概要
急性呼吸窮迫症候群とは、炎症によって肺の毛細血管の機能が低下し、血管内の水分やタンパク質の一部が肺胞や肺間質に漏れ出ることで肺機能も低下し、血液中の酸素が著しく低下する病気のことです。
急性呼吸窮迫症候群を起こす主な原因としては、肺炎、溺水、敗血症、膵炎、重症な外傷、中毒(薬物、ガスなど)、輸血などが挙げられます。全身に強い炎症反応が生じ、活性化した好中球(白血球の一種)によって肺の組織や毛細血管がダメージを受けて発症すると考えられています。
急性呼吸窮迫症候群は原因となる病気の治療を行うことがもっとも重要です。酸素不足に対しては、人工呼吸器や必要に応じて体外式膜型人工肺*(ECMO:extracorporeal membrane oxygenation)による治療を行います。
*体外式膜型人工肺:肺と心臓の機能に代わる役割を持つ装置。
原因
急性呼吸窮迫症候群は、強い炎症が生じる病気や外傷が原因となり、活性化した好中球から細胞や組織にダメージを与える物質が放出されることで発症します。
肺の組織や毛細血管がそれらの物質によるダメージを受け、血液中の成分が漏れ出し、肺間質にむくみを生じ、さらに肺胞内に液体が浸み出して肺水腫(肺が水を含んだスポンジのようになった状態)になると考えられています。
原因は多岐にわたりますが、肺に直接ダメージを与えるものとしては肺炎、誤嚥、溺水などがあります。肺に直接的なダメージを与えないものの全身に強い炎症を引き起こす病態としては敗血症、膵炎、重症外傷などが挙げられます。また、中毒(薬物、ガスなど)、輸血、抗がん薬や抗リウマチ薬などの副作用としても急性呼吸窮迫症候群が引き起こされることが知られています。
症状
急性呼吸窮迫症候群は、上述した原因の発症から1週間以内に発症し、息切れ、呼吸苦、頻呼吸などの症状から始まって急速に呼吸状態が悪化します。
また、肺水腫になると正常な呼吸ができなくなり、体に必要な酸素が不足して手足の先端や唇が紫色になるチアノーゼがみられるようになります。さらに著しい酸素不足が生じると心臓や脳の機能にも異常を生じ、頻脈、不穏(落ち着きがない状態)、異常興奮などの精神症状が現れることがあります。
検査・診断
急性呼吸窮迫症候群が疑われるときは、以下のような検査が必要になります。
画像検査
肺の状態を確認するため、X線検査やCT検査などの画像検査を行います。
急性呼吸窮迫症候群では、両側の肺に異常な影がみられるのが特徴であり、診断基準の1つです。
血液検査
炎症の程度などを評価するため、血液検査を行います。
血液検査のみで急性呼吸窮迫症候群の診断ができるわけではありませんが、重症度を評価したり、原因となる病気を調べたりするために行います。
また、この病気は心不全と非常に似た画像所見や症状を示すことがあるため、鑑別するために心不全で上昇するBNPなどの物質を測定することもあります。
動脈血ガス分析
動脈血の中に含まれる酸素、二酸化炭素、乳酸、ヘモグロビン、電解質、血糖などを調べる検査です。急性呼吸窮迫症候群では、動脈血中の酸素分圧が著しく低下します。投与している酸素の濃度と、そのときの動脈血液内の酸素分圧の比を測定することで、急性呼吸窮迫症候群の重症度を評価します。
治療
急性呼吸窮迫症候群そのものの治療法は現在のところ確立していません。進行や悪化を防ぐために原因となっている病気や外傷の治療を行いながら、肺の状態が悪化しないように綿密な人工呼吸器管理が必要です。人工呼吸器で酸素投与が不十分な場合には体外式膜型人工肺が必要になることもあります。原因疾患が改善しない場合や呼吸管理が適切に行われなかった場合、肺以外の臓器不全が進行し、多臓器不全に陥り命に関わるケースもあります。
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