胸膜腫瘍とは、肺・心臓・気管などの臓器を覆う“胸膜”という部位に発生する腫瘍のことです。胸膜は2層構造であり、臓器に近いほうを“臓側胸膜”、肋骨や周辺の筋肉に近いほうを“壁側胸膜”といいます。2枚の胸膜の間には普段から少量の胸水が存在しており、肺や胸の動きを円滑にする役割を果たしています。
腫瘍と耳にすると、がんなどの悪性腫瘍のイメージが強いですが、胸膜腫瘍の中には良性腫瘍もあります。本記事では、良性の胸膜腫瘍の特徴や、悪性の胸膜腫瘍との鑑別法などについてご紹介します。
胸膜腫瘍には種類がありますが、代表的なのが“悪性胸膜中皮腫”という胸膜から発生する悪性腫瘍(がん)です。このほか、ほかの臓器で発生したがんが胸膜に転移したものもあります。
また、頻度は低いものの悪性以外の胸膜腫瘍もあり、良性と悪性の中間を指す腫瘍として“孤立性線維性腫瘍(SFT)”があります。
まず悪性腫瘍と良性腫瘍の違いを理解しましょう。
体の中に生じる細胞の塊のことを“腫瘍”といい、大きく悪性と良性に分けられます。中でも悪性腫瘍とは、細胞が無秩序に増殖し、周辺に滲み出るように広がったり、ほかの部位に転移したりする腫瘍を指します。良性腫瘍と比較すると大きくなる速度が早い傾向にあり、治療で切除した後に再び発生する可能性も少なくありません。
一方で、良性腫瘍はゆっくりと大きくなる可能性はありますが、周辺に滲み出すように広がったり、転移をしてしまったりすることはほとんどありません。また一度治療で取り除いてしまえば、再び発生することもほとんどありません。
次に、良性と悪性の中間に分類される孤立性線維性腫瘍(SFT)を解説します。これは軟部組織腫瘍の仲間で、“良悪性中間的腫瘍”と呼ぶこともあります。軟部腫瘍における良悪性中間的腫瘍は、手術で腫瘍を取り除いた場合、悪性腫瘍のように再発する可能性を持っていますが、その一方で転移する性質がないことから良性腫瘍に似た性質も持っていることが特徴です。孤立性線維性腫瘍の半数以上は、肺の外側を覆う臓側胸膜から発生するといわれています。
また、かつては“限局性胸膜中皮腫”や“良性中皮腫”などと呼ばれてきました。しかし近年、胸膜以外にも頭頸部や四肢、体幹などにも発生することが分かってきたため、“孤立性線維性腫瘍”と名称が変更されました。
孤立性線維性腫瘍は、無症状のうちに胸部CT検査などで偶然発見されることもあります。しかし腫瘍が大きくなってくると、咳や胸痛、呼吸困難などの症状がみられることが一般的です。
胸膜腫瘍では、臓側胸膜と壁側胸膜の間に大量の胸水がたまっていれば、胸に細い針を刺して胸水を採取し、検査を行います。胸水中にがん細胞が確認されれば、胸膜の悪性腫瘍であることが分かり、続けてどのタイプの悪性胸膜腫瘍であるかを調べる検査が行われます。
胸膜腫瘍は胸部CT検査で発見できることが一般的です。腫瘍が大きい場合には胸部X線検査で確認できることもあります。腫瘍が見つかった場合、太い針で腫瘍組織を採取したり、胸腔鏡という内視鏡を使って組織を採取したりすることも検討されます。ただし良悪性中間的腫瘍である孤立性線維性腫瘍の場合、手術前に確定診断を行うことは困難であり、手術で摘出した腫瘍を検査することで初めて診断がつくことが一般的です。
孤立性線維性腫瘍では、手術による切除が標準的な治療といわれています。前述のとおり、手術で腫瘍を摘出することは、治療という側面だけでなく確定診断のためにも必要です。手術は胸腔鏡手術*で行われることが一般的です。しかし、腫瘍が大きく胸腔鏡だけでは切除が困難な場合は開胸手術となることもあります。
手術で完全に切除できれば、比較的予後のよい腫瘍であるといわれていますが、患者によっては再発を繰り返したり、別の部位へ転移(遠隔転移)したりすることもあります。
*胸腔鏡手術:胸に小さな穴を数か所開け、内視鏡や手術器具を挿入して画面を見ながら行う手術。
胸膜腫瘍といえば、悪性胸膜中皮腫が代表的ですが、中には孤立性線維性腫瘍のように良性と悪性の中間を指す腫瘍もあります。
孤立性線維性腫瘍は無症状の場合もありますが、腫瘍が大きくなると咳や胸の痛み、呼吸困難などの症状が現れることもあります。気になる症状が続くときは医療機関を受診するようにしましょう。
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