東京曳舟病院では、狭心症や心筋梗塞に対する治療の中でも患者さんへの負担が少ないとされる、橈骨動脈アプローチによるカテーテル治療に力を入れています。橈骨動脈とは手首の血管を指し、カテーテル(細い管)を手首の血管から心臓の冠動脈に送り込む治療法のことをいいます。
今回は、医療法人伯鳳会 東京曳舟病院 循環器センター・循環器科 部長である唐原 悟先生に、同院の取り組みや、力を注ぐ橈骨動脈アプローチによるカテーテル治療の魅力などについてお話を伺いました。
当院は東京都指定二次救急病院であり、可能な限りどんな患者さんも受け入れるよう努めています。当院の理事長は“平等”という理念を掲げており、患者さんが望むのであれば、背景に関係なく可能な限りよい治療を受けてもらいたいというコンセプトで運営しています。
当院の循環器科では、全ての虚血性心疾患の患者さんに対して、原則として手首の血管からカテーテルを挿入して治療する橈骨動脈アプローチでのカテーテル治療を行っています。
大腿動脈(足の付け根の動脈)からのアプローチは、血管に挿入しやすく太いカテーテルを使えるのがメリットですが、出血でのトラブルが起こると致命的になり得ることと、術後にベッド上での安静が必要になる点がデメリットです。患者さんにとってデメリットが少ない治療を実現したいという思いが、私が橈骨動脈アプローチにこだわってきた理由の1つです。
提供できる治療として薬が主である内科医にとって、カテーテル治療は狭心症や急性心筋梗塞の患者さんの症状を改善できるのが最大の魅力でした。私が研修医だった頃は、手首ではなく足の付け根からカテーテルを挿入する方法が一般的でした。急性心筋梗塞の患者さんにカテーテル治療で救命できたにもかかわらず、その後に足の付け根からの出血が止まらず、出血性ショックで亡くなられた方もいたのです。
「心臓の治療は問題なく行うことができたのに出血で患者さんの命を危険にさらしてしまうとは……、一体何をしているんだ?」と強く思ったことを今でも覚えています。もちろんそんなに多いケースではないのでしょうが、我々医師側にとって数少ない一例でも、患者さんにとっては一度しかない命です。当時の上司にも訴えましたが「手からやったら治療の難易度が上がるので、我々が大変だ」と却下されました。
このような経験に加えて、私の師匠が橈骨動脈アプローチによるカテーテル治療に懸命に取り組まれていたことも影響し、私自身もこのアプローチ方法に注力するようになっていきました。当時はまだ橈骨動脈アプローチが一般的なものではありませんでしたので、学会で発表するたびにかなりの批判を受けました。
どんな症例でも手首から治療を完遂できるようにするためには、どう工夫すればより安全で有効か。手首から挿入してもリスクが少なく、適切な効果が得られるガイドカテーテルの開発を行ったり、大きな学会や研究会で友人と呼べる医師たちと議論し合ったりすることで今の私の治療スタイルにたどりつきました。
皆さんは知らない人にいきなり相談できますか。私の父は開業医だったので、中核病院のあまり知らない先生に相談するのはとてもハードルが高かったと聞かされていました。それが地元の中核病院に就職して知り合いを作ってから、開業される先生が多い理由の1つです。
開業医の先生方が困ったときにすぐ対応できる病院が近くにあることが重要で、そしてその連携を強化することで、その地域をよりよい医療圏に変えていくことができると考えています。
私どもは地域の開業医の先生たちに顔を覚えていただくために、積極的に医師会に参加し、定期的に各施設にご挨拶にも伺っています。また、Doctor to Doctorで直接患者さんの情報をやりとりできるように、当院では24時間対応できるホットラインを開設しているのです。
また、治療の主役は我々医療者ではなく患者さんです。そのためには病気と闘う患者さんにはより高い知識を持っていただき、「お医者さんに任せます」ではなく、「よりよい治療を選択します」という思考に変えていただく必要があります。最近はコロナ禍でなかなか企画できていませんが、定期的に施設や市民会館に出向き医療講演を行うことで、患者さんと一緒に、この地域での医療の質向上を目指しています。
当院の循環器科スタッフは、今の病院に私が異動したときに私の理念に賛同して共に異動してくれたメンバーが中心になって構成されています。
特にカテーテル検査室は、“医師”“看護師”“診療看護師”“放射線技師”“臨床工学技士”“医師事務”の5職種で構成されており、それぞれが専門の資格を持ったプロフェッショナルです。個々のスキルのみではなく、互いに連携を取り弱点を補完できる我々は、チームとして高い医療レベルを維持するよう努めています。
医師は万能ではないので、患者さんをトータルマネジメントするのに医師1人の力では足りません。医師の力を伸ばしてくれる、このチームを私は誇りに思っています。
「先生はどんな医者になりたいんだ?」これは、私が師匠と出会ったときに最初に聞かれた言葉です。当時は研修医上がりで知識や技術を習得することに必死だった私は、もっともらしい講釈を垂れて過大評価してもらおうとしていたのですが、私にかけられた師匠の言葉は「もうちょっとシンプルに、患者にとって“よいお医者さん”になりたいでいいんじゃない?」でした。
“よいお医者さん”とは何か、この問いに対する正解はいまだに分かりません。ただ、自分が患者だったら、自分(病気はもちろんのこと、一人の人間として)と真剣に向き合ってくれる医師に体を治してもらいたいと思います。
医師としてはクレバーであるべきなので、今の私が師匠のいう“よいお医者さん”なのかは分かりませんが、患者さんの病状で一喜一憂しながら1人ひとりと向き合って医療を行うように心がけています。そしてこの姿勢は、私が治療方針に迷った時に必ず助けとなってくれました。もしかすると、私が橈骨動脈アプローチにこだわるのも、師匠が与えてくれた大きな課題が影響しているのかもしれません。
狭心症や心筋梗塞は生活習慣の影響が強い病気です。治療のため、私たちはより低侵襲に血管を広げられるカテーテル治療に尽力していますが、さらに低侵襲な治療は薬物治療です。そして、もっともよいのは何といっても病気にならないことです。病気にならないためにまずは、生活習慣を改善し、病気になってしまったら薬を飲んでしっかり管理する。それでも症状が出てしまったら、当院でカテーテル治療などを検討することをおすすめしています。
墨田区で医療をさせていただくようになって4年、今ではすっかりこの地域も人も大好きになってしまいました。当院の名誉院長である石原 哲先生は、地元に頼られる病院にしたいと頑張ってこられました。今では私も同じ気持ちであり、この地域をよりよい医療圏に変えていきたいと思っています。当院は東京都指定二次救急病院であり、救急車も忙しく出入りする病院ですが、「あの病院は行きづらい」と思われないよう「いつでも来てください」という姿勢で診療に取り組んでおります。
病院は患者さんに気軽に来ていただき、体調の不安や具合の悪さを解消していただくための場所です。治療で気になること、不安なことは遠慮なくご相談ください。
医療法人伯鳳会 東京曳舟病院 循環器センター・循環器科 部長
唐原 悟 先生の所属医療機関
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