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虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)に対する治療方法は?

虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)に対する治療方法は?
唐原 悟 先生

医療法人伯鳳会 東京曳舟病院 循環器センター・循環器科 部長

唐原 悟 先生

目次
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虚血性心疾患狭心症心筋梗塞(しんきんこうそく))の治療法には薬物治療に加えて、カテーテル治療と冠動脈バイパス手術があります。カテーテル治療は低侵襲(ていしんしゅう)で患者さんの負担が少ない点が特徴といわれていますが、病態によっては冠動脈バイパス手術を要する場合もあります。それぞれの治療法には、どのような特徴があるのでしょうか。

今回は、医療法人伯鳳会 東京曳舟病院 循環器センター・循環器科 部長である唐原 悟(とうはら さとる)先生に、虚血性心疾患の主な治療法とカテーテル治療の特徴についてお話を伺いました。

狭心症の治療の選択肢は大きく3つに分けられます。内科的治療である薬物治療やカテーテル治療、そして外科的治療の冠動脈バイパス手術です。今回は、それぞれの治療の概要とメリット・デメリットについて説明します。

薬物治療は、文字どおり薬物の投与によって行う治療です。原則的には下記の侵襲(患者さんの体に傷を与える)的な治療と違い、患者さんの体に直接的な傷は与えません。ただし、冠動脈の狭窄によって不足した血液量が大幅に改善するわけではありませんので、どちらかといえば症状を感じにくくさせ、患者さんに有害な心事故を起こりにくくするのが治療の目的といえます。

狭窄している冠動脈数が少なく、狭窄の程度が軽い場合は有効なケースが多いですので、まずは試すべき治療です。また、ほかの治療法と比較しても安価で、入院の必要もないので医療経済的にも有効な治療法と考えられます。ただし、上述のとおり不足した血液量が大幅に改善するものではないので、治療による改善には限界があります。

カテーテルとは、管のことです。冠動脈の治療に使われるカテーテルは直径が2〜3mmのものが用いられ、足の付け根の血管(大腿動脈)もしくは手首の血管(橈骨動脈(とうこつどうみゃく))から冠動脈まで到達させます。カテーテル治療とは、その管を介してバルーンやステントと呼ばれる医療器具を用いて冠動脈の狭窄部(狭くなっている部位)を拡張して血流量を改善させます。薬物治療や冠動脈バイパス手術とは違い、血管の内側を健常なときと同じ状況に戻す治療となります。

先方提供
東京曳舟病院のPCIの様子

バルーン治療

バルーン治療とは、冠動脈の狭窄部位をバルーン(風船)で広げる治療です。最近は薬剤の塗布されたバルーンも使用されるようになり、ステント内の再狭窄(狭窄が再燃すること)や小さめな血管に使用しても良好な成績を出せるようになりました。

ステント治療

ステント治療とは、バルーン拡張だけでは反動で血管が再度閉塞しようとするので、内側から金属のメッシュで補強する治療です。基本的にステントは血管に入れたままになるので、異物と認識してステントには内膜が張るのですが過剰に張ると再狭窄となってしまいます。

最近は内膜が張りにくいようにステントに薬剤を塗布した“薬剤溶出性ステント”を用いるのが一般的です。ステント治療を受けた後は、基本的に血栓ができないように抗血小板薬を継続服用する必要があります。

ステント治療のメリットは、患者さんに与える傷が2〜3mm程度なので外科的な治療より低侵襲で、不足した血液量を大幅に改善させることが可能となる点です。病変性状や術者の技術にもよりますが、比較的難易度の高くない病変だと30分から1時間程度で治療が完了します。

デメリットは、上述したとおり再狭窄の問題(5%程度)と抗血小板薬の服用が必須となることです。

MN

冠動脈バイパス手術(CABG)とは、狭窄部位より末梢(まっしょう)側の冠動脈正常部位に別の血管を縫い合わせ、迂回路(バイパス)を作る開胸手術です。バイパスに使う血管には、足の静脈や肋骨(ろっこつ)の内側にある内胸動脈などが使用されます。

この治療法は歴史が古く、メリットは複数の冠動脈病変があっても多くのケースで完全血行再建(血流改善)が達成されるところと、弁膜症などのほかの外科的治療が必要な手術と組み合わせることが可能なところです。原則的には元の冠動脈の血流に別の血管からの血流がプラスαされるので、元の血管かバイパスの血管のどちらが詰まっても、同時に詰まらない限り末梢側の血流が完全に遮断される可能性が低いと考えられます。

外科的治療ですので全身麻酔のリスクと切開による創部の問題、また術中術後の脳梗塞合併などのリスクが挙げられます。最近では狭窄した血管の部位にもよりますが、より切開創を小さくして患者さんの負担を最小限にしたMIDCAB(低侵襲冠動脈バイパス術)を行う施設も増えてきています。

MN
青い部分が作られた迂回路(バイパス)

さまざまな治療法をご紹介しましたが、「どの治療を選べばよいのか」という質問に答えるのは、とても難しいです。まず、最初に行うべき治療が薬物治療であることは間違いないのですが、侵襲的治療では意見が分かれます。

古い論文では冠動脈バイパス手術(CABG)の方が優先される治療法とされていましたが、薬剤溶解ステント(DES)の登場後はカテーテル治療(PCI)もCABGと負けず劣らずの治療となってきました。どちらの治療がよりよいかは、患者さんのニーズや病態(基礎疾患や血管の性状を含む)にもよりますが、執刀医の技術によるものも大きいかと思われます。PCIで何度も再狭窄を繰り返したり、造影剤の量が増えることで腎機能障害を起こしたりするケースもあれば、CABGで開胸手術までしたのに1本もバイパスがつながっていなくて、結局全てPCIで治療し直したケースもあります。

いずれの治療を選択したとしても、もっとも重要なことは再発を予防する二次予防です。生活習慣病の是正と薬物治療の継続が必須といえるでしょう。

上記3つの治療法と同じぐらい大切なのが、治療後の二次予防(再発予防)です。治療後も患者さんの人生は続きますので、きちんと動脈硬化リスクファクター*を管理しないと動脈硬化が進行して新規の病変が出現したり、再発したりする可能性が出てきます。

もちろん虚血性心疾患の再燃にも注意すべきですが、動脈は全身に張り巡らされているので、心臓以外の血管でも閉塞すれば同様に大きな病気となります。たとえば、脳血管が閉塞すれば脳梗塞、下肢の血管で閉塞すれば閉塞性動脈硬化症といった病気が起こります。

特に動脈硬化の進展を抑えるのに、世界中でLDL(悪玉)コレステロール値を70mg/dL未満に下げるのが重要だとされています。これは普通に考えるとかなり厳しい条件だと思いますが、当院では、生活習慣や食生活の改善に加えて積極的に高脂血症治療薬を用いることで厳しく管理しています。

*動脈硬化リスクファクター:高脂血症、高血圧糖尿病といった生活習慣病に加えて、喫煙や肥満など。

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