2018年3月16日(金)、東京大学大学院情報学環・学際情報学府ダイワユビキタス学術研究館ダイワハウス石橋信夫記念ホールにて、第14回 都市防災と集団災害医療フォーラム「都市防災と災害医療を考える東京大学とのコラボフォーラム2」が開催されました。
「環境、社会と地域共生活動の課題」をメインテーマとし、さまざまな分野の専門家による講演、パネルディスカッションなどが行われ、活発に意見が交わされました。
本記事では、独立行政法人労働者健康安全機構 理事長の有賀徹先生の講演を中心に、フォーラムの様子をレポートします。
前編となる東京大学大学院医学系研究科救急科 教授の森村尚登先生によるランチョンセミナーに関するレポート記事はこちらをご覧ください。
BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)とは、「災害などが発生したときに特定の重要業務を中断せず事業を継続すること、万が一事業が中断したときに重要な機能を復旧して、損失を最小限にとどめる」ために策定する計画を指します。*
参考:東京都防災ホームページ
私たちは、医療におけるBCP、つまりHealthcare(医療・介護福祉)BCPを構築するために一般社団法人Healthcare BCPコンソーシアムを発足させました。
2017年、厚生労働省によって病院のBCP策定は義務化されています。しかし、個々の病院(自らが勤務する場所)だけでBCPを実行するのは困難です。よって、より広い範囲でのBCP策定と実行が必要となります。
<段階的なBCP策定の必要性>
勤務場所でのBCPとしては、まずそこにいる患者さんやスタッフの安心と安全を確保することが重要です。防災の基本は火災対応ですから、基本的なBCPとして、勤務場所における水平避難・防火区画*の理解と応用が必要になります。
防火区画とは:火災を部分的に止め、ほかへの延焼を防止するとともに、煙の拡散防止を図る区画を指します。
患者さんが歩ける場合、垂直避難(上下垂直方向への避難。たとえば建物の上階から地表へ降りるなど)が可能です。しかし、一般的に病院では、避難時に介助が必要とする患者さんの数が、医療者の数よりも圧倒的に多いです。そのため、垂直避難は現実的には難しいと考えられます。
そこで、水平避難(水平方向への避難)や籠城避難(安全なエリアに留まり籠城する)といった避難経路・方法によって患者さんやスタッフの安全を確保します。
防火区画とは、火災を部分的に止めほかへの延焼を防止するとともに、煙の拡散防止を図る区画を指します。避難時に重要な経路となる階段などを守るためのたて穴区画、水平方向への燃え広がりを防止するための面積区画などがあります。
<防火区画>
病院ごとに、平時から災害時の避難経路について考えておくことが重要です。たとえば、病院内の防火戸マークは病院スタッフや患者さんのへ啓発につながり、認識を高めることになります。
被災した病院というのは、ついつい自分たちだけで頑張ってしまいがちです。しかし、自らが働いている病院が被災した場合には、グループ内の病院に頼れるようなシステムを活用するべきでしょう。
たとえば、ある病院グループの災害対策本部では、本部の下に支援チーム派遣支援本部を設置し、グループに属する27病院・6老人保健施設などが支援を受けられる体制を構築しています。
広域災害の場合、周辺の病院すべてがかかわり、総力戦で災害医療を支える必要があります。
東京都では、災害拠点病院が円滑に重症者の収容・治療を行えるよう、災害拠点連携病院が中等症者の収容・治療を行い、さらに災害医療支援病院が専門医療(小児、周産期、精神など)や慢性疾患を担う体制を構築しています。
2017年の救急搬送人員(救急車で運ばれた人)の年代別内訳は、以下の通りです。
このデータから、救急搬送されている方の約4割が75歳以上であることがわかります。
参考:東京消防庁報道発表資料(2018年1月10日)
高齢社会が進むなかで、今後さらに独居や老老世帯(未婚の65歳以上の子と85歳以上の超高齢者の親で構成される世帯)は増加していくと予測されています。
総務省「労働力調査(詳細集計)2006〜2016年」によれば、非正規雇用労働者の数は増加しています。
また、内閣府「高齢者の地域社会への参加に関する意識調査(2013年)」によれば、「働きたい」と考える65歳以上の方が7割いるのに対して、65歳以上の就業率は22%となっています。つまり、働きたい65歳以上の方のうち、7割が就業の機会に恵まれない(=働けない)状況にあるといえます。
人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)2013年1月推計」によると、2035年には単身世帯が37.2%(およそ3世帯に1世帯)、高齢者単身世帯が15.4%(およそ7世帯に1世帯)、ひとり親世帯が11.4%(およそ9世帯に1世帯)になると予測されています。
伝統的な家族制度が変化し、個人化への急激な展開が進むなかで、家族の支え合いが低下し、社会的に他者との関連が薄まる傾向がみられます。しかし、社会における連帯関係が形成されないと、社会は解体するでしょう。*
参考:山崎史郎「人口減少と社会保障 第10回政策フォーラム 2017年12月14日」
このような社会連帯の重要性は、Healthcare BCPの基本概念と同じ文脈で理解する必要があります。つまり、Healthcare BCPを考えるためには、社会全体に目を向けなければいけないということです。
日本の災害医療には、以下のような課題があります。
Healthcare BCPは、医療に特化した枠組みでは成立しません。食料や医薬品をはじめとするさまざまな物資供給の管理体制をつくるためには、情報システムの構築、電源の確保、インフラ整備など、共同の取り組みが必要です。
そこで、経済・産業界と密に情報交換を行い、必要に応じて複合領域を生み出すなど、新しい枠組みへと進化させています。
読売新聞「朝刊 2016年2月17日」によると、憲法に災害時の強制力を持たせる必要性があるといいます。たとえば大災害が発生した際に、非常事態宣言によって救援部隊が近隣の野球場をベースキャンプに使えるといったような、社会全体で災害に備える仕組みを整えることが必要です。
異なる視点や専門知識を持つ複数のプレイヤーの参加を促し、単独ではできない戦略・対策の創出するために、Healthcare BCPコンソーシアムを設立しました。
現在、実効的なHealthcare BCPの体制構築を進めています。実際にHealthcare BCPコンソーシアムには、医療や介護はもちろん、製薬、給食、金融、不動産、交通、インフラ、エネルギー業界など、さまざまな分野の関係者が参加・協業する方向で進めています。
我が国には、日本で生まれ、日本の水を飲み、日本語の美しい音色を聴きながら育った人々の魂が根付いています。災害が起きたとしても、秩序を大切にし、他人を思いやり、全力でお互いを救済できる民族性は、世界に誇れるものだと考えます。
このような日本の美学や道徳心を大切にしながら、社会全体のBCPに向けて驀進することで、災害にも迅速かつ的確に応じる医療体制を構築できると考えています。
本セミナーでは、種々の基調講演以外にも「都市防災と災害医療の未来について考える」をテーマにしたパネルディスカッションが行われ、活発な討論の場となりました。
日本医療資源開発促進機構代表理事 横山孟史さん
講師:蛭間芳樹さん 株式会社日本政策投資銀行サステナビリティ企画部BCM格付主幹/蛭間防災塾
講師:平田直先生 東京大学地震研究所教授/政府地震調査研究推進本部地震調査委員会委員長
講師:山本保博先生 日本医科大学名誉教授、東京曳舟病院長/日本医療資源開発促進機構会長
講師:森村尚登先生 東京大学大学院医学系研究科救急科教授
講師:有賀徹先生 独立行政法人労働者健康安全機構理事長/昭和大学病院前病院長
講師:坂村健先生 東洋大学情報連携学部学部長/東京大学名誉教授
講師:樋口武男さん 大和ハウス工業株式会社代表取締役会長・CEO
座長:
野口英一さん 田中央医科グループ医療法人横浜柏堤会災害対策特別顧問
大槻啓子さん 三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社シニアアドバイザー
パネリスト:
有賀徹先生 行政法人労働者健康安全機構理事長/昭和大学病院前病院長
森村尚登先生 東京大学大学院医学系研究科 救急科教授
坂村健先生 東洋大学情報連携学部学部長/東京大学名誉教授
浅井謙さん 井謙建築研究所株式会社代表取締役会長
蛭間芳樹さん 株式会社日本政策投資銀行サステナビリィ企画部BCM格付主幹
2017年12月に開催された、第13回 都市防災と集団災害医療フォーラム「防災対策、自治体が抱える課題と問題点を考える」のレポートはこちらをご覧ください。
有賀 徹 先生の所属医療機関
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