会メディカルコントロール体制検討委員会・日本臨床救急医学会メディカルコントロール検討委員会
編集:救急医療におけるメディカルコントロール編集委員会
編集協力:消防庁
発行年月:2017年10月

災害時の医療を考える際は、「平時のメディカルコントロールの視点」から救急体制を整える必要があるでしょう。

平時より強さとしなやかさを備えた国土、経済社会システムを構築する

2013年から、内閣官房国土強靭化推進室によって「国土強靭化」の計画が進められています。

国土強靭化とは:平時より「強靭さ:強さとしなやかさ」を備えた国土、経済社会システムを構築することを指します。強靱な国土、経済社会システムとは、私たちの国土や経済、暮らしが、災害や事故などにより致命的な被害を負わない強さと、速やかに回復するしなやかさをもつことです。

引用元:内閣官房国土強靭化推進室 資料 

国土強靭化の基本目標は、以下の通りです。

  • 人命の保護を最大限に図られること
  • 国家および社会の重要な機能が致命的な障害を受けず維持されること
  • 国民の財産および公共施設にかかる被害の最小化
  • 迅速な復旧復興

参考:内閣官房国土強靭化推進室 資料

国土強靱化の計画には、45のプログラムと15の重点化プログラムがあります。なかでも、特に現段階では以下の項目が課題として挙げられます。

  • 被災地での食料・飲料水、生命にかかわる物資供給の長期停止
  • 自衛隊、警察、消防、海保等の被災等による救助・救急活動の絶対的不足
  • 医療施設および関係者の絶対的不足・被災、支援ルートの途絶による医療機能の麻痺

私たちは、災害を「正しくおそれる」必要があります。

課題に対し、具体策を実行するためには、まずは現状と改善案を客観的に定量化し、指標を明らかにするべきでしょう。すなわち、PDCAサイクル(plan:計画、do:実施、check:検証・評価、action:改善)のうち、check=検証・評価が重要といえます。

災害時の医療を客観視

リスクとリソースを考察する

そこで、私は「災害医療のリスクとリソース」を考察する研究会を立ち上げました。

ここからは首都直下型地震を前提に話を進めます。内閣府の防災白書によると、首都直下型地震が起こった場合、最悪で死者が2万3,000人、全壊・焼失する建物が最大61万棟といった予測が出ています。

出典:内閣府 平成26年防災白書  

しかし、この数字は規模が大きいため、具体的に想像することが難しいと考えました。そこで研究会では、リサーチする項目を絞って、よりシンプルな定量化指標をトライアルしました。

RRR(リスクリソース比)の算出

病院のベッド1床をマネージメントするには、それぞれに人員と医療資源(リソース)が必要です。ベッド1床が機能できるか、という視点でリスクリソース比「RRR(Risk-Resource-Ratio)」を算出します。

RRRの概念は、災害時の医療対応をプラン策定するために、需要と供給のバランスを数値化することです。RRRの数値から、「発災直後(超急性期)に1ベッドあたり何人みなければいけないのか(=その病院の繁忙度)」を推定することができます。

<リスクリソース比(Risk-Resource-Ratio:RRR)>

リスク
  • 傷病者数(推定)
  • 重症者数(推定)
  • ICU適応症例数(推定)
要援護者数
  • 6歳未満人口
  • 75歳以上人口
  • 妊婦
  • 身体障害者手帳交付
  • 精神障害者等基礎把握
  • 要介護認定者
  • 観光客
要援護者率(%)

=要援護者数/人口

修正リスク

=傷病者数×(100−要援護者率)+傷病者数×要援護者率×1.5

リソース
  • 災害拠点病院ベッド数
  • 同 ICU・HCU・NICU数
リスクリソース比

−冬・夕刻 発災予定=修正リスク/リソース

リスクリソース比

NMR(医療支援必要量)の算出

RRRに関連したもう1つの概念として、NMR(医療支援必要量)があります。NMRとは、資源投入後の回復力の程度を示す数値であり、その定義を「RRRを目標値まで軽減するために必要な病床数」とします。

<NMR(医療支援必要量)の定義>

RRRを目標値まで軽減するために必要な病床数

RRRとNMRの組み合わせから、病院や地域の条件に応じた医療支援必要量を算出でき、また、優先度類型化が可能になりました。これらは、災害対応計画策定に有用であると考えられます。

これからの課題 災害時の医療輸送力を定量化する

災害時の医療輸送力を定量化

Y軸は平時の地域内医療供給力を、X軸は災害時の地域内輸送力(医療資器材、スタッフ、傷病者ほか)を示しています。

たとえば、1日の外来患者数や手術の件数、入院患者数などが多い大規模な病院は、Y軸が高くなります。ところが、災害によってその病院の周辺のインフラがダメージを受けると、地域内の輸送能力(X軸)が低いほど病院が孤立し、個々の病院力が低下していきます。

医療輸送力の定量化に向けて

今後は、災害時に地域内の医療供給力を一定以上に保つために、医療輸送力を定量化(一般的に質で表すと考えられる物事を数量で表そうとすること)していく必要があります。

医療輸送力を定量化したものは、たとえば以下の通りです。

<病院へのアクセスにかかるインフラの状況=SPACE>

  • 道路
  • 輸送手段(資機材搬送輸送)
  • 移送手段(傷病者病院間搬送)
  • 病院構造(ヘリポートなど)

<供給源=STAFF/STUFF>

  • 輸送にかかる人員、組織
  • 薬品、酸素ボンベ、滅菌システムなど
  • そのほか

<医療輸送システム=SYSTEM>

医療輸送システム=SYSTEM

医療輸送力は、SPACE(病院へのアクセスにかかるインフラの状況)、STAFF/STUFF(供給源)、SYSTEM(医療輸送システム)という4Sに類型化できます。私たちはこのような類型化を図り、医療輸送力の定量化に向けた項目立てを考えています。

フランスのパリの施行例 傷病者データを蓄積し迅速に共有するシステム

災害時の医療対応では、IoTを駆使することで地域内の情報共有や連携がスムーズに行われる可能性があります。たとえばフランスのパリでは、患者さんが保有するICタグを介して顔写真、指紋、年齢、性別、医療情報などの傷病者データを、消防・警察・医療を統合したデータベースに蓄積するシステムを採用し、従来法と比較しています。

これらの傷病者データは一元的に蓄積されますが、医療側は指紋情報に関して閲覧不可、警察は医療情報の詳細は閲覧不可といったように、消防、警察、医療ごとに異なる入力・閲覧権限を有しています。

IoTを駆使した情報共有システムによって、一刻を争う場面で傷病者データを迅速に共有することが可能になります。現在、私たちはIoTを利用した情報のプラットフォーム構築と、オープンデータの双方向的な共有に関する検証を進めています。

これまでお話ししたように、これからは災害時の医療を多面的に捉えることが必要です。そして、何より特殊・専門的な人々だけではなく、私たち全員が災害時の医療を考えていく必要があるでしょう。

私たちは、災害を「正しくおそれる」ために、災害時医療のリスクを定量化し、客観的に評価する計画を進めています。そのなかで、先にご紹介したようなIoTを駆使した情報共有システムの構築は、効率的な災害時医療の実践に大きく寄与すると考えられます。

森村先生

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