概要
ウェルシュ菌食中毒とは、ウェルシュ菌の毒素によって引き起こされる食中毒です。厚生労働省の食中毒統計によると、2023年のウェルシュ菌食中毒の発生件数は1,097件でした。
ウェルシュ菌は土壌や河川、下水、海などの自然界のほか、ヒトや動物の腸内に存在します。酸素がない状態や、12~50℃と幅広い温度で増殖可能です。ウェルシュ菌が大量に増殖した食品を摂取し、その菌が腸管に到達して増殖するときに毒素が産生されて食中毒が起こります。
ウェルシュ菌は、熱に耐性を示す芽胞(極めて耐久性の高い細胞構造)を産生します。ウェルシュ菌自体は熱に弱いため加熱によって死滅しますが、芽胞は100℃で1~6時間の加熱にも耐えられます。カレーなどを大量に作った際、ジャガイモやニンジンなど土壌で育った野菜や肉に菌の芽胞が含まれていると、加熱時に菌は死滅しても残った芽胞がウェルシュ菌体(栄養型菌体)に変化して毒素を産生し、集団食中毒の原因になることがあります。
ウェルシュ菌は自然界に広く存在するため完全な除菌は困難です。そのため、食品の作り置きは可能な限り避ける、作り置きをする場合には小分けして早めに冷蔵保存する、加熱処理したらなるべく早く食べきるなどの対策が必要です。
原因
ウェルシュ菌は熱に強い芽胞を産生します。芽胞は100℃で数時間加熱しても生存可能なため、ウェルシュ菌に汚染された食材を使用してカレーやシチュー、スープのように長時間加熱する煮込み料理を作った場合でも、芽胞は残ります。生き残った芽胞は食品の温度が下がるにつれて発芽し、ウェルシュ菌体に変化して急速に増殖します。特に煮込み料理は酸素が少なくなるため、偏性嫌気性菌*であるウェルシュ菌に適した増殖環境になります。
体内に侵入したウェルシュ菌は消化管内でさらに増殖し、新たに芽胞を形成します。その際エンテロトキシンと呼ばれる毒素をつくりだし、この毒素が腹痛や下痢などの消化器症状を引き起こします。
*偏性嫌気性菌:大気中では発育できず、酸素がほとんどないところで発育する細菌。
症状
ウェルシュ菌食中毒は、原因となる食品を取ってから6~18時間ほどの潜伏期間を経て発症します。
腹痛や下痢などの症状が中心で、嘔吐や発熱がみられるケースはほとんどありません。一般的には軽症で経過し、1~2日程度で回復することが多いものの、脱水症状や重度の下痢、血圧低下などが現れることもあります。特に小児や高齢者では重症化するリスクが高まるといわれています。
検査・診断
便検査を行い、エンテロトキシンを産生するウェルシュ菌の有無を確認します。便検査によってウェルシュ菌が検出された場合、RPLA法やPCR法と呼ばれる検査を実施して、エンテロトキシンの産生に必要な遺伝子を保持している菌か詳しく調べます。
ウェルシュ菌食中毒は集団発生することが多いため、同様の症状が現れている患者を対象に広く検査を行い、菌の型や感染経路などを特定します。
治療
ウェルシュ菌食中毒は1~2日で軽快することが多く、重症化するケースは多くありません。そのため、下痢の症状が現れている際には経口補水液などによる対症療法で脱水を予防します。経口摂取がままならず脱水が進行する場合は、入院して治療を行うこともあります。
予防
ウェルシュ菌は、加熱した食品が冷める過程で急速に増殖するため、その日のうちに食べきれる量だけを作るようにしましょう。
作り置きする場合は、加熱後に小分けしてできるだけ早く10℃以下の環境で冷却・保存するか、十分に再加熱してウェルシュ菌体を殺菌するなどの対策が有効です。
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