「ひきこもり」から脱出した場合、有力なゴールの一つは就労です。そのためには何に気をつけ、どのようにアプローチしていけばよいのでしょうか。ひきこもり問題の世界的な第一人者である筑波大学社会精神保健学分野教授・斎藤環先生にお話をお聞きしました。
ひきこもりから脱出したあと、最終的なゴールは就労ということがほとんどです。もちろんほかの選択肢でもいいわけなんですが、成人のひきこもり事例が社会参加をする場合、就労以外の選択肢が少ない。せいぜい大学に進学・復学するとか、専門学校に入学するくらいでしょうか。
「衣食足りて礼節を知る」という故事成語があります。つまり、生きるために必要な基本的なことが満たされてはじめて、礼儀正しく振る舞って尊敬されたいという気持ちが生まれてくるのです。これの心理学版が「マズローの欲求の5段階説」です。
図にある低次の欲求が満たされてはじめて、人は高次の欲求を感じるようになるのです。この考えかたは、ひきこもりを考える上でも役立ちます。
ひもじいときには自己実現のことを考えられるでしょうか? おそらくないと私は考えます。人は空腹を満たし、社会的な関係を満たしてからようやく承認欲求へと向かうのです。逆に、現代の日本で「飢えを満たす」=空腹から脱却することがひきこもりを脱出する動機になりえるでしょうか? これも難しいと思います。ひきこもりの人を「兵糧攻め」にしたら、奮起するどころか、そのまま衰弱死してしまいかねません。
そもそも人はなぜ働くのか? ある世代以上の人にとっては自明でしょう。そう「食べるため」ですね。ところが、現代の若者はもはや「食べるため」には働きません。飢えを知らないのだから、これは当然です。彼らの就労動機は「承認欲求」です。良い会社に入って尊敬されたい、恋愛対象とみられたい、あるいは、今仲間から受けている承認を失いたくない、という気持ちもあるでしょう。だから今、若い世代の「就活自殺」が減らないのです。「選ばなければ仕事はあるだろう、死ぬことはない」というのは、「食べるため」世代の発想です。
つまりこういうことです。若い世代にとっては、就労意欲は承認欲求を意味しています。では、どうすれば承認欲求が芽生えるでしょうか。マズローの段階説に従うなら、その土台となる関係・安全・生理的な欲求を家族が満たしてあげる必要があります。たとえ甘いと言われようと、私が家族に受容的対応、つまり「親切に接すること」を勧めるのはこのためです。家庭が安心できる土台となってはじめて、本人はそこを足場に社会へと踏み出せるのです。逆に不安を与え続けると、本人はかえって足場にしがみつきます。
就労支援を取り巻く環境は10年前に比べれば、格段に良くなっています。たとえば障害者向けの就労移行支援サービスも、かつてないほど充実しています。なんらかのハンデゆえに就労支援を必要とするすべての方々にとって、着実に仕事を求めやすい環境になっています。
就労支援の環境は充実しつつあるのですが、それ以上にひきこもりの数が増えています。現在のひきこもりの第一世代ボリュームゾーンは40代半ばです。この方たちが20年後、65歳になったとします。おそらくは10万人単位で存在するひきこもりの高齢者を、果たして年金制度が支えることができるのでしょうか。ちなみに彼らは、親が年金の保険料を払っているので受給資格はありますが、年金の財源の一つである所得税を支払ったことがない人々です。彼らが今からでも就労人口に加わることがいかに社会的に重要なことか、おわかりいただけるかと思います。
実はひきこもりの方の中には、たとえば「週3日半日でいいから出てきてくれれば仕事はあるよ」といったお膳立てがされれば、あっさり働ける方は結構います。しかし今までは、こうした発想があまりなかったのです。多くは「ここまで元気になったのだから、仕事は自分でハローワークで探してね」という考え方で、これではなかなかうまくいきません。就労の一歩手前まで来ていながら、職探しという高い壁が立ちはだかっていたのです。しかし現在は、より細やかに就労移行の準備を支援してくれる仕組みが利用しやすくなっています。
就労移行支援サービスがこのように充実してきているという事実は、ぜひ一般の方によく知っておいてほしいことです。いや、むしろ治療の専門家にこそ理解して欲しいのです。私も少し前までは、「治療と就労は別物」「病院では就労支援はできるだけしない」という方針でした。治療者が就労に絡みすぎると、価値中立的でいるのが困難になると考えたからです。
しかし、ひきこもり全体の高年齢化とそれを支える親の高齢化、「親亡き後」の問題などを考慮しはじめると「無理に押しつけない限りは、就労支援もありではないか?」と考えが変わりました。それで実際に動き出す人もいますし、率直に言えば、十分に準備をして就労に至った患者は、健康度も一段階ほど上がるように思います。そうした意味で私は今、治療の延長線上の就労支援というものもありうるのではないかと考えています。
筑波大学 医学医療系社会精神保健学教授
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