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アスベスト(石綿)が原因となることが多い「悪性胸膜中皮腫」とは?

アスベスト(石綿)が原因となることが多い「悪性胸膜中皮腫」とは?
上原 隆志 先生

横須賀市立うわまち病院 呼吸器内科部長心得

上原 隆志 先生

目次
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肺を覆う胸膜の中皮細胞から発生する「悪性胸膜中皮腫」。悪性胸膜中皮腫は、かつて建材などに多用されてきたアスベスト(石綿)の吸入によって発症することが多いがんです。

今回は、横須賀市立うわまち病院 呼吸器内科部長心得である上原隆志先生に悪性胸膜中皮腫についてお話を伺いました。

悪性中皮腫とは?

臓器を覆う膜を構成する中皮細胞ががん化したもの

肺

私たちの臓器は、胸膜や心膜、腹膜といった薄い膜に覆われており、それらの膜は中皮細胞から成り立ちます。その中皮細胞から生じるがんを「悪性中皮腫」と呼びます。

悪性中皮腫は、発生した部位によって、大きく以下の4つに分類されます。

  • 悪性胸膜中皮腫…胸膜に発生する中皮腫
  • 悪性腹膜中皮腫…腹膜に発生する中皮腫
  • 悪性心膜中皮腫…心膜に発生する中皮腫
  • 悪性精巣鞘膜()中皮腫…精巣鞘膜*に発生する中皮腫

*精巣鞘膜…精巣を覆う薄い膜

悪性中皮腫の多くを占める「悪性胸膜中皮腫」

主な原因はアスベスト(石綿)の吸入

4つの悪性中皮腫のうち、もっとも多くを占めているのが「悪性胸膜中皮腫」です。悪性胸膜中皮腫は、アスベスト(石綿)の吸引が主な原因であるといわれています。

アスベストとは天然鉱物の一種で、安価でありながら加工しやすく、断熱性や耐久性にも優れているという理由から、1970年代前後に建材を中心に多用されていました。

しかし、アスベストを吸入することによって、悪性中皮腫をはじめとした健康障害を引き起こすことが分かり、現在では使用が全面的に禁止されています(アスベストについては、「記事1」で詳しく解説しています)。

アスベストを吸入後、40〜50年後に発症することが多い

悪性胸膜中皮腫は、アスベストを吸入して、すぐに発症するわけではありません。個人差はあるものの、初めてアスベストを吸入してから、40〜50年と長い年月を経て発症することが多いといわれています。

悪性胸膜中皮腫の症状

息切れ、咳、胸の痛み(鈍痛や絞扼感)

悪性胸膜中皮腫の主な症状は、息切れや咳、胸の痛みです。なかでも、胸の痛みは悪性胸膜中皮腫の特徴的な症状です。

悪性胸膜中皮腫では、胸腔内*に水が溜まる「胸水」が多くの患者さんにみられます。通常、胸水だけで痛みを感じることはありません。しかし悪性胸膜中皮腫では、がん細胞が胸腔内に広がるがん性胸膜炎を伴っていることが多く、これによって痛みの症状が現れます。そのため、胸の痛みを訴え、なおかつ胸水が認められる場合には、悪性胸膜中皮腫を疑います。

胸の痛みは、重苦しく感じる痛みであることが特徴です。

*胸腔…肺を覆う臓側胸膜と壁側胸膜の間にある空間

悪性胸膜中皮腫の診断

症状から診断に至ることが多い

悪性胸膜中皮腫は、先ほどお話ししたような呼吸器症状から診断に至るケースが多いです。そのほか、健康診断でみつかることもあります。

確定診断までの流れ

顕微鏡

胸部レントゲン撮影、胸部CT検査

悪性胸膜中皮腫が疑われる場合、はじめに胸部レントゲン検査や胸部CT*検査を行います。胸部CT検査では、造影剤という検査薬を点滴で静脈から注入することで、さらに詳しい検査を行うこともあります。

*CT…エックス線を使って身体の断面を撮影する検査

胸腔穿刺

先述した通り悪性胸膜中皮腫では、胸腔に胸水が溜まっていることが多いです。そこで、胸水のなかにがん細胞がいるかどうかを確かめるために、皮膚から針を刺して胸水を抜く「胸腔穿刺」と呼ばれる検査を行うことがあります。抜き取った胸水は、病理診断にかけて顕微鏡で詳しく観察します。

ただし、これだけで悪性胸膜中皮腫の確定診断が得られることは少なく、最終的な確定診断として、次にお話しする胸腔鏡検査を行います。

胸腔鏡検査

胸腔鏡検査は、胸腔鏡*で胸腔内を観察しながら、胸膜組織の一部を採取し、採取した組織を顕微鏡で詳しく調べる検査です。

*胸腔鏡…胸の中を観察するための小型カメラ

悪性胸膜中皮腫の治療

外科手術、放射線治療、抗がん剤治療、がん免疫療法

悪性胸膜中皮腫では、病気の進行度によって「外科手術、放射線治療、抗がん剤治療、そして、がん免疫療法」から治療法を選択し、これらを組み合わせた治療を行います。

外科手術には、「胸膜肺全摘術(以下、EPP:extrapleural pneumonectomy)」と「胸膜切除/肺胸膜剥皮術(以下、P/D:pleurectomy/decortication)」の大きく2通りの方法があります。

胸膜肺全摘術(EPP)は、がんのある側の胸膜と肺を全て摘出する手術です。

一方の胸膜切除/肺胸膜剥皮術(P/D)は、肺の表面から胸膜だけを剥がす手術です。EPPと違い、肺を温存することができるため、近年は悪性胸膜中皮腫の外科手術としてP/Dが見直されています。

また、外科手術の治療効果を高めたり、痛みを和らげたりするために、放射線治療や抗がん剤治療を行います。

抗がん剤の効果が十分に得られない場合には、がん免疫療法を行うこともあります。がん免疫療法とは、免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれる薬を使って、私たちの体にもともと備わっている免疫力を使って、がん細胞への攻撃力を高める治療です。悪性胸膜中皮腫では、ニボルマブという免疫チェックポイント阻害剤が用いられます。

上原隆志先生からのメッセージ

上原先生

悪性胸膜中皮腫は、できるだけ早くみつけて治療を行うことが大切です。そのため、アスベストの職業性ばく()(さらされること)が明らかな場合には、石綿健康管理手帳*の交付を受けて、定期的な検診を受けていただくことをおすすめします。

当院では、アスベストによる健康障害を専門的に診療する外来を設置し、アスベストによる健康障害に関するご相談や検診、治療に対応しています。患者さんの不安をできるだけ和らげ、共に前向きな気持ちで診療にあたっていきたいと思います。

*石綿健康管理手帳…過去にアスベスト業務に従事していた離職者の健康管理を行うために、国から発行される手帳。