背骨の中にある脊柱管という部分が狭くなり、痛みやしびれを引き起こす腰部脊柱管狭窄症。加齢によって発症することが多く、高齢者の場合は10人に1人の割合で腰部脊柱管狭窄症を患っているといわれています。今回は、腰部脊柱管狭窄症の原因や症状、受診時の注意点などについて、JCHO大阪病院 整形外科 部長である武中 章太先生にお話を伺いました。
腰部脊柱管狭窄症とは、何らかの原因で脊柱管(背骨の中にある神経が通るトンネル)が狭くなる病気です。脊柱管が狭くなると、その中を通る神経が圧迫され、下肢の痛みやしびれなどが生じるようになります。
もともと脊柱管が狭い場合は体質が原因と考えられますが、腰部脊柱管狭窄症の原因の多くは加齢によるものです。脊柱管の周りには背骨や椎間板、黄色靱帯などがあり、これらは加齢に伴って変化することがあります。腰部分の背骨が変形したり、椎間板がつぶれて膨れたり、黄色靱帯が厚くなったりして脊柱管を圧迫することで腰部脊柱管狭窄症の発症につながります。
腰部脊柱管狭窄症では主に、下肢の痛みやしびれ、間欠跛行(長時間歩き続けられなくなる症状)が現れます。“腰部”と聞くと腰痛をイメージされる方も多いかもしれませんが、腰部脊柱管狭窄症そのものが原因で腰痛が現れることは基本的にありません。しびれや痛みに加えて腰痛がある患者さんもいるものの、腰痛に関しては神経の圧迫ではなく別の原因で起こっているものと考えられます。
脊柱管の中を通る神経が圧迫され、神経への血流が滞ることで太ももや膝から下の部分に痛み・しびれが現れます。立ったり歩いたりすると症状が出るものの、安静にすると症状はほとんどなくなるのが特徴です。座っていれば痛みは軽減されるため、歩くことは難しくても自転車の運転などは問題なくできる方もいます。
腰部脊柱管狭窄症では、長い時間歩き続けることができなくなるのも特徴です。一定時間歩くと足にしびれが現れ、足が前に出なくなってしまいます。少し休めば再び歩くことはできますが、しばらくすると再び休息が必要になります。このように休みながらでないと歩けなくなる症状は、間欠跛行と呼ばれます。
重症の場合には、肛門周囲のほてりや排尿障害(尿が出にくくなる)、足が上がらなくなるほどの筋力低下が現れる場合があります。これらの症状がなくても足の裏に何らかの違和感、たとえば“板が張り付いているような感覚”“プチプチ(気泡緩衝材)を踏んでいるような感覚”などが現れた場合は、腰部脊柱管狭窄症がかなり進行している可能性があるため、できるだけ早めに整形外科を受診いただくことをおすすめします。
腰部脊柱管狭窄症と関連が深い病気の1つに腰椎すべり症があります。腰椎すべり症とは、骨の一部に“ずれ”が生じた状態を指し、ずれた骨が脊柱管を圧迫した場合、腰部脊柱管狭窄症の発症につながります。この場合、正確には“腰椎すべり症を伴う腰部脊柱管狭窄症”といいますが、医師が患者さんに伝えるときは「すべり症です」と簡略化して言うことも多々あります。
患者さんによっては受診した病院ごとに腰椎すべり症と伝えられたり、腰部脊柱管狭窄症と伝えられたりすることに不安を感じる方もいらっしゃいますが、重要なのは“すべりがある腰部脊柱管狭窄症なのかどうか”という部分ですので、伝えられた病名の違いを過度に心配する必要はありません。詳しくは次のページで述べますが、すべり(骨のずれ)の有無によって手術方法が大きく変わるため、腰椎すべり症という病名が強調されやすいのだと考えられます。
足のしびれなど何らかの症状が現れた場合、我慢する必要はありませんので整形外科を受診いただき、一度検査を受けるとよいでしょう。腰部脊柱管狭窄症が疑われる場合に行う主な検査について解説します。
まずは、問診で以下の3点を確認します。
痛みの場所を医師に伝える際「全部が痛い」ということもあるかもしれませんが、そうすると原因を絞り込むことが難しくなってしまいますので、痛む場所は「右のお尻から太ももの裏にかけて」というようにできるだけ具体的に伝えていただくことが大切です。また、3.の症状の傾向についても「歩いていると痛みが強くなる」あるいは「歩くと痛みが和らぐ」など具体的にお伝えいただくことをおすすめします。
診察では、神経の圧迫の有無を確認します。圧迫があると考えられる場合は、5つある腰の骨のどこで起こっているのか見当をつけるための検査も行います。具体的には、筋力が低下していないかどうかのチェックや、下肢の感覚障害の有無などを確認していきます。また、打腱器と呼ばれるゴムハンマーで膝を軽く叩き、膝蓋腱反射などの確認も行います。
脊柱管の狭窄(細く狭くなること)の有無や、その場所を確認するために画像検査(X線検査や腰椎MRI検査など)も実施します。特に腰椎MRI検査は、骨の状態を写すX線検査とは異なり神経や椎間板などの状態も写すことができるため、腰部脊柱管狭窄症の診断では欠かせない検査です。
画像検査の結果と、先述した問診の内容・身体所見を全て照らし合わせて、“矛盾がない”と判断できる場合は腰部脊柱管狭窄症と診断します。矛盾がある場合は経過観察をしつつ、あらためて腰部脊柱管狭窄症なのか、あるいはほかに原因があるのかなどを考えます。
脊椎(背骨)の病気は患者さんごとに症状が異なる場合も珍しくなく、病気ごとの線引きが難しい部分もあります。腰部脊柱管狭窄症では基本的に腰痛は現れないといわれていますが、実際は腰痛が併発している患者さんも多くいらっしゃいます。痛みの原因を特定し適切な治療を行うためには、受診時に患者さんからお伝えいただく情報が大切な判断材料の1つになります。たとえば、症状が2つや3つある場合は、それぞれに対して
という情報をある程度整理できているとスムーズです。「これから受診を考えている」あるいは「治療を受けているけど、なかなか改善しない」という方は、A4用紙の半分くらいで十分ですので、症状が現れたときにメモを取っておき、受診時に医師に確認してもらうことをおすすめします。
独立行政法人 地域医療機能推進機構(JCHO)大阪病院 脊椎外科センター 脊椎外科 診療部長
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