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インタビュー

悪性胸膜中皮腫は手術治療が難しいがん——定期検診の重要性について

悪性胸膜中皮腫は手術治療が難しいがん——定期検診の重要性について
鈴木 実 先生

熊本大学病院  呼吸器外科教授

鈴木 実 先生

悪性胸膜中皮腫はその性質上、手術による治療が難しく、仮に手術を行ったとしても再発する可能性があるため、手術の是非については様々な議論がなされています。悪性胸膜中皮腫は治療が困難ながんですが、症状が現れない早期段階で腫瘍を発見し適切な治療が行われれば、患者さんの寿命が延びてくる可能性は残されているといえます。現在は免疫治療の悪性胸膜中皮腫に対する応用が期待されており、定期検診の普及と合わさることで、将来的には悪性胸膜中皮腫の治療がさらに発展してくる可能性もあるといわれています。記事1『画像でみる悪性胸膜中皮腫——検査と診断が難しい難病』に引き続き、熊本大学病院呼吸器外科教授の鈴木実先生に、悪性胸膜中皮腫の手術・薬物治療の発展・CTの定期検診についてお話しいただきました。

記事1『画像でみる悪性胸膜中皮腫——検査と診断が難しい難病』で、悪性胸膜中皮腫は予後が悪く治療が難しい病気であることをご説明してきました。ではなぜ、悪性胸膜中皮腫は治療が難しいのでしょうか。その理由は、胸膜の位置とそこに発生するがん、そして他の臓器との距離感にあります。

胸膜組織構成

胸膜は、がんの浸潤(しんじゅん:別の組織や臓器にがんが及ぶこと)を阻むバリアのような役割も果たしている組織です。

悪性胸膜中皮腫と混同されやすい疾患に肺がんがありますが、肺に生じる肺がんの場合は肺と肋骨部のマージン(余白)が大きく、胸膜はがんにとって飛び越えなくてはならない壁となります。

脳に転移した場合など、肺がんが遠隔転移した場合は状況が異なりますが、浸潤という観点では、がん細胞が肺の中にあり膜でバリアされている肺がんのほうが治療しやすいといえます。

一方、悪性胸膜中皮腫は上図のように、胸膜の表面に発生するがんです。胸膜の厚さは数ミリ程度であり、胸膜表面から腫瘍細胞がこぼれると容易に胸腔全体に播種を起こします。また、逆に体表向きに浸潤すると肋間筋、肋骨に入り込んでいきます。がん細胞が手術で摘出できる限界のラインよりも外側に浸潤した場合、中皮腫が再発する可能性は非常に高くなります。

このように、中皮腫は肋間部や肋骨部への距離が短くて浸潤しやすく、浸潤した場合には手術ですべてのがんを取りきることが難しいため、治療が困難といわれているのです。

ですから私たちは、術前に記事1『画像でみる悪性胸膜中皮腫——検査と診断が難しい難病』でご説明した検査をしっかりと行ったうえで、確実に悪性胸膜中皮腫であると診断されていなければ手術をしません。前提として、悪性胸膜中皮腫の治療は非常に患者さんの負担が大きく、大規模な手術を要します。ですから、絶対に中皮腫の患者さん以外に中皮腫の治療を行ってはなりません。だからこそ、しっかりと検査を行って鑑別診断しておくことが最も重要になります。

様々な条件を考慮して、手術によるメリットが大きいと判断された場合、手術による治療が行われます。

悪性胸膜中皮腫の手術には、胸膜肺全摘術(EPP)と胸膜切除・肺剥離術(PD)の2つの方法があります。両者の違いは摘出する範囲の広さで、下記のように分類されます。

胸膜、肺、心膜、横隔膜をすべて摘出する

胸膜・心膜・横隔膜を摘出し、肺を残す

つまり、ふたつの術式の違いとは肺を残すか否かです。歴史的には胸膜肺全摘術(EPP)が多く行われており、理論的には不完全切除の可能性の高い胸膜切除・肺剥離術(PD)はあまり成績がよくないと考えられてきました。完全に腫瘍を切除できる可能性は胸膜肺全摘(EPP)のほうが高く、さらに肺をすべて取った場合には術後の放射線治療も行うことができます。

しかしながら、胸膜肺全摘術(EPP)を行ったとしても腫瘍の完全切除は難しいため、再発する確率があります。このような背景から、最近では比較的侵襲性の低い胸膜切除・肺剥離術(PD)の割合が増えてきています。

とはいえ悪性胸膜中皮腫においては、胸膜肺全摘術(EPP)と胸膜切除・肺剥離術(PD)のどちらの術式がよりよい方法であるかがまだはっきりとわかっていません。2017年現在では、適応となった術式の割合は半々か、あるいは胸膜肺全摘術(EPP)が若干多い程度ですが、今後は主流の術式が変わっていく可能性もあるでしょう。

MARSという臨床試験で、悪性胸膜中皮腫に対して胸膜肺全摘術(EPP)を行った症例とそうでない症例を比べてみたところ、わずかながら胸膜肺全摘術(EPP)を受けなかったグループの成績がよかったという結果が出たことがありました。

その後、本試験は症例数が少ない、生存期間が試験の主要効果項目ではないなどの問題があると判明したため、この評価は必ずしもすべての症例に当てはまるものではないといわれています。

ただし、胸膜肺全摘術(EPP)が多くの方に適応できる手術ではないことは確かです。実際に私たちも、手術によってほとんどの腫瘍を取り切れて、なおかつ体力的にも耐えられると予測できる方にしか手術を推奨していません。また、手術を検討できる悪性胸膜中皮腫の病型は上皮型のみであり、肉腫型と二相型の悪性胸膜中皮腫は手術のメリットが低いため基本的には行いません。

悪性胸膜中皮腫に対する胸膜肺全摘術(EPP)は、様々な条件をクリアして初めて検討する術式です。適切な条件下で手術を行えば、生命予後の延長も期待できますが、具体的に何か月寿命が延びるのかについてはデータが出ていないのでわかっていません。しかし、手術をした場合としなかった場合で大きな差はないと予想されています。手術による効果は不明であるものの、肉眼的に診える範囲の腫瘍をすべて取れば生命予後が延びるのではないかという仮説に基づいて勧めている治療法と考えます。

ニボルマブ(オプジーボ®)による免疫治療が昨今、悪性胸膜中皮腫にも効果が期待できる可能性があるとして、世間の注目を集め始めています。

ニボルマブの免疫治療により、悪性胸膜中皮腫の患者さんの生命予後が数か月でも伸びることを私も期待しており、今後の可能性として免疫治療は有望です。将来的には、免疫治療が新しい治療法としてあらわれるのではないでしょうか。

薬 イメージ

CT イメージ

悪性胸膜中皮腫では、症状の出ていない早期段階で診断をつけ、適切な治療を開始することが最も重要になります。繰り返しになりますが、日本ではアスベストの曝露歴がある方への定期検診を推奨しています。

早期発見の可能性をできる限り高めるため、本邦では、アスベストを用いる仕事をしていた経験のある方や、アスベスト取扱い工場近くに居住歴のある方の定期検診を推奨しています。これは、中皮腫の患者さんのほとんどがアスベストに関わった経験を持っているためです。

悪性胸膜中皮腫は造影CTをしなければ発見が極めて困難な疾患です。症状から本疾患を疑うことはできたとしても、胸水や胸痛などの自覚症状が出たときにはすでに進行した状態であるため、手術をしても完治する見込みがありません。ですから、可能な限り早期発見できれば、患者さんの予後が改善する可能性があります。こうした考えに基づき、日本では定期検診を推奨しているのです。※保険適用外

しかし、そもそもどのくらい多くの方がアスベストに曝露しているのか(曝露歴のある方の数)がわかっていませんし、アスベストに曝露したすべての方が悪性胸膜中皮腫や他の中皮腫を発症するわけでもありません。

また、仮に定期検診で悪性胸膜中皮腫がみつかったとしても、それが治療できるものであるかどうかはわかりません。検査を行っても、生存率の向上につながるとは言い切れません。欧米の悪性胸膜中皮腫のガイドラインでは、「スクリーニングは有効なものがない(死亡率の低下が示されない)」とも明示されています。

ただし、もしも日本で定期検診を受けた方に悪性胸膜中皮腫がみつかり、早期治療につながったケースが増えていけば、今後は悪性胸膜中皮腫の治療法もさらに確立されていくかもしれません。早期発見が進むことで、悪性胸膜中皮腫の患者さんの予後も改善していくことが期待できるのです。将来的な可能性という観点からも、アスベストに曝露したご経験がある方は、数年おきに一度のペースで定期検診を受けることをお勧めします。

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  • 熊本大学病院 呼吸器外科教授

    鈴木 実 先生

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