概要
ペストとは、ペスト菌(Yersinia pestis)により引き起こされる感染症のことです。発熱や悪寒などの症状のほか、敗血症ペストにかかると足や手の指、鼻などに黒いあざが生じることから“黒死病”とも呼ばれます。
ペスト菌は主にマウスやラットなどのげっ歯類の体内に生息しており、それらに寄生しているノミが人を吸血することによって感染します。また、肺ペスト患者さんからの飛沫を吸い込むことでも感染が成立します。
歴史的には記録に残る限り、エジプト、ヨーロッパ、インド・中国の3回の世界的大流行が発生し、多くの死亡者が出たことが知られています。特にヨーロッパでの流行時は、死者が2,000〜3,000万人にものぼる大流行になったといわれています。
現在は治療薬の普及や環境整備などが進み、上記のような規模での大流行は発生していません。しかし、世界では散発的な発生例が報告されており、死亡者も決して少なくはありません。現在はコンゴ民主共和国、マダカスカル、ペルーからの患者発生報告が多いです。
日本では19世紀末から20世紀初頭にペストが流行しましたが、ペスト菌の発見者の1人である北里 柴三郎の指導もあり、1926年以降の発生例はないとされています。しかし、国際化が進み、ペスト菌に感染した動物との接触機会も残されているため、引き続き注意する必要があります。
原因
ペスト菌(Yersinia pestis)に感染する原因として、ペスト菌に感染した動物からの感染や人からの感染が考えられます。
ペスト菌に感染しているネズミやノミに寄生するノミが人を吸血することによって感染することがあるほか、感染した人や動物に触れることによっても感染することがあります。また、肺ペストの患者の飛沫を吸い込むことによって感染することもあります。
症状
ペストの形態は、腺ペスト、肺ペスト、敗血症ペストの3つに分類されます。症状はそれぞれの形態に応じて異なります。
腺ペスト
主にペスト菌を保有するノミに咬まれることで発症するペストです。歴史的な大流行とも深く関連する形態です。体内に入り込んだペスト菌は、リンパの流れにのってリンパ節内で増殖します。2~7日ほどの潜伏期間の後に突然の高熱、悪寒、頭痛、痛みを伴うリンパ節の腫れ(鼠径部が腫れることが典型的です)が発生します。腺ペストが全体の80~90%を占めています。
腺ペストの治療がうまくいかないと、ペスト菌はさらに全身へ広がり、各種臓器に関連した症状を生じるようになります。ペスト菌が肺に到達すると肺ペストとなります。
肺ペスト
肺ペストは、腺ペストや敗血症ペストから移行することもあります。また、肺ペスト患者の唾液や咳などを介した飛沫感染により、最初から肺炎として発症することもあります。肺ペストの潜伏期間は1~4日程度とされます。発熱や悪寒に加え、咳、痰、胸痛など、呼吸器に関連した症状が現れます。
敗血症ペスト
敗血症ペストは、腺ペストや肺ペストに続いて起こることがあります。全身にペスト菌が広がっている状態であり、発熱、悪寒、腹痛、出血傾向などをきたし、死に至ることもあります。出血傾向に関連し、足先や指先、鼻などの皮膚に出血斑という黒っぽいあざが生じることもあります。
検査・診断
ペストの診断は、血液、痰、リンパ節から膿などを採取し、原因となっているペスト菌を確認する検査を経てなされます。そのほか、ペスト菌が有する特別な遺伝子を検出するPCR法、患者さんの血液中に存在する抗体を検出する方法がとられることがあります。
WHOのサポートにより、15分前後でペスト菌を検出できる迅速キットが普及している地域もあります。
治療
ペストの治療方法としては、抗菌薬による薬物療法が検討されます。使用される主な抗菌薬は以下のとおりです。
ペストの治療に使用される主な抗菌薬
- アミノグリコシド系
- テトラサイクリン系
- クロラムフェニコール
- ニューキノロン系
など
ただし、これらの抗菌薬は小児においては安全性が確立されていません。そのため、使用には慎重な姿勢が必要であるといわれています。
予防
ペストは動物から感染することがあるため、感染が疑われる動物に触れないことが大切です。たとえば、ネズミの死骸を処理しなければならない場合などには死骸に直接触れず、手袋を着用して触れるようにしましょう。また、ノミに刺されることで感染する恐れもあるため、殺虫剤を活用するなどの予防対策を行いましょう。
また、ペストは人から人へ感染する可能性もあります。肺ペストの流行地に行く場合には、必要に応じてマスクを着用し、人混みを避けるようにしましょう。
医師の方へ
「ペスト」を登録すると、新着の情報をお知らせします