2018年6月28日(木)~29日(金)の2日間、第68回日本病院学会が、石川県金沢市で開催されました。「医療制度ルネサンス―未来を見据え、今を刷新する―」をテーマに、医療制度がどのように変わろうと、医療人に課せられたこれらの使命を果し、さらに長年培ってきた質のよい医療を今後も提供し続けるために、白熱した議論が展開され、大盛況の中、幕を閉じました。
本記事では、日本医師会長の横倉義武先生の日本医師会会長講演「日本医師会の医療政策」をレポートします。
我が国を取り巻く経済環境は、余裕があるとはいいがたく、非常に厳しい状況になってきています。人口構造の変化により、高齢者が増え若い働き手が減っていく中で、社会保障費の増大は顕著になっています。
バブル崩壊後、国は経済を向上させるため、様々な施策に予算を投入しましたが、税収は横ばいか減少傾向にあり、歳入と歳出の格差が出ているのが、ここ30年での我が国の現状であると思います。
人口動態の変化により、高齢化が進む中で、雇用財政状況をどう立て直すのか、日本医師会としても注視しているところであります。
持続可能な社会保障にするためには、人口減少の中で国民皆保険制度を維持することが重要と思っています。そのためには、我々医療側からの提言が必要です。国民の不安が減るような、社会保障制度を構築することで、将来的な社会不安を軽減していきたいと考えています。
本来、社会保障は経済活動と相互作用の関係にあると考えます。経済成長が財政基盤と社会保障を支えていますし、社会保障を国民へしっかり提供することで安心を担保し、経済成長を支え、医療の拡充に寄与しています。
安心が経済成長を支え、社会保障への不安が軽減されることで、国民の消費が増えていくと思います。しかし今は、高齢社会が進む中で「老後が安心できない」という不安から、国民の消費活動が抑制されます。安心して老後を迎えられるという社会を作っていく、そのためには社会保障を充実させていくことが大切です。
そのようななかで、入院医療については、引き続き機能分化をしっかり行うことが大切です。また、終末期医療やジェネリック薬の適正化など、我々医療現場から提案できることは、積極的にしていきたいと思っています。
こういった中でも、終末期医療に関する活動をしっかり行っていきたいですし、ジェネリック薬のガイドライン整備も必要と思います。医療材料については、人工関節の価格差が大きいので、このあたりも注視していかなければなりません。
また、高齢者が一律に経済的弱者ということではなく、収入に応じた医療費負担を求めていくことも必要です。高齢者であっても高額な収入のある人にはそれ相応の負担をお願いするという主張もしていました。
団塊世代が 75 歳に入り始める前に、年齢ではなく能力に応じた負担など社会保障制度の持続可能性を強化すべきであります。
国は、病気の予防や健康づくりの推進を強く打ち出しています。
予防すべき疾病や状態として、動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病、認知症、うつ病、喫煙、フレイルの6つを挙げており、集団に対しては全分野的に、個人に対しては全人的に関わる必要があるとして、これらに対する取り組みに、医師会の役割は極めて重要であると考えています。
また、社会保障を持続可能なものとするためには、地域全体での予防・健康づくりの取り組みの推進が重要であり、都道府県版日本健康会議を設置していただき、健康運動を国民運動にしていきたいと考えています。そこでは、地域の医師会が中心的な役割を果たすことが必要であると考えています。
健康寿命は、国民生活基礎調査の主観的なデータに基づいて算定されていることや、医師と患者で「健康」の捉え方に差があるのではないかとの認識のもと、医師として国民に啓発すべき「健康な状態」を整理しています。
算定方法に関しては、客観的なデータを使うことが望ましいとして、介護認定データを基にした65歳時の平均自立余命を活用することを提案しました。
議論の整理を踏まえ下記の四つの提言を行っています。
この先日本は高齢化が進み医療費はますます増えると予測されます。しかし一方で「はじめに財政ありき」で社会保障費の過度の抑制が続いているために、深刻な医療崩壊が起きています。日本医師会は適正な医療費の中で国民が安心、納得できる過不足ない医療の提供を目指していきます。
公的医療保険による国民皆保険を堅持するために、社会保障としての医療の充実に貢献するために、我が国の保健医療システムをより高次なものにしていきたいという強い思いから、社会保障としての医療のさらなる充実に貢献すべく、国民の健康と医療を守るために、国民だれもが、いつでも、どこでも良質な医療が受けられるよう量的拡大はもちろん、質の向上に努めてまいりました。
一人当たりの医療費が増え、将来への不安を感じる方々が増えていると思う中で、改革を進めて地域を守ること、そうした機運を醸成していくなかで、社会保障制度の安定性と持続可能性の向上に努めていかなければなりません。
日医かかりつけ医機能研修制度がスタートしています。日本医師会では、かかりつけ医を「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」と位置づけてきました。
この研修制度は、今後のさらなる少子高齢社会を見据え、地域住民から信頼される「かかりつけ医機能」のあるべき姿を評価し、その能力を維持・向上するための研修です。
毎年1万人近い医師が日医かかりつけ医機能研修制度応用研修会を受けています。国民へよりよい医療を提供していくということが、医療界の信頼につながっていくと考えています。
さて、11月1日を「いい医療の日」として、一般社団法人日本記念日協会に登録しました。この日を、国民とともにいい医療を考える機会にしていただければと思います。
本ページにおける情報は、医師本人の申告に基づいて掲載しております。内容については弊社においても可能な限り配慮しておりますが、最新の情報については公開情報等をご確認いただき、またご自身でお問い合わせいただきますようお願いします。
なお、弊社はいかなる場合にも、掲載された情報の誤り、不正確等にもとづく損害に対して責任を負わないものとします。