インタビュー

ペストの治療方法と感染対策

ペストの治療方法と感染対策
渡邉 治雄 先生

国際医療福祉大学 医学部 教授

渡邉 治雄 先生

この記事の最終更新は2018年02月14日です。

ペストとは、ペスト菌により引き起こされる感染症のことです。発症形態によっては命にかかわる疾患ですが、抗生物質の早期投与により後遺症を残さず治療することが可能です。また、1926年以降は日本での発生例はないとされていますが、ペストの流行地域では感染の可能性が残されています。流行地域を訪れる際は、ネズミなど動物の死骸の接触を避ける、殺虫剤のスプレーなどを使用してノミに刺されないようにする、医療従事者など患者に接触しなければならない人は手袋・マスクを着用するなど、十分な感染対策を行ってください。

今回は、ペストの治療方法と感染対策について、国際医療福祉大学医学部教授 渡邉治雄先生にお伺いしました。

ペストは後遺症を残さず治療することが可能な疾患です。初期症状であるリンパ節の腫れがみられた段階で抗菌薬*を投与すれば、ほとんど命にかかわることはありません。

一方、症状が進んでペスト菌が全身に広がってしまった状態では、治療の効果が反映されず亡くなってしまう方もいます。

*抗菌薬:人工合成された化学物質と、微生物によってつくられた抗生物質の総称。

ペストの治療薬として選択されるのは、主にニューキノロン系の抗菌薬です。その他、アミノグリコシド系抗生物質の1つであるストレプトマイシン硫酸塩、テトラサイクリン系抗生物質、クロラムフェニコールなどが用いられます。

ペストの予防としては、まずは地域の衛生状態を向上させることが重要です。ペスト菌を保持するげっ歯類(野ネズミなど)が人間の世界に入ってこなければ感染防止に繋がるためです。

個人ができる感染対策としては、下記のような例があります。

ペストの感染を防ぐために、流行地域においては感染のリスクが高い行動(ネズミの死骸に素手で触れるなど)をとらないことが重要です。

現在の流行地域は、検疫所のブースおよびホームページで確認することができます。アフリカや中南米の山奥などを訪れる予定がある方は、流行地域に関する情報を参考にして十分注意してください。

ペスト発生国では、小動物の死骸に触れないようにしてください。ネズミの死骸にはペスト菌が残存していることがあるため、死骸の取り扱い時には手袋をするなどの感染対策を講じる必要があります。

また、ペスト菌は、患者のリンパ節から排出された(うみ)・痰(たん)のなかにも生息しています。これらとの接触を避けるため、治療にあたる場合は手袋やマスクを着用してください。

ペスト菌を保有しているノミの予防対策としては、ディートやイカリジンなど殺虫剤のスプレーを使用する方法があります。スプレー型の殺虫剤は効き目が早く現れるため、流行地域において有用です。

ペストの流行地域で活動することが事前にわかっている場合、ワクチンの接種や抗生物質の内服が検討される場合があります。下記『ペストの予防薬』にて詳しく述べます。

渡邉先生

ペストの流行地域において明らかに感染リスクが高い状況では、発症を予防するために抗生物質の内服が推奨される場合があります。たとえば、ペストの患者さんと接触したり、ネズミの死骸に触れたりした場合です。

しかし、予防投与には下記のような危険性があります。事前の予防投与が検討される際は、自己判断で内服せず、医療機関に相談するようにしてください。

<予防投与の危険性>

  • 耐性菌(薬剤への耐性がついた菌)を出現させる可能性がある
  • 他の感染対策をおろそかにしてしまい、感染リスクを高める

2017年現在、日本ではペストのワクチンの製造は中止されています。理由としては、一般的なワクチン作成のルートをたどらない緊急用であること、コスト&ベネフィット(費用対効果)が低いことなどが挙げられます。

緊急の場合には、国立感染症研究所にて製造することが可能です。

日本では、将来的にペストが流行する可能性はほぼないと考えられています。ペスト菌が国内に持ち込まれる可能性が低いだけでなく、町に生息する野ネズミやノミの数が少ないなど高い公衆衛生状態にあり、感染拡大しにくい環境であるためです。

ただし、ペストの流行地域においては今後もペスト菌への接触の可能性が残されています。流行地域を訪れる際は、時間的な余裕を持った対応を心がけましょう。

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