概要
アライナー型矯正装置とは、歯科矯正で歯並びをそろえるために用いられる矯正装置の1つです。患者の歯並びに合わせて作製されたマウスピース（アライナー）を1日20時間以上装着することで歯を動かしていきます。一般的に「マウスピース矯正装置」と呼ばれます。装置は透明な薄いプラスチック製のため、ワイヤー矯正で用いられるブラケット装置*よりも目立ちにくいのが特徴です。また、食事や歯磨きのときには取り外せるため、従来の矯正歯科治療と比べて装着の違和感が少ないというメリットがあります。これらにより、需要が高くなっています。
しかし、アライナー型矯正装置にはいくつかの制限もあります。従来の矯正歯科治療と比べ、歯を動かせる範囲に限界があり、全ての症例に適応できるわけではありません。また、装着が患者の自己管理となるため、使用方法を誤ると十分な治療効果を得られない場合もあります。治療中も定期的な診察を受け、適切な使用方法を守ることが重要です。
*ブラケット装置：歯の表面に装着する矯正装置。
目的・効果
アライナー型矯正装置の主な目的は、歯並びの乱れを改善することです。これにより、噛み合わせの悪さや口元の見た目など外見的な問題を解決し、コンプレックスや精神的な負担を軽減できる可能性があります。
歯並びの乱れは見た目の問題だけでなく、健康面にも影響を及ぼします。咀嚼機能や発声に支障をきたすことがあり、顎の形の発達に異常を引き起こす可能性もあります。さらに、歯並びが悪いと歯間に食べカスが残りやすくなり、虫歯や歯周病のリスクも高まります。アライナー型矯正装置は、これら健康面のリスクを予防・改善する効果も期待できます。
アライナー型矯正装置は1990年代に開発されましたが、安全性や有効性に関しては明らかになっていない部分もあります。マルチブラケット装置*など一般的な矯正歯科治療と比較すると、歯を移動させられる範囲が狭く、治療できる範囲が制限されるというデメリットがあります。そのため、個々の症例に応じて適切な治療法を選択することが重要です。
*マルチブラケット装置：歯の表面にブラケットを装着したうえで、それぞれのブラケットにワイヤーを通して歯を動かす矯正装置。一般的にワイヤー矯正と呼ばれる。
種類
アライナー型矯正装置を作成している企業は複数あり、国内外でさまざまなブランドが展開されています。各ブランドはそれぞれ独自の特徴を持っており、患者の状態や希望に応じて選択します。
アライナーの作製方法はそれぞれの企業によって異なり、石膏を使った歯形模型を基に作製する方法、特殊な3Dスキャナーで記録した歯並びのデジタルデータを基に作製する方法などがあります。
使用されるプラスチックの素材なども各ブランドによって異なり、基本的な使用方法は共通しています。通常、約2週間に1回のペースでアライナーを交換し、少しずつ歯を動かしていきます。この過程を繰り返すことで、徐々に理想的な歯並びに近づけていきます。
適応
軽度から中程度の歯並びの乱れがある方に適しています。たとえば、歯が少し重なっている、歯と歯の間に小さな隙間がある、前歯が少し開いているなどの症状がある場合です。また、以前に矯正治療を受けたものの、歯並びが軽く戻ってしまった方にも効果的です。また、金属アレルギーで従来の矯正歯科治療ができないケースもアライナー型矯正装置の適応とされています。
一方で、歯の大きな移動が必要となる症例やあごの形に問題がある場合には適していません。また、アライナー型矯正装置での治療は、アライナーの着脱や適切な装着時間の維持など、患者自身の管理が重要となります。そのため、治療への協力度や理解度が低い患者には推奨できません。
リスク
アライナー型矯正装置は、従来の矯正歯科治療と比べて歯を動かせる範囲が限られているため、適応となる症例が限定されます。
また、治療効果はアライナーの装着時間に大きく依存します。アライナーは食事や歯磨き時に取り外すことが可能ですが、1日20時間以上の装着が必要です。装着時間の管理ができない場合、十分な効果が得られないリスクがあります。
歯並びの状態によっては予期せぬ歯の移動が生じることも報告されています。さらに、アライナーは物を噛む面を覆う形をしているため、奥歯の高さが低くなる可能性も指摘されており、治療を開始する際には慎重な判断が求められます。
治療の流れ
アライナー型矯正装置による治療は、以下のような流れで進められます。
診断と治療計画
歯科医師が患者の歯並びを詳細に診断し、治療計画を立てます。
アライナーの作製
患者の歯並びに合わせてカスタムメイドのアライナーを作製します。アライナーは、患者の口腔内の石膏模型や特殊な3Dスキャナーによる精密なデータを基に作られます。
アライナーの装着と交換
作製されたアライナーを患者に装着します。通常、約2週間ごとに新しいアライナーに交換します。これにより、徐々に歯を理想的な位置に移動させます。
定期的な経過観察
治療中は定期的に歯科医院を受診し、進捗状況を確認します。必要に応じて治療計画の調整を行います。
治療完了とリテーナー装着
目標の歯並びに達したら、治療完了となります。その後、歯の位置を維持するためにリテーナーを装着します。
治療期間は1～3年程度ですが、個々の症例により異なります。患者自身がアライナーの着脱や交換を行うため、自己管理が重要です。また、治療完了後もリテーナーの使用を継続し、歯並びの後戻りを防ぐ必要があります。
費用の目安
アライナー型矯正装置による矯正歯科治療にかかる費用は、使用するアライナーのブランドや治療の複雑さによって異なります。一般的な費用の目安は50万～100万円程度ですが、これには初診時の検査費用やアライナーの調整費用が含まれていない場合があります。
この治療は自由診療のため、費用は各医療機関によってさまざまです。治療を開始する場合は、治療が完了するまでに必要な費用について大まかな目安を事前に確認しておくとよいでしょう。
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