概要
トリーチャー・コリンズ症候群とは、頬骨や下顎骨の形成不全、下まぶたの欠損、外耳の形態異常、外耳道の閉鎖などの顔貌症状を示す先天異常です。
遺伝子変異により発症し、約1〜5万の出生に1人の割合で起こると推定されています。親から子への遺伝により発症するほか、突然の遺伝子変異により発症する場合もあります。
原因
トリーチャー・コリンズ症候群の原因遺伝子として、TCOF1、POLR1C、POLR1D、POLR1Bの4つが挙げられます。このうちTCOF1の変異によるものがもっとも多く、全体の約60~90%を占めるとされています。
遺伝形式の多くは常染色体顕性(優性)遺伝*ですが、一部常染色体潜性(劣性)遺伝**をとる場合もあります。常染色体顕性(優性)遺伝は両親のいずれかがトリーチャー・コリンズ症候群である場合、50%(2分の1)の確率で子どもに遺伝します。常染色体潜性(劣性)遺伝の場合は、両親ともに原因遺伝子の変異を有し発症していない場合、25%(4分の1)の確立で子どもに発症します。また、患者の約60%は両親が原因遺伝子を持ってないにも関わらず、遺伝子の突然変異によって発症すると報告されています。
*常染色体顕性(優性)遺伝:両親から1つずつ受け継いだ2つの遺伝子の、いずれかに病気の原因となる変化を持つと発症する。
**常染色体潜性(劣性)遺伝:両親から1つずつ受け継いだ2つの遺伝子の、両方が病気の原因となる変化を持つと発症する。
症状
トリーチャー・コリンズ症候群では、頬骨や下顎骨の形成不全、下まぶたの欠損、眼瞼裂斜下(まぶたの外側が下がる)、毛髪の位置異常(耳の前の毛髪が頬まで生える)、外耳の形態異常、外耳道の閉鎖、口蓋裂などの特徴的な症状がみられます。下顎骨の形成不全によって気道がふさがり、呼吸器症状が引き起こされることもあります。また、耳の形態異常による難聴を生じる患者もいます。知的障害を伴うことは基本的にありません。
なお、これら全ての症状がみられるわけではなく、症状の種類や程度は患者によって異なり、トリーチャー・コリンズ症候群であるかの判断が難しいほど軽症な人もいます。家族内で同じ遺伝子異常を持っていても、症状の程度に大きな差があることもあります。
検査・診断
トリーチャー・コリンズ症候群では、診察やX線などの画像検査による症状の確認のほか、遺伝学的検査*が行われ、診断を確定します。トリーチャー・コリンズ症候群と似た症状がみられるNager症候群などの病気と鑑別が必要です。
*遺伝学的検査:採取した血液などから遺伝子異常の有無を調べる検査。
治療
トリーチャー・コリンズ症候群の症状の程度は軽症から重症までさまざまです。したがって、個々の患者の病状やニーズに合わせて適切な治療方針を決定します。
下顎骨の形成不全による重度の気道閉塞によって出生後に呼吸器症状がみられた場合には、気管切開などの緊急的な処置が必要になることがあります。ミルクや食べ物を口から摂取できない場合にはチューブによる栄養管理を行います。外耳道閉鎖による難聴があれば、骨伝導補聴器の装着や早期からの言語療法を行い、場合によっては機能改善手術が必要になることもあります。年齢に応じて、顎顔面や口蓋裂の修復術などの形成術が複数回にわたって行われるケースもあります。また、トリーチャー・コリンズ症候群は顔に生まれつき特徴的な症状がみられることから、心理的なサポートも重要です。
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