概要
赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)という寄生性の原虫が原因となって引き起こされる病気のことを、アメーバ赤痢と呼びます。かつては、赤痢アメーバが原因の大腸炎で粘血便(形のある便に粘血が付着したもの)や下痢、しぶり腹などの症状を起こしたものをアメーバ赤痢と呼んでいましたが、1999年に施行された感染症法により、大腸以外の臓器に病変を起こしたものも含めてアメーバ赤痢と定義しています。
アメーバ赤痢は、赤痢アメーバの嚢子(シスト)に汚染された飲食物を経口摂取することで感染をおこします。口から入ったシストは小腸まで到達すると栄養型と呼ばれる形に変化します。さらに大腸に達すると大腸粘膜に潰瘍をつくって、粘血便や下痢、しぶり腹、腹痛などの症状を起こます(この状態を腸管アメーバ症(アメーバ性腸炎)といいます)。
腸管アメーバ症のうち約5%では、腸管以外にも病変が及ぶことがあるとされており、これを腸管外アメーバ症と呼びます。多くは腸から侵入した赤痢アメーバが血流にのってほかの部位に移動することで起こり、肝臓、肺、皮膚などに膿の溜まり(膿瘍)をつくります。赤痢アメーバが門脈という血管の血流にのって肝臓に運ばれ膿の溜まりをつくったものがアメーバ性肝膿瘍であり、腸管外アメーバ症の中でも頻度の高いものです。まれですが肺、脳、皮膚などの症例も報告があります。
近年、アメーバ赤痢の日本国内での感染が増加しています。2012年以降、感染症法に基づく報告数は900例を超えてきており、増加傾向にあります。男性の報告数が9割近くを占める傾向は変わりませんが、女性の報告数が増加傾向にあります。
原因
赤痢アメーバの嚢子(シスト)に汚染された飲食物を経口摂取することで感染します。現在は発展途上国において感染の頻度が高くみられ、主に衛生環境の悪い発展途上国を訪れた人が、水や食品などを介して感染することがあります。
一方、先進国での主な感染経路は性行為です。性行為では、肛門周辺にいたアメーバが、手指を介して、または肛門に対する口腔性交により口の中に入ると感染します。
症状
アメーバ性腸炎の症状
粘血便、下痢、しぶり腹(テネスムス)、下腹部の痛みが代表的です。肝膿瘍を伴わない場合、発熱することは少ないとされます。症状の程度はさまざまであり、1日に2~3回粘血の混じった下痢をする程度のものから、1日に20回以上粘血便がでることもあります。症状はよくなったり悪くなったりを繰り返しますが、全身の状態は保たれているので、通常どおりの生活を送ることは可能です。なお、赤痢アメーバが口から入り大腸炎が起こるまでの期間(潜伏期)は、およそ2~3週間ですが、ときに数か月から数年に及ぶこともあります。
アメーバ性肝膿瘍の症状
発熱、右季肋部痛(右わき腹の痛み)、肝腫大の3つが代表的な症状とされていますが、実際にはケースごとにさまざまです。症状の軽いものもあれば、なかには無症状で経過する場合もあります。もっとも多く認められるのは発熱です。また、アメーバ性肝膿瘍の約半数では腸管アメーバ症の症状(粘血便や下痢、腹痛など)を伴いません。そのため、腸管の症状を認めなくてもアメーバ性肝膿瘍の可能性を否定することはできません。
検査・診断
アメーバ赤痢に共通している検査
問診
腸管アメーバ症の症状である粘血便や下痢、しぶり腹、また肝膿瘍による発熱、右わき腹の痛みの有無などについて聴取します。また、渡航歴についてもチェックすることもあります。
血液検査
血液検査で血清アメーバ抗体(IHA)を調べます。診断のために有用な検査とされています。
アメーバ性腸炎の検査
便検査
便を顕微鏡下で検査して赤痢アメーバの有無をチェックします。活発に動き回る栄養型もしくは嚢子(シスト)がみられます。 ELISA法による病原体の抗原やPCR法による病原体遺伝子の検出を行います。
下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)
肛門から内視鏡(大腸カメラ)を挿入して大腸の中を直接観察します。アメーバ性大腸炎では、アフタ様と呼ばれる潰瘍の底に白いクリーム状の白苔が付着した潰瘍がみられます。こうした潰瘍の様子は診断を確定するものではありませんが、一つの手がかりとなります。
アメーバ性肝膿瘍の検査
腹部超音波検査、CT検査
膿瘍の存在、また膿瘍の場所についてより詳細に評価することができます。アメーバによる肝膿瘍は肝臓の右側に単発で形成されることが多いとされます。
肝膿瘍の穿刺
右わき腹から針で肝膿瘍を刺して内容物を採取する検査です。内容物の中に赤痢アメーバがいるかどうかを顕微鏡で調べますが、検出率はそこまで高くはありません。ただし、アメーバ性肝膿瘍の内容物は無臭でアンチョビペースト状あるいはチョコレート状と表現される特徴があるため、診断にあたっての参考となります。
治療
アメーバ性肝膿瘍に対しても、腸管アメーバに対しても第一選択の治療はメトロニダゾールという抗生剤の内服です。メトロニダゾールは赤痢アメーバ症に対して国際的に広く使用されており、顕著な治療効果が認められています。内服の期間は7~10日間程度とされており、内服中と内服後1週間は飲酒を控える必要があります。また妊婦への投与は避けることとされます。
メトロニダゾールを使用できない場合には、チニダゾールの服用に切り替えられえます。「シスト」を駆除する目的で用いられる第一選択となる薬が、腸管に作用のあるパロモマイシン硫酸塩という薬剤です。パロモマイシン硫酸塩は、服用時に消化管から吸収されにくいので、腸内にいるシストに高濃度のまま作用することができ、シストを死滅させることが可能となります。無症状病原体保有者や再感染を繰り返す場合は、メトロニダゾール投与後にパロモマイシン硫酸塩が併用されます。
肝膿瘍については、破裂してしまう危険性がある場合には膿瘍のドレナージ(体外から管を膿瘍に入れて内容物を抜く治療)が必要となることもありますが、それ以外の場合であれば、メトロニダゾールの内服で改善を得られる場合が多いとされています。
予防
ワクチンや予防薬はありません。発展途上国では水や食べ物に注意することが重要です。国内では、一般的な性感染症予防策である、不特定多数との行為を避ける、性風俗産業の利用を控える、コンドームを使用する、体を清潔に保つ、そして、肛門への口腔性交を避けることが大切です。
医師の方へ
アメーバ赤痢の詳細や論文等の医師向け情報を、Medical Note Expertにて調べることができます。
「アメーバ赤痢」を登録すると、新着の情報をお知らせします