概要
悪性胸膜中皮腫とは、“中皮”と呼ばれる組織から発生するがんのことです。
“中皮”とは、肺を覆う“胸膜”・心臓を覆う“心膜”・消化器官を覆う“腹膜”・精巣および精巣上体を覆う”精巣鞘膜”の組織のことを指します。このうち、胸膜の中皮から発生するがんが悪性胸膜中皮腫です。
悪性胸膜中皮腫はアスベストの吸引によって発症が増えることが分かっています。アスベストは1980年代頃まで建材などに広く用いられてきましたが、現在は全面的に使用が禁じられています。アスベストの粉末を吸い込んでから発症までに40年ほどかかるとされており、現在でもアスベストにさらされた当時の建設業者などが発症した場合は、労災認定される制度や国独自の救済制度が整っています。また、アスベストの吸入が少ないことが予想される人にも中皮腫は発症します。
この病気は進行すると胸の痛み、咳、発熱などが引き起こされますが、早期の段階での発見は難しいとされています。さらに治療も難しく、早期の段階で発見された場合でも5年生存率は15%以下と報告されています。
原因
悪性胸膜中皮腫は、ほとんどがアスベストの粉末を吸引することによって発症すると考えられています。
アスベストは自然の鉱物の一種ですが、非常に細かい繊維となって空気中に飛散します。さらに、飛散した線維は比較的長い間空気中を漂うため、アスベストが飛散している環境にいると呼吸によって体内へ吸入されやすいとされています。
吸入されたアスベストは肺に沈着し、平均40年ほどの時間をかけて徐々に肺の組織に線維化を引き起こし、最終的には悪性胸膜中皮腫や肺がんを引き起こすと考えられています。
また、中皮腫の原因の多くはアスベストによるものですが、アスベストと関係のない発症や遺伝子変化による発症も報告されています。
症状
悪性胸膜中皮腫を進行すると胸の痛み、咳などの一般的な呼吸器症状が引き起こされ、肺に水(胸水)がたまることで呼吸困難や胸部圧迫感といった症状が生じるとされています。
また、同時に発熱や理由がつかない体重減少などが見られることも少なくありません。
なお、悪性胸膜中皮腫は一か所にがん組織の固まりを形成して進行する“限局性”と広範囲の胸膜に広がって小さなしこりを形成する“びまん性”という二つのタイプがあります。
特にびまん性は多量の胸水がたまりやすく、呼吸困難などの症状が現れやすいのが特徴です。
検査・診断
悪性胸膜中皮腫が疑われるときには次のような検査が行われます。
画像検査
がんの大きさや位置、広がり、転移の有無などを調べるための検査です。
悪性胸膜中皮腫は、胸部X線検査、CT検査などで描出することが可能ですが、肺がんなどほかの肺疾患との区別がつきにくいことも少なくありません。
血液検査
悪性胸膜中皮腫は一般的な肺炎や、うっ血性心不全などと似たような症状が引き起こされます。そのため、ほかの病気との鑑別を行うために、炎症反応の有無・肺がんの腫瘍マーカーの有無などを調べるための血液検査を行います。
胸水検査
胸水の一部を採取して、顕微鏡で詳しく調べる検査です。胸水を採取するには、皮膚から胸腔内(肺のある胸の空間)に針を刺さなければならず、体の負担は大きくなります。しかし悪性胸膜中皮腫は、胸水中に多数の特徴的ながん細胞が見られるようになるため、診断を下すうえで非常に有用な検査とされています。
胸膜生検
胸膜の組織を採取する手技で、皮膚からエコーやCTで見ながら取る方法や、胸腔内にカメラを入れて直接採取する方法があります。体への負担が多少かかりますが、胸膜中皮腫の診断を確実にするためには一番有用な検査です。
病理検査
病変部の組織の一部を採取して、顕微鏡で詳しく調べる検査です。悪性胸膜中皮腫の確定診断には必須の検査とされています。病変組織の採取は、気管支鏡検査と同時に行われることもありますが、胸の一部を切開して胸膜に発生した腫瘍を直接採取する方法で行われることも少なくありません。
治療
悪性胸膜中皮腫の治療は、手術、抗がん剤治療、放射線治療と多岐にわたります。
“限局性”のもので他部位に転移していない場合は、手術による完全切除がすすめられています。しかし、場合によっては肺も切除しなければならないことも多く、身体的な負担が大きくなります。さらに、悪性胸膜中皮腫は再発を繰り返すことも多いため、手術後に再発を予防するための抗がん剤治療や放射線療法を併用して行うこともあります。
一方、がんが胸膜の広範囲にわたっている“びまん性”のものは手術が困難なため、抗がん剤治療や放射線療法が選択されます。
進行して胸水がたまるようになり呼吸困難などの症状が強く現れる場合には、“胸水ドレナージ術”によって胸水を排除したり胸腔内に胸膜癒着剤を投与したりして、胸水の産生を制御する“胸膜癒着療法”などの対症療法を行っていくのが一般的です。
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