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インタビュー

中皮腫とはーアスベストの吸引によって発症する

中皮腫とはーアスベストの吸引によって発症する
多田 裕司 先生

千葉大学大学院医学研究院 呼吸器内科 講師

多田 裕司 先生

悪性中皮腫(中皮腫)とは、かつて日本中で断熱材として使用されていたアスベスト(石綿)によって中皮組織ががん化する病気です。肺がんと混同されやすいものの、両者は全くの別物であり、中皮腫の病態はいまだに不明な部分が多く残っています。そもそもアスベストとはどのような物質で、なぜアスベストによって中皮腫という病気になってしまうのでしょうか。今回は中皮腫について、千葉大学呼吸器内科講師の多田裕司先生にお伺いします。

中皮の構造

中皮とは、肺の外側や心臓の外側を覆っている薄い膜様組織の総称です。中皮は中皮細胞と少量の結合組織で構成されており、覆っている場所によって名称が異なります。

胸腔を覆う中皮は「胸膜」、心臓を覆う中皮は「心膜」、腹腔を覆う中皮は「腹膜」とそれぞれ呼ばれます。

中皮腫とは中皮細胞から生じるがんで、発生した部位により「胸膜中皮腫」「心膜中皮腫」「腹膜中皮腫」の3種類に分類できます。

なかでも胸膜中皮腫は発生する部位が近いことから肺がんと混同される傾向にありますが、胸膜中皮腫が肺の外側の胸膜にできるのに対して、肺がんは肺の中にできる疾患です。また、肺がんの場合、胸膜への転移は見られても最初から胸膜に出てくるケースは多くありません。つまり、肺がんと中皮腫は全く別の病気ということになります(詳細は記事2『胸膜中皮腫の症状と検査、治療―治療が難しい病気だからこそ「諦めない」ことが大事』)。

中皮腫には、限局型とびまん性の2種類があります。

限局型とは文字のとおり、病変が限局している状態であり、ほぼ一カ所に腫瘍がみられる中皮腫の初期段階です。ごく一部の方が、健診などを受けた際に偶然、限局性中皮腫(初期状態での発見)と診断される場合があります。

中皮腫の患者さんのうち、80%程度は悪性胸膜中皮腫といわれています。

肋骨や肋間筋が付着する胸壁の内側を覆っている膜を壁側胸膜(へきそくきょうまく)といいます。壁側胸膜の中に肺が収まっていますが、肺の外の膜が臓側胸膜です。その間を胸くうと呼びます。悪性胸膜中皮腫ははじめ壁側胸膜から発生します。

症状は原因不明の胸水(きょうすい:胸に水がたまること)から始まり、一時的に胸水が減りますが、やがて全てがん細胞に置き換わるような形で病気が進行していきます。やがて咳や肋間神経痛のような痛みといった症状が起こり、さらに症状が進行すると肺が腫瘍に閉じ込められて動きが低下し、呼吸困難をきたします。

悪性心膜中皮腫は心膜にのみ発生し胸膜にまで及んでいない状態です。心臓の周りに水がたまり心不全の状態で発見されます。さらに進行すると腫瘍が心臓を取り囲み心臓の動きを妨げます。

呼吸器内科の専門外になりますが、腹膜中皮腫もアスベストとの関連が指摘されています。腹水で発見され、卵巣がんの診断で手術をして初めて腹膜中皮腫の診断がつくケースもあります。

中皮腫は症状からすぐに診断できる疾患ではありません。さまざまな検査を行っても原因が分からず、抗生物質の投与や結核の治療を試しているうちに胸水が自然に減少することがあるため、医師でさえも「たまたま治った」と誤解してしまいがちです。しかしそのまま放置すると、半年~1年後に中皮腫であることが判明したときには、もはや手の施しようがないほど進行しています。

また前述したように、肺がんと誤診されるケースもありますが、基本的に悪性胸膜中皮腫は肺くうのなかで増殖するタイプのがんであるため、末期まで遠隔転移しません。一方、肺がんでは早期からよく遠隔転移がみられるという特徴があります。

ただし、腫瘍が血管を食い破って血管内に侵入するとがん細胞が全身にばらまかれてしまいます。このような状態に陥ると、患者さんが一カ月程度で死亡してしまう可能性があります。

中皮腫は、アスベストという化学物質を長期的あるいは大量に体内にとりこむことで発症します。

様々なアスベスト

様々なアスベスト(画像は厚生労働省より引用)

2006年より、日本でのアスベストの使用は全面的に禁止されていますが、2016年現在では、アスベスト使用の全面禁止からまだ10年程度しか経っていません。つまり、それまではアスベストを制限なく使用していたという経緯があるため、現在40~50歳以上の年齢の方で特にアスベストを使用する仕事に就いていた方は、アスベストを吸っている可能性があります。また職業で吸入していなくても、建物の断熱材として使用されていた時代があるため環境暴露で吸入していたのではないかと思われる患者さんもおられます。

また、経済発展が著しい、中国、ロシア、東欧、インドなど海外諸国は、現在でも非常に多くのアスベストを輸入・使用しています。そのため、日本や欧米では患者数が長期的には減っていく一方、世界的にみると中皮腫がかなりの速度で増加する可能性が高いといえます。

曝露には短期曝露と長期曝露の2種類があり、長期間少量のアスベストを吸い続けても、短期間で大量のアスベストに曝露しても中皮腫を発症する可能性があります。曝露から20~40年程度の期間を経て発症するといわれますが、どのくらいの量のアスベストを吸うと中皮腫を発症するのかにも個人差があり、たとえば5年で発症する方もいます。とはいえ、病因は不明であり、どの程度体質と関係があるのかもわかっていません。ちなみに喫煙との関連は証明されていません。

では、なぜ中皮腫は何十年という長い経過を経て発症するのでしょうか。これには、アスベスト線維の構造と呼吸のメカニズムが関係しています。

アスベストの線維は一本一本が突出しており、針のような構造になっています。このアスベストがリンパに乗って流れていき、肺の中に吸入されると、やがて尖ったアスベスト線維の一本一本が肺の外に飛び出てしまいます。

アスベスト繊維と胸膜の構造

肺の外に飛び出たアスベストの線維は、規則正しく反復される呼吸運動によって上下左右に胸膜を引っ掻き、胸膜細胞を傷害し続けます。傷ついた胸膜細胞が修復され、アスベスト線維によって再び傷つけられるということを繰り返すうち、何らかの発がん因子が作用して中皮腫を発症するのではないかと推定されています。

アスベストが体に吸引される仕組み

中皮腫は、がん細胞の種類により上皮型、肉腫型、二相型という3タイプがあります。重症度や予後は、発生した部位だけではなくこれらの型によっても決まります。

細胞の型

上皮型

肉腫型

二相型

割合

60%

20%

20%

抗がん剤の有効性

有効

効きにくい

肉腫型の割合による

残念ながら、中皮腫の予後は総じて不良です。中皮腫の発生原因はいまだに原因不明な点が多く、画期的な治療法は見つかっていません。また、前述のとおり、何十年も前に吸ったアスベストが原因となっているため予測も難しいといえます。

中皮腫は発症してからの進行速度が速く、多くの方は1年程度で亡くなります。健康診断で毎年レントゲンを撮っていても、年に1回の検査では、よほど運が良くなければ早期で発見されることは多くありません。

※上皮型や二相型でも上皮成分の割合が多い中皮腫は、抗がん剤が有効な場合、生命予後(寿命)が数カ月程度延びます。自然経過(なにも治療をしない状態での経過)では発症後の予後が約8カ月、抗がん剤が有効な場合で約12カ月といわれています。

中皮腫には補償・救済制度が設けられており、労災認定(厚生労働省)と石綿健康被害給付制度(環境再生保全機構)の2種類があります。患者さんは中皮腫の診断がついた時点でこれらの保証制度を使って医療費を節約されることをお勧めします。

しかし補償制度には問題点もあります。申請書類を提出する際、申請者は当時勤めていた職場や従事していた仕事の内容、発症に至るまでの経緯を詳細に記入する必要があります。しかし、中皮腫はアスベスト曝露から数十年の経過で発症するため、ご本人が当時の状況を覚えていないことが多いのです。さらに会社がなくなっていたり、連絡がつかないこともよくあります。このような理由で申請から認可までかなりの時間を要し、患者さんが最も必要なタイミングで給付が行われないことがあります。

今後、患者数が増えると社会問題にもなりかねないので、今から私たち医師も社会にきちんと働きかけていかなければならないと思います。(詳細は記事2『胸膜中皮腫の症状と検査、治療―治療が難しい病気だからこそ「諦めない」ことが大事』

 

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