子どもの慢性的な貧血や黄疸を引き起こす病気のひとつに、CDA(先天性赤血球形成異常性貧血)という血液の病気があります。CDAは、赤血球に育つ前段階の細胞である「赤芽球」に異常があり、十分な赤血球数を維持できない病気であり、日本では指定難病のひとつとなっています。CDAとはどのような病気か、聖路加国際病院小児科医長(血液腫瘍担当)の真部淳先生に教えていただきました。
先天性赤血球形成異常性貧血(CDA:Congenital dyserythropoietic anemia)とは、赤血球に育つ前の血液細胞・赤芽球に、生まれつき形成異常がある血液の病気です。赤芽球の形成異常とは、たとえば細胞内に本来1つしかない核が2つ以上あるといった状態を指しており、医学的にはこれを「異形成」といいます。
正常な赤血球の寿命※は約120日ですが、異形成のある赤芽球は、特徴的な丸い形状をした赤血球へと育った後、すぐに壊れてしまいます。そのため、CDAの患者さんは慢性的な貧血を抱えることが多く、定期的な輸血治療が必要になることもあります。
※赤血球の寿命とは、赤血球が骨髄から末梢血(血管の中を流れる通常の血液)に出てきてのち、脾臓で壊されるまでの期間
経口投与可能な鉄キレート剤が登場するまでは、治療のために行う輸血により、二次的に起こる続発性ヘモクロマトーシスが問題となっていました。ヘモクロマトーシスとは、心臓や肝臓など、体内の重要な臓器に鉄が蓄積し、時に生命にも関わる病気です。
しかし、2000年代後半に経口投与可能な鉄キレート剤が登場したことで、輸血による続発性ヘモクロマトーシスの問題は改善されました。現在、CDAの患者さんが続発性ヘモクロマトーシスによる問題を抱えているというケースは、ほとんど経験しなくなったと感じます。
※病名の記載について:
CDA(Congenital dyserythropoietic anemia)には、もともと日本語の病名はありませんでした。先天性赤血球形成異常性貧血という名称は、2015年にこの病気が指定難病(告示番号282)となるにあたり、新たに作られた病名です。そのため、指定難病の医療費助成を受ける手続きの際などには、先天性赤血球形成異常性貧血という病名を使う必要があります。この記事では、医療現場で一般的に使われているCDAという名称を使用しますが、CDAと先天性赤血球形成異常性貧血はまったく同じ病気です。
CDAは、日本などのアジア地域においては非常にまれな病気であり、疫学的な調査もほとんど行われていません。そのため、正確な発症頻度などは明らかになっていません。
2006年に全国220施設を対象として実施されたアンケート調査では合計で12例の報告がありました。
従来、CDAはⅠ型~Ⅲ型の3病型に分類されると考えられてきました。頻度は極めて少ないものの、Ⅰ型~Ⅲ型の3病型すべてが日本人のCDAにおいてもみられています。
2000年代に入り、これら3病型を引き起こす「責任遺伝子」が、次々と同定(特定)されるようになりました。ただし、責任遺伝子は、以下に記すものだけではないと考えられており、現在も研究が進められています。
CDAN1、C15ORF41という2つの責任遺伝子が同定されています。
I型CDAの特徴は、「核間架橋」など、細胞内のクロマチン構造に異常がみられることです。また、遺伝形式は常染色体劣性(潜性)遺伝をとります。
発症地域としては、中東や北アフリカなどが挙げられます。I型CDAは、合併症として骨格奇形を伴うことがあります。
SEC23Bという責任遺伝子が同定されています。
Ⅱ型CDAの特徴は、2核以上の多核の赤芽球がみられること、異型核の赤芽球がみられることです。遺伝形式は常染色体劣性(潜性)遺伝です。
発症地域としては、ヨーロッパの南西などが挙げられます。
KIF23という責任遺伝子が同定されています。
Ⅲ型CDAの特徴は、多核赤芽球や巨大赤芽球がみられることです。また、遺伝形式はⅠ型Ⅱ型とは異なり、常染色体優性(顕性)遺伝をとります。
発症地域としては、スウェーデンなどが挙げられます。
Ⅲ型CDAは、合併症として免疫グロブリン異常や骨髄腫を伴うことがあります。
近年では古典的な3病型には属さないCDAも20例以上報告されています。VARIANTS(ヴァリアンツ)とは日本語で「亜型」を意味する語句であり、多様な責任遺伝子による、さまざまなタイプのCDAが含まれています。
CDAには家族性と孤発性があるとされていますが、これまで経験した症例のほとんどは孤発性のCDAです。ただし、理論上は特定の家族に多く発症する家族性のCDAも起こり得るといえます。
これまでのCDAの診断は、検査で特徴的な赤芽球や変形した赤血球を確認するなど、形態学的・生化学的な手法で行われてきました。しかし、前項で述べたように、医療・医学の進展により原因遺伝子が同定され、VARIANTSについても解明が進み始めています。そのため、今後は遺伝子学的な診断の重要性がより一層高まるものと考えられています。
北海道大学大学院医学研究院小児科学教室 教授
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