胸膜中皮腫とは、主にアスベストの吸入によって胸膜に発生する腫瘍(中皮腫)を指します。手術が可能な状態であれば、「胸膜外肺全摘術(EPP)」もしくは「胸膜切除剝皮術(P/D)」という方法が勧められます。治療の際は主治医とよく相談して、経験豊富な外科医のもとで手術を受けるようにしてください。
今回は、胸膜中皮腫の手術について、岡部和倫先生にご解説いただきました。
胸膜外肺全摘術(EPP)は、胸膜、肺、心膜、横隔膜をすべて取る手術です。手術のあとには放射線をあて、さらに抗がん剤を行うことで、がん細胞の取り残しによる再発を防ぎます。難しい手術とされており、術者には技術と豊富な経験が必要です。
胸膜切除剝皮術(P/D)と比べて腫瘍減量効果が高いことが特徴です。胸膜外肺全摘術(EPP)は肺を摘出しますが、胸膜切除剝皮術(P/D)は肺を摘出しないためです。
胸膜外肺全摘術(EPP)は、以下のような患者さんには実施することができません。
など
実施可能な患者さんは、心臓・肺の機能が維持されていて、大きな合併症のない人です。
合併症…ある病気や、手術や検査が原因となって起こる別の症状。
世界肺癌学会(IASLC)のMPMデータベースによると、ステージⅠの胸膜中皮腫について、胸膜外肺全摘術(EPP)を受けた患者さんの生存期間中央値は40か月、胸膜切除剝皮術(P/D)を受けた患者さんの生存期間中央値は23か月でした。[注1]このことから、手術が可能な胸膜中皮腫に対して胸膜外肺全摘術(EPP)を第一選択とする方針は妥当であると考えられます。
[注1]…Rusch VW,et al. J Thorac Oncol 7:1631-9,2012
胸膜切除剝皮術(P/D)は、胸膜のみを剥ぐように切除する術式です。肺を残すので患者さんの体力的な負担が少ないことが特徴です。胸膜外肺全摘術(EPP)が不適応の患者さんでも実施することができます。ただし、胸膜外肺全摘術(EPP)よりも時間を要し、出血量も多い術式です。
腫瘍減量効果は、胸膜外肺全摘術(EPP)よりも低いとされます。また、術後に放射線を照射できないため、再発リスクは胸膜外肺全摘術(EPP)よりも高くなります。
胸膜外肺全摘術(EPP)と胸膜切除剝皮術(P/D)のどちらを選択するのか、その見解は医師によって異なります。胸膜外肺全摘術(EPP)で良い成績が出ている外科医の場合は、腫瘍減量効果が高い胸膜外肺全摘術(EPP)を選択するでしょう。一方、胸膜切除剝皮術(P/D)を第一選択とする医師もいます。
手術方法は、術者や施設、患者さんの状態など、さまざまな要素を考慮しながら選択されるものであり、胸膜外肺全摘術(EPP)と胸膜切除剝皮術(P/D)の単純比較をすることはできません。
中皮腫の手術について、その効果ははっきり証明されていません。未確立である理由としては、以下のようなことが挙げられます。
など
難しい手術や、患者さんの数が少ない手術ほど、実績のある病院で受けたほうがよいと考えられます。経験豊富な術者が担当すれば、手術時間を短く済ませるなど、患者さんの負担を減らすよう調整することもできます。
中皮腫は特に治療が難しい病気です。患者さんのなかには、患者・家族会で情報を交換して、経験豊富な病院を受診される方もいるでしょう。手術の経験が少ない医師は別の病院に患者さんを紹介することもあります。主治医とよく相談して、経験豊富な外科の医師のもとで手術を受けるようにしてください。
中皮腫は、病気の性質上、再発したり転移したりする恐れがあります。そこで、治療成績のさらなる向上が望まれています。新しい治療薬が開発されれば治療成績が改善する可能性があります。中皮腫の治療薬の開発が期待されます。
中皮腫の手術を受けた方は、残った肺を大事にしましょう。たとえば、寝たまま飲んだり食べたりしないよう気を付けてください。ベッドに寝たままでは「誤嚥」が起きて、残った肺に肺炎が起こる恐れがあります。
その他、可能であれば散歩などで体を動かすこと、横隔膜を再建した手術直後には便秘に注意することが大切です。
気になることがあるときは、早い段階で、経験豊富な専門医にかかるようにしてください。痛みを我慢しないことも大切です。治療中は主治医がついているものですが、治療後も気兼ねなく専門医に相談するようにしましょう。
ベルランド総合病院 呼吸器外科 部長
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