概要
胸膜とは、胸の中にある心臓、肺、気管、大血管などの臓器を覆っているものです。胸膜は主に中皮細胞によって構成されているため、中皮と呼ばれることもあります。胸膜腫瘍とは、胸膜にできる腫瘍のことをいいますが、胸膜中皮腫や孤立性線維性腫瘍などのように胸膜そのものから発生した腫瘍と、他の臓器のがん(肺がん、乳がんなど)から胸膜に転移した腫瘍の大きく二つに分けられます。
胸膜から発生する腫瘍のなかでも、胸膜中皮腫はアスベスト(石綿)との関係が指摘されている悪性腫瘍です。孤立性線維性腫瘍は、多くは良性腫瘍ですが、一部は悪性といわれています。いずれも腫瘍を完全に切除することが主な治療方針となります。他の臓器のがんから転移した胸膜腫瘍については、各々のがんの診断・治療に準じますが、遠隔転移していることになるため進行がんに該当します。
原因
胸膜中皮腫は、胸膜中皮細胞から発生する悪性腫瘍で、アスベスト(石綿)という繊維状鉱物を長期的あるいは大量に体内に取り込むことで発症するといわれています。そのため、現在ではアスベストは使用禁止になっています。
孤立性線維性腫瘍は胸膜の間葉系細胞と呼ばれる細胞から発生する腫瘍であり、原因となる環境因子や遺伝因子は不明です。
他の臓器のがん(肺がん、乳がん、胃がんなど)から転移した胸膜腫瘍については、それぞれのがんが進行して、転移することによって発生します。
症状
胸膜中皮腫の場合、胸痛と労作時の呼吸困難が主な症状となります。早期では症状はありませんが、胸膜に広がってくると胸や背中の痛みを感じるようになり、徐々に痛みは強くなります。また、腫瘍がさらに広がり分厚くなってくると息苦しさを伴うようになります。胸水が増えてくる場合には、胸の圧迫感や労作時の呼吸困難がひどくなってきます。
孤立性線維性腫瘍の場合、通常無症状で胸部X線写真や胸部CTでたまたま発見されることが多いです。しかし、良性腫瘍でもサイズが非常に大きい場合や悪性の場合は、胸の痛みや息苦しさを感じることがあります。腫瘍随伴症候群として、ばち指と呼ばれる爪・指の変形、関節炎、低血糖などを引き起こすことが報告されています。
他の臓器のがんから転移した胸膜腫瘍の場合、胸痛を感じることが多いです。また、胸水がたまることも多く、胸の圧迫感や労作時の息切れを感じることもあります。
検査・診断
いずれの疾患でも、胸部単純X線写真や胸部CTを行って、病変の広がりや胸水の量を調べることができます。また、MRI検査によって、腫瘍と他臓器との境界を評価したり、FDG-PET/CT検査で悪性腫瘍かどうかの判断や転移の有無を評価したりすることができます。
確定診断には胸水あるいは胸膜の一部を採取して、病理診断を行う必要があります。しかし、胸水から腫瘍細胞が検出されないことも多く、体の外側から針を刺して採取した組織でも診断できないことがある(とくに胸膜中皮腫の場合)ため、胸腔鏡検査で外科的に胸膜を採取することもあります。なお、他の臓器のがんから転移した腫瘍の場合、治療方針が変わるケースを除いて、病理診断を行わずに臨床的に診断することも多いです。
治療
胸膜中皮腫の場合、腫瘍の進行度や患者さんの全身状態を考慮して総合的に判断します。最も有効な治療は、外科的に腫瘍を取りきることです。胸膜、肺、横隔膜、心膜の一部を一塊で取りきる胸膜肺全摘術や肺を温存する胸膜切除・肺剥離術などが行われます。放射線療法や化学療法を追加で行うことも多いです。
孤立性線維性腫瘍の場合、良性であっても悪性であっても腫瘍を完全に取りきることを目標に手術を行います。病理診断の結果をみて、悪性であれば化学療法や放射線療法を追加で行うこともありますが、現時点で有効とされる化学療法はありません。そのため、肺がんなどの他のがんに対する化学療法が行われることが多いです。
他の臓器のがんから転移した腫瘍の場合、それぞれのがんの治療を行います。転移しているため、化学療法が中心の治療となります。胸水がたまっている場合には、針を刺して水を抜いたり、癒着術を行ったりして、これ以上水がたまらないようにする治療を行うこともあります。
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