インタビュー

鳥インフルエンザは人にもうつる?感染力や感染経路、人間に現れる症状とは

鳥インフルエンザは人にもうつる?感染力や感染経路、人間に現れる症状とは
影山 努 先生

国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター第2室 室長

影山 努 先生

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この記事の最終更新は2018年08月29日です。

秋から冬にかけて、鳥類の間で発生する鳥インフルエンザ。日本でもニワトリなどの間で流行が起こっているため、報道を見て「人間にも感染する病気なの?」と不安に感じることもあるかもしれません。

既に海外ではトリからヒトへの感染例も報告されており、感染経路も明らかになっています。鳥インフルエンザのヒト感染は、どのような場所で起こっているのでしょうか。

また、感染力や症状は一般的な季節性インフルエンザと違うのでしょうか?

国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター第2室・室長の影山努先生にお伺いしました。

鳥インフルエンザとは、トリに感染する性質を持ったA型インフルエンザウイルスによる感染症です。トリに感染するA型インフルエンザウイルスをまとめて鳥インフルエンザウイルスと呼びます。

鳥インフルエンザウイルスがヒトやその他の動物に感染した場合にも、鳥インフルエンザという病名が使用されます。鳥インフルエンザウイルスは、通常ヒトに感染することはありません。

しかしながら、感染したトリに触れるといった濃厚接触(のうこうせっしょく)をした場合などには、きわめて稀に鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染することがあります。

なお、日本国内でヒトが鳥インフルエンザを発症したという報告は、現在のところありません(2018年8月時点)。

インフルエンザウイルスには、A型、B型、C型、D型の4つの型があります。このうち、トリに感染するインフルエンザウイルスはA型のみです。A型インフルエンザウイルスは、ウイルスの表面にあるHA(ヘマグルチニン)とNA(ノイラミニダーゼ)の組み合わせにより、さまざまな亜型に分類されます。

A型インフルエンザウイルスの自然宿主(しぜんしゅくしゅ)である野生の水きん(カモ)類では、1番から16番までのHA、1番から9番までのNAを保有するウイルスがみつかっており、理論上はこれらを組み合わせた144種類の亜型が、鳥インフルエンザウイルスとして存在し得るということになります。

自然宿主とは:ウイルスなどが寄生する生物。ウイルスは自然宿主(ここでは水きん類)に対しては強い病原性を示さないため、自然宿主となる生物には症状は現れない。

このうち、1997年以降で現在までにヒトへの感染が報告されている鳥インフルエンザウイルスは、次の11種類です。

H5N1亜型

H5N6亜型

H6N1亜型

H7N2亜型

H7N3亜型

H7N4亜型

H7N7亜型

H7N9亜型

H9N2亜型

H10N7亜型

H10N8亜型

上記のうち、現在までにヒトへの感染が最も多く報告されている鳥インフルエンザウイルスはH7N9亜型で、これまでに1,600人を超える人が感染を受けていることがわかっています。

また、H5N1亜型も2003年以降に800人以上の感染が報告されています。

鳥インフルエンザウイルスのトリからヒトへの感染は、鳥インフルエンザウイルスに感染したトリと濃厚接触(後述)をした場合など、きわめてまれにしか起きません。

トリからトリへの感染力は、特に家きんの間では非常に強い場合が多い。

インフルエンザウイルスに限らず、さまざまなウイルスは、動物の細胞に存在するレセプター(受容体)※と結合することで感染を起こします。

レセプターとは:ウイルスがヒトや動物に感染するとき、最初に吸着する細胞表面の分子のこと。

人間のあいだで起こる季節性インフルエンザの流行には、このレセプターの存在と、季節性インフルエンザの原因ウイルスとなるヒトインフルエンザウイルスの性質が関わっています。ヒトの鼻やのどといった上気道の細胞には、ヒトインフルエンザウイルスのレセプターが多数存在しています。

また、ヒトインフルエンザウイルスは、そこに効率よく感染して増殖する能力を持っています。季節性インフルエンザの流行は、このような理由により起こります。

一方、鳥インフルエンザウイルスのレセプターは、ヒトの上気道にはほとんど存在していません。そのため、日本において通常の生活を送っている限り、一般の方が鳥インフルエンザウイルスに感染するリスクはほとんどないと考えられています。

ただし、人間の気管や肺などの下気道(かきどう)には、鳥インフルエンザウイルスのレセプターが存在しています。そのため、特殊な環境下で大量のウイルスにさらされた場合には、鳥インフルエンザに感染・発症することがあります。

感染者の咳などと共に鳥インフルエンザウイルスが空気中へ排出されたとしても、季節性インフルエンザウイルスのように上気道に感染する可能性は低いため、周囲の方へと感染が広がる心配はほとんどありません。

鳥インフルエンザウイルスの構造や性質が変わらない限りは、ヒトからヒトへの感染リスクも低いといえます。

しかしながら、世界では鳥インフルエンザの家族発症例も報告されていることから、長時間患者さんとの濃厚な接触がある場合、ヒトからヒトへと感染する可能性もあると考えられています。

鳥インフルエンザウイルスは、感染したトリの体内で増殖します。

そのため、感染したトリに直接触れることや、感染したトリの臓器や肉などを加熱加工せず、じかに触れたり摂取したりすることで、ヒトへと感染する危険があります。このような行為を濃厚接触と呼びます。

また、鳥インフルエンザウイルスは、感染したトリの糞の中に排泄されたり、羽に付着していたりすることもあります。

そのため、鶏舎などの隔離空間ではなく、人間と同じ生活空間で鶏やアヒルを飼育する文化のある地域では、大量のウイルスにさらされるリスクがあるといえます。

ただし、日本では食用鶏などを農場や鶏舎で隔離して飼育しているため、上記のような感染の機会はほぼないと考えてよいでしょう。

中国をはじめとする諸外国には、生きた状態の食用鶏をその場で売買する生鳥市場が存在します。こういった生鳥市場内に感染したトリが持ち込まれた場合、市場全体が鳥インフルエンザウイルスに汚染される危険が高まります。

実際に、生鳥市場においてヒトへの感染が起こった例も多く、2013年にはOIE(国際獣疫事務局)が「生鳥市場は鳥インフルエンザのヒト集団感染に大きな役割を果たしている」と発表しています。

海外旅行に行かれる際などには、生きたトリを扱う市場などに立ち入らないよう注意しましょう。

鳥インフルエンザウイルスの潜伏期間はH7N9亜型で1~10日(多くは2~5日)、H5N1亜型でおおむね2~8日とされています。

高熱と急性呼吸器症状

感染したウイルスの種類により差はありますが、鳥インフルエンザの主な症状は季節性インフルエンザの症状とよく似ているという特徴があります。

  • 高熱
  • 鼻水
  • 喉の痛み

鼻水や咳など、鼻や咽喉の症状を総称して急性呼吸器症状といいます。

下気道の症状

高熱と急性呼吸器症状に加え、気管や気管支、肺などの下気道にも、以下のような症状がみられる傾向があります。

  • 息切れ
  • 呼吸がはやくなる
  • 呼吸音の異常

重症化したときの症状

鳥インフルエンザが進行すると、ウイルス性の肺炎を生じることがあります。

季節性インフルエンザの場合、咳などで気管が荒れている状態のところに別の細菌が侵入し、二次的に細菌性肺炎を合併することがあります。これに対し、鳥インフルエンザウイルスは直接肺に侵入して、肺炎を引き起こすという特徴があります。

このほか、重症例では呼吸不全が進行して急性呼吸きゅう迫症候群(ARDS)を起こし、死亡することもあります。

ヒトが鳥インフルエンザを発症した場合、抗インフルエンザウイルス薬による薬物治療が第一選択となります。季節性インフルエンザの治療にも用いられるリン酸オセルタミビルなどのノイラミニダーゼ阻害薬が有効であると考えられており、発症後の早期投与が重要とされています。

抗インフルエンザ薬を使った根本的な治療のほかに、現れている症状を抑えるための対症療法が行われることもあります。

たとえば、呼吸が速く浅くなる急性呼吸きゅう迫症候群(ARDS)が起こった場合は、人工呼吸管理などが行われます。

鳥インフルエンザのトリからヒトへの感染を防ぐためには、ウイルスに感染したトリとの接触を避けることが何よりも重要であると考えます。

鳥インフルエンザ予防のためにできること

  • 鳥を売買・処理している市場などに立ち入らない
  • 弱っている鳥や死んだ鳥に直接触らない
  • 鳥の糞などの排泄物に直接触らない

また、外出後の手洗い・うがいなど、一般的な感染症対策を習慣化することも大切です。

現在日本では、季節性インフルエンザの予防薬として3種類のノイラミニダーゼ阻害剤が使われており、鳥インフルエンザの予防にも有効と考えられます。

ただし、ヒト発症例の報告がない現在の日本では、一般の方に対して予防薬を処方する機会はほとんどありません。

  • 国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター第2室 室長

    影山 努 先生

    国立感染症研究所インフルエンザ研究センター第2室の室長を務める。新型インフルエンザなど、呼吸器感染症を引き起こす新興・再興ウイルスの診断機能向上のための研究を行っている。鳥インフルエンザの診断に関する国際連携研究に参加するなど、日本でも広がりうる感染症に対応すべく国内外の知見の集積を図っている。

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