オスラー病は、全身の血管に異常(血管奇形)が生じた結果、鼻血、肺や脳の血管拡張などが現れる遺伝性の疾患です。
では、肺や脳の血管に異常が現れた場合、どのように治療が行われるのでしょうか。千葉大学医学部附属病院は、オスラー病の治療法の一つである血管塞栓術を実施できる数少ない医療機関の一つとして、全国から患者さんを受け入れています。今回は、同病院の巽 浩一郎先生にオスラー病の主な治療と治療の進歩を目指した取り組みについてお話しいただきました。
オスラー病の原因・症状や診断に関しては、記事1『遺伝性の難病・オスラー病の原因や症状とは?』をご覧ください。
オスラー病は遺伝病の一つであり、その根本的治療法は現状では発見されていません。基本的に有効な薬剤はありませんが、血管強化剤が適応されることがあります。しかし、これは根治的治療ではなく、出血が改善される程度の効果しかありません。
このため、後ほど詳しくお話ししますが、現状のオスラー病の治療法は現れている症状への対処療法になります。
オスラー病は、再発する疾患という特徴があります。たとえば、肺の血管に異常がある患者さんがいるとします。肺の治療を受け症状が改善されたとしても、数年後、今度は脳の血管に異常が現れるというケースも少なくありません。このため、たとえ治療により症状が改善されたとしても定期的な病院の受診が重要になるでしょう。
オスラー病の予後は、比較的良好であると考えられています。実際に私たち千葉大学医学部附属病院ではオスラー病の患者さんを数多く診察してきましたが、適切な治療をすれば予後は良好であり、オスラー病が原因で亡くなるケースは非常にまれであるといえるでしょう。
鼻血には、軽症であれば止血用のゼラチンスポンジによる圧迫や軟膏を塗布する治療を行います。進行している場合には、レーザーなどによって鼻の粘膜を焼灼する粘膜焼灼術や、鼻粘膜に皮膚を移植する鼻粘膜皮膚置換術が適用されることもあります。
また、肝臓以外の臓器に現れた血管奇形は、カテーテルを用いた血管塞栓術(異常がある血管に、血液が流れないようにする治療法)が治療の第一選択となります。
たとえば、肺の血管に異常があると、血管の破裂、奇異性塞栓症(血管内の塞栓が全身にばらまかれる)、低酸素血症などを起こし重症化する可能性があります。このような事態を防ぐために、肺の動静脈(動脈と静脈をつなぐ血管)が3ミリ以上に拡張した場合には、血管塞栓術の治療を実施します。
脳の動静脈奇形に関しては、症状が認められた場合、あるいは血管の太さが1から3センチの場合に、外科的治療、血管内治療、放射線療法を組み合わせた治療が行われます。
消化管出血や鼻血などによる貧血症状がある場合には、鉄剤を投与し症状を和らげる治療を行うこともあります。
オスラー病は遺伝性疾患であるために、妊娠や出産を気にされる方も数多くいらっしゃいます。結論からいうと、オスラー病であっても妊娠や出産は可能です。実際に、疾患に罹患しながらお子さんを持つ方も多くいらっしゃいます。
しかし、オスラー病の患者さんの妊娠にはリスクが伴います。妊娠することで何が起こるかというと、子宮に血液を多く流さなければいけなくなり、全身の血流量が増加します。この結果、肺や脳に血管奇形がある場合、血流量が増えることで血管が破裂する可能性が高くなってしまいます。
このため、妊娠前に可能な限り血管の治療を受けてから妊娠してもらうことが、現状でできる最大の対策になっています。特に脳の血管に異常がある場合、血管が破裂することで重症化する危険性があるので、多くのケースでは妊娠前にきちんと治療を受けてから妊娠しています。
一方、肺の血管に異常がある場合には、必ずしも妊娠前に治療が完了していないことも多く、妊娠を優先し何か起こったときに対処する形になることも多いでしょう。
お話ししたように、オスラー病は遺伝性の疾患です。そのため、希望する方は遺伝子検査を受け確定診断を受けることができます。たとえば、これから結婚し子どもを持つことを希望する方は、遺伝子に異常がないか調べることで不安が軽減されるかもしれません。
しかし、私は遺伝子検査によって疾患のリスクを知ることが果たしていいことなのかどうか疑問を抱いています。それは、疾患を知った患者さんのなかには大きなショックを受ける方もいるからです。知らないほうがよかったのではないか、と感じるほど精神的苦痛を受ける方もいるでしょう。
このため、私は、遺伝子検査を行う際には、精神的ケアが重要であると考えています。厚生労働省でも、遺伝子検査は遺伝カウンセリングができる施設で行うことを推奨しています。ただ検査や告知をするだけではなく、告知を受けた後の患者さんをいかにサポートすることができるかが重要になるでしょう。
オスラー病は希少な難病であるため、診断や治療を専門的に行っている施設はまれです。大学病院であっても治療できる場所は限られています。
私たち千葉大学医学部附属病院は、肺動脈性肺高血圧性(肺動脈の圧が異常に上昇することで障害が発生する疾患)を始めとして、昔から肺の血管の疾患を専門的に診てきました。その流れを汲み、肺の血管に異常を現すオスラー病の患者さんも全国から受け入れています。
さらに、オスラー病の治療である血管塞栓術を確実に実施できる医療機関の一つでもあります。
オスラー病の治療において最も重要なことは、複数の診療科の連携であると考えています。たとえば、肺の血管奇形であれば、呼吸器内科と放射線科の医師が連携しなければ治療が難しい現状があります。当院の場合、現状では呼吸器内科と放射線科の連携を実現していますが、今後はさらに、呼吸器内科、脳神経外科、耳鼻科、放射線科、場合によっては消化器内科など、関係する診療科の連携を進めていきたいと考えています。
オスラー病に関係する診療科の協力体制をさらに進めることで、適切な治療の実施につながるでしょう。
オスラー病は希少な疾患であるため、まだ解明されていない部分も多く残されています。さらに、根本的治療は未だ発見されていません。
記事1『遺伝性の難病・オスラー病の原因や症状とは?』でお話ししたように、オスラー病の原因は、遺伝子の異常です。しかし、異常が現れる遺伝子はいくつかあり、どの遺伝子に異常があるかで疾患の発症の仕方などが微妙に異なることがわかっています。
私は、原因となる遺伝子を受け継いでいながらもオスラー病を発病する方としない方の違いがわかれば、より適切な治療につながると期待しています。また、発病した方であっても、重症化する方としない方の違いがわかれば、より患者さんに適した治療を適応することができるかもしれません。
オスラー病の原因解明や根本的治療確立のために、我々医療者も今後の研究に力を注いでいきたいと考えています。
千葉大学 名誉教授、千葉大学真菌医学研究センター 呼吸器生体制御解析プロジェクト 特任教授、千葉大学医学部 呼吸器内科 非常勤講師、国際医療福祉大学医学部・大学院 特任教授
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