オスラー病は、全身の血管に異常(血管奇形)が生じた結果、肺や脳に出血症状が現れる遺伝性の疾患です。患者さんの大半に現れる典型的な症状は鼻血であるといいますが、鼻血からオスラー病の診断がつくことは非常にまれだそうです。
では、実際にオスラー病はどのように診断がつくのでしょうか。千葉大学医学部附属病院の巽 浩一郎先生は、呼吸器内科医としてオスラー病の診断や治療を行ってきました。巽先生によると、オスラー病には、2つの発病パターンがあるそうです。それはどのようなものなのでしょうか。
今回は、千葉大学医学部附属病院の巽 浩一郎先生にオスラー病の原因・症状から診断までお話しいただきました。
オスラー病は、全身の血管に異常(血管奇形)が生じた結果、出血症状が現れる遺伝性の疾患です。遺伝性出血性末梢血管拡張症あるいは遺伝性出血性毛細血管拡張症とも呼ばれています。
遺伝性の疾患というと、生まれたときから発病していることをメージする方もいるかもしれませんが、乳幼児や小児の時期にオスラー病を発病する方は非常に少ないといわれています。異常な遺伝子が受け継がれたとしても発病する時期は成人以降が多く、高齢になってから発病するケースもあります。

また、現状では、オスラー病の発症に男女差は認められておらず、患者さんの男女比はだいたい半々くらいであるといわれています。
日本では、オスラー病の患者さんは10,000人ほどと推計されていますが、実際にはもっと多いと考えられます。それは、発病したとしても軽症であれば一生診断を受けず過ごす方も少なくないからです。このため、自身がオスラー病であることに気づくことなく他の疾患で亡くなってしまう方も多く存在しているのではないでしょうか。
一方、近年、日本人はますます長生きするようになっています。長生きする方が増えれば増えるほど遺伝子異常は現れやすいことがわかっており、オスラー病の患者さんは増加していることが考えられます。
これは推測に過ぎませんが、オスラー病の患者さんは増加傾向にあり、実際には推計の数字よりも多いと考えられます。
オスラー病は遺伝性の疾患ですが、両親のどちらかがオスラー病であると100%罹患するようなものではなく、両親のどちらかがオスラー病である場合、だいたい50%の確率で罹患するといわれています。

また、たとえ異常な遺伝子が受け継がれたとしても、必ず発病するわけではありません。では、発病する方としない方の違いは何かというと、現状では解明されていません。
オスラー病の典型的な症状は、鼻血です。大半の患者さんには鼻血の症状がみられ、一回で終わる方もいれば何回も繰り返す方もいます。
さらに、血管奇形と呼ばれる異常な血管が肺や脳、消化管、肝臓などに発生することで、それぞれの臓器に以下のような症状が現れます。
ここでは、特に異常が発生することが多いといわれている肺と脳についてお話しします。
まず、肺に異常な血管が増加すると、血痰(けったん)の症状が現れたり、胸部レントゲンで異常陰影として指摘されたりします。一方、脳の場合であると、頭痛やけいれんが起こることがあります。
さらに、消化管出血や鼻血が続くことで、貧血症状を起こす方もいます。

オスラー病の進行は年単位でゆっくり進行するといわれています。
たとえば、肺の血管に異常があり血管が拡張するケースであっても、一気に血管が広がるわけではなく年単位でゆっくりと拡張していきます。
オスラー病の発病には、大きく分けて2つのパターンがあります。
両者とも鼻血は共通していますが、まず一つは、肺の血管に異常があるためにCT検査などで胸に影が認められるというケースです。もう一つは、脳の血管に異常があるために頭痛とともに痙攣発作のようなものを起こすケースです。
前者の場合は呼吸器内科を受診する方が多いのですが、後者になると脳神経外科を受診される方が多いでしょう。
私が実際にオスラー病の患者さんを診てきた限り、多くはこの2つのパターンに分類されます。
オスラー病の確定診断のためには遺伝子検査がありますが、遺伝子検査は一般的に行われていません。そのため、現状では、オスラー病は症状から診断されることがほとんどです。
お話ししたように、オスラー病の症状の一つに鼻血がありますが、鼻血で病院を受診する方はまれでしょう。たとえ耳鼻科を受診したとしても、よほど鼻血を繰り返さない限り異常ありの診断を受け精密検査へ進むことはないでしょう。

このため、鼻血よりも、肺や脳の血管の異常が認められた場合に疾患を疑われることが多いことになります。
典型的な例は、脳の血管に異常があるために痙攣発作などを起こしCT検査(X線を使って体の断面を撮影する検査)やMRI検査(Magnetic Resonance Imaging:非常に強い磁石と電波を利用して、人体のさまざまな断面を撮像する検査)により疾患を疑われるケースです。脳に異常な影が認められ膿瘍(のうよう:うみがたまる症状)のようなものが発見され精密検査によりオスラー病という診断がつくこともあります。
肺の場合であると、CT検査などにより肺に影があり血管の広がり(動静脈瘻)が認められて初めて、オスラー病が疑われることが多いでしょう。
記事2『オスラー病は完治する疾患なの? オスラー病の治療と今後の展望』で詳しくお話ししますが、脳や肺に血管奇形が認められた場合、カテーテルを用いた血管塞栓術(異常がある血管に、血液が流れないようにする治療法)が治療の第一選択となります。
オスラー病の主な治療と治療の進歩を目指した取り組みに関しては、記事2『オスラー病は完治する疾患なの? オスラー病の治療と今後の展望』をご覧ください。
千葉大学 名誉教授、千葉大学真菌医学研究センター 呼吸器生体制御解析プロジェクト 特任教授、千葉大学医学部 呼吸器内科 非常勤講師、国際医療福祉大学医学部・大学院 特任教授
様々な学会と連携し、日々の診療・研究に役立つ医師向けウェビナーを定期配信しています。
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