概要
回虫症とは、ヒト回虫と呼ばれる寄生虫によって引き起こされる感染症です。ヒト回虫は、生活環としてまず、患者さんの腸に寄生し、成虫から卵を産み落とします。産み落とされた回虫卵が糞便と共に排泄され、虫卵に汚染された野菜等を他のヒトが摂取すると、胃から小腸を経て肝臓、肺などの臓器に侵入・成長します。その後、気管支をあがり口から飲み込まれて再び小腸へ戻り、そこで成虫になります。
回虫症を発症すると、喘息や咳、腹痛などの症状が生じる可能性があります。いわゆる回虫はそれぞれの哺乳類に固有であるため多くの種類が存在しており、イヌやネコ、アライグマなどのヒト以外の動物に寄生するタイプの回虫も存在します。異種間では成虫になれず、産卵することはありません。
こうしたタイプの回虫が誤って人間の体内に取り込まれてしまうと、その幼虫がヒトの各臓器に迷入し、回虫移行症と呼ばれる病気を発症します。回虫移行症ではけいれんや失明などが起こるリスクが伴います。
ヒト回虫に感染すると、糞便が多くの卵に汚染されます。そのため畑の肥料として糞便を使用していた時期の日本では、回虫症はとてもありふれた国民病のひとつでした。衛生環境の向上とともに、日本において回虫症がみられることは少なくなってきていますが、世界を見渡すとまだまだありふれた病気のひとつです。
また、回虫移行症を発症すると、後遺症を残すことがあります。したがって、回虫に関連した健康被害については、今後も留意をすることが重要です。
原因
回虫はヒトの消化管内に寄生し、メスの回虫は一日のうちにおよそ20万個の卵を産み落とします。産み落とされた大量の卵は糞便とともに環境中へと散布され、環境が多くの卵で汚染されます。
卵は環境中で徐々に成熟して、ある段階で感染性をもつ特殊な卵の形態へと変化します。そのため、畑の野菜が感染性を持つ卵で汚染されると、野菜をきれいに洗わない状況などで経口摂取することで体内に卵が移り込みます。
そして、ヒトの体内で卵は孵化し、メスの回虫は繰り返し卵を産み落とすようになります。さらに、消化管壁の中に入り込み、血流に乗ることから肺へと回虫が移動します。その後、肺内で回虫はさらに成熟し、肺胞を突き破り気道内へと回虫が放出されることになります。気道内の回虫は痰として上行性に移動し、それを飲み込むことで消化管内におけるさらなる感染を繰り返すことになります。
症状
回虫症では、消化管内に回虫が存在する状態ですが、必ずしも症状が現れるわけではありません。
大量の回虫がお腹の中で絡み合うことで、便や食物の通過障害を起こし、腹痛や吐き気といった症状が出現します。
また、回虫は気道系へも移動しますので、その際に咳や喘鳴、血痰などの症状がみられることもあります。消化器症状や呼吸器症状以外にも、低栄養や成長障害、食欲減退などの症状も現れます。
しかしこうした症状がない場合でも、回虫の生活史のなかで気道系に排泄された回虫が体外に排泄されたことをきっかけとして、回虫症にかかっていることがわかることもあります。
検査・診断
回虫症は、回虫の存在を証明することで診断されます。そのため便を用いて卵や成虫の存在を調べます。
また、便以外にも回虫は痰に含まれることもありますので、痰を検体として用いることもあります。
豚回虫・牛回虫・馬回虫・犬回虫・猫回虫など各種の回虫は、ヒトでは成虫になれないので産卵することはなく、糞便の虫卵検査では検出できません。
治療
回虫症は、アルベンダゾールやメベンダゾール、イベルメクチンといった薬剤の内服によって治療します。こうした薬剤は長期的に内服が必要というわけではなく、1〜3日ほどの内服で回虫症を治療することが可能です。
また、副作用が出現することもほとんどありません。ただし、妊婦さんへの治療に際しては、状況を見極めつつ判断することが求められます。
回虫は多くの卵が便とともに環境中にばらまかれ、環境が卵で汚染されることで周囲へと感染が広がります。かつての日本においては肥料の一部として人の糞便が使用されていた過去もあり、国民病として流行していました。しかし現在では衛生環境が整っていることから、日本において回虫症をみることはまれです。
ただし、海外に目を向けると回虫症はまだまだよく見られる病気です。汚染が疑われる地域に赴く際は、食物が回虫症の卵で汚染されているリスクに注意を払うことが大切です。食事では、加熱された食物を摂取することが重要です。また、調理前には食物をしっかりと洗浄し、手洗いを徹底するなど、衛生に対しての注意を払うことが、回虫の予防に必要不可欠です。
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