強迫性障害の治療は主に薬物治療と認知行動療法が挙げられます。記事3「強迫性障害の診断」でご説明しましたが、強迫性障害は正確な診断によりタイプに合わせた的確な治療を行うことができます。ここでは、強迫性障害の主な治療やタイプに合わせた治療法について、兵庫医科大学病院 精神科神経科 主任教授の松永寿人先生にお話しいただきました。
強迫性障害の主要な治療は、SSRIを主とした薬物治療、および認知行動療法です。
薬物療法の第一選択は、強迫性障害の保険適応を有しているSSRI(フルボキサミン、パロキセチン)、あるいはクロミプラミンなどの強力なセロトニン再取り込み阻害作用をもつ抗うつ薬です。
これらの効果が不十分な場合、診断の再確認など原因を検討して治療法を再考します。薬物療法では、他のSSRIへの変更、SSRIに少量の非定型抗精神病薬を付加投与する方法などを試みます。これが記事3「強迫性障害の診断」で述べた「増強療法」であり、SSRIが効きにくいチック関連にはこの方法を用いると効果が期待できます。
チック関連の強迫性障害の治療に、効かないとされているSSRIが必要なのか疑問に思われる方もいるかもしれません。しかし非定型抗精神病薬はSSRIと併用して使用しなければ効果が出ないので、チック関連にもSSRIが必要です。特にご本人の不快感や不全感の緩和には、SSRIが必要なのではないかと考えています。強迫性障害では、そのタイプに関わらず、まずSSRIを使用し効果不十分の場合に増強療法を行うのが望ましいです。
患者さんの強迫性障害のタイプなどに合わせて最適な認知行動療法を行います。
たとえば、「何か汚い感覚にとらわれれば、手を洗わずにはいられない方に、嫌なものを避けず、手を洗うのを我慢しなさいという」ものです。この方法は不安や観念にとらわれ、回避を伴うような一般的な「認知的タイプ」の強迫性障害に用います。これまで恐れ回避していたことを直面化し(曝露法)、不安を軽減する為の強迫行為をあえてしないこと(反応妨害法)を継続的に練習します。当初はおおむね治療者主導ですが、自ら課題を考え、問題を分析し解決する方法を模索するなど、徐々に自己制御へ移行することが重要です。進め方は以下の通りです。
1
先行刺激と観念、不安、行為の行動分析
2
対象とする症状や治療目標の明確化
3
症状を止めやすいと思う順番に難易度をつけて、不安階層表を作成
4
難易度の低い課題から開始する。この際、どの様な方法で、どの様に考えて、またいかに回避せず挑戦していくかなどを、治療者と十分に話し合い実行を約束する。
5
ホームワークとセルフ・モニタリング
6
課題が達成できれば、より難易度の高い課題に進み、達成困難な場合には、その原因を検討し修正していく。当初は動機づけや支持、説明など、治療者主導で進めることが多い。しかし患者自身が課題を考え、自分の問題を分析し、反省と理解のうえで、修正したり解決する方法を模索したりするなど、徐々に自己制御に向けていく。
(引用:厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」)
「運動性タイプ」の強迫性障害の方には、食事・入浴・歯磨きなど全て時間を設定し、その中で収める練習を行います(ぺーシング)。時間がきた場合や動けなくなってしまった場合などは、家族や看護師などの第三者が介入し、きっかけを与え、次の行動に促すプロンプテイング技法も併用します。また「運動性タイプ」の強迫性障害や強迫関連障害といった、衝動が行動の出現に関わるものには、ハビットリバーサルも行います。これは、①意識化練習、②拮抗反応の学習、③リラクゼーション練習、④偶然性の管理、⑤汎化練習の5段階から構成されています。
ほかにも、ADL(日常生活動作)の向上を目指す作業療法やデイケアも有効です。まとめますと「運動性タイプ」や「チック関連」のような「まさにぴったり感(just right feeling)」を求めて動けなくなる患者さんには動かすよう促し、不安から手洗いや鍵の確認などの強迫行為が止められない「認知的タイプ」には、怖いものから逃げず行動を止めさせるという行動療法を行います。概して強迫性障害は、病気とつきあう「時間」、「空間」、「エネルギー」を持てば持つほど悪化します。ですので、自宅にこもり、自由に病気と付き合える時間や空間があれば、ますます悪化する方向に向かいます。このため、できるだけ定期的に外出する習慣を持ち、病気と付き合う「時間」や「空間」、そして病気に注ぎ込む「エネルギー」を縮小させるよう意識させることも重要です。
その上で、強迫性障害のタイプに合わせて治療を行うことが重要です。
兵庫医科大学 精神科神経科学講座 主任教授
松永 寿人 先生の所属医療機関
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