概要
慢性蕁麻疹とは、繰り返し出現する蕁麻疹が6週間以上続く状態を指します。
蕁麻疹は皮膚の一部が突然赤く膨れ上がり(膨疹)、しばらくすると跡形もなく消失する病気です。何らかの刺激によって、マスト細胞からヒスタミンという物質が放出されるとヒスタミンが毛細血管を拡張させ、血管から血漿*成分が漏出することで皮膚が赤く膨らみます。また、ヒスタミンは神経を刺激するため、強いかゆみを引き起こすこともあります。
蕁麻疹は原因や症状の持続期間などによって急性や慢性、物理性、アレルギー性などに分類され、このうち慢性蕁麻疹は発症から6週間以上経過して持続するものを指します。慢性蕁麻疹の原因は特定できないことが多く(慢性特発性蕁麻疹)、症状は数か月〜数年にわたって繰り返し出現することもあります。
慢性蕁麻疹と診断された場合は、膨疹の発生を抑えるために抗ヒスタミン薬を用いた薬物療法などが行われます。
*血漿:血液から白血球や赤血球、血小板などの細胞成分を除いた液体。約90%が水分を占め、アルブミンや免疫グロブリンなどのタンパク質が含まれている。
原因
蕁麻疹には、特定の食品や植物、昆虫、薬剤などのアレルゲンに反応する“アレルギー性蕁麻疹”と、温熱や寒冷、日光、ストレスなどの刺激が原因となる“非アレルギー性蕁麻疹”の2つがあります。いずれも、アレルゲンまたは刺激を受けて皮膚のマスト細胞からヒスタミンが放出されて蕁麻疹が現れます。
慢性蕁麻疹は毎日のように繰り返し現れることから、多くのケースでは原因の特定は困難です。一部の慢性蕁麻疹患者では血液中に自己抗体(抗IgE抗体)が存在しており、それによってマスト細胞が活性化することが分かっています。
症状
皮膚の一部が赤く膨らみ、多くの場合かゆみを伴うほか、灼熱感やヒリつきを感じることもあります。多くの蕁麻疹は数十分~数時間で消失しますが、慢性蕁麻疹は毎日のように繰り返し症状が現れ、特に夕方から夜にかけて出現または悪化しやすいといわれています。
膨疹の大きさは、小さいもので1〜2mm程度、大きい場合は膨疹が結合して体のほとんどを覆うこともあります。
検査・診断
症状や症状の持続期間から慢性蕁麻疹が疑われる場合は、プリックテストなどの検査を行うことがあります。プリックテストは、針を使って原因と考えられる物質を少量皮膚に入れ、膨疹反応をみる検査です。
また、一部の慢性蕁麻疹患者では血液中にマスト細胞を活性化させる自己抗体が検出できることから、血液検査を行って自己抗体の存在を確認することもあります。
治療
症状を抑制するために薬物療法が行われます。
治療初期では、一般的に抗ヒスタミン薬が用いられます。内服から1〜2週間経過後に効果判定を行い、その結果に基づき必要に応じて内服量を増やすか、ほかの薬剤の使用を検討します。
抗ヒスタミン薬以外に使用される薬には、ヒスタミンH2拮抗薬*や抗ロイコトリエン薬*、副腎皮質ステロイド薬などが挙げられます。これらの薬を使用しても症状を抑制できない場合は、慢性蕁麻疹治療薬の“オマリズマブ”や免疫抑制薬の“シクロスポリン*”などが用いられることもあります。
また、食物や物理的刺激など蕁麻疹を誘発する原因が特定できない慢性特発性蕁麻疹に対しては、サイトカイン**のはたらきを抑えるデュピルマブが2024年2月に保険適応となりました。ヒスタミンH1受容体拮抗薬を増量するなどの適切な治療を行っても、日常生活に支障をきたすほどのかゆみを伴う膨疹が継続してみられる場合に適応となります。
なお、副腎皮質ステロイド薬(外用)は一定の効果が期待できるものの、副作用のリスクを踏まえて短期間の使用にとどめることが推奨されます。
慢性蕁麻疹では原因が特定できないケースが多いものの、ストレスや疲労は膨疹が生じる起点(反応閾値)を下げるといわれています。反応閾値が下がると、通常であれば蕁麻疹が生じない程度の刺激に対しても蕁麻疹が生じることがあるため、ストレスや疲労をためないよう日常生活を送ることが大切です。
*ヒスタミンH2拮抗薬・抗ロイコトリエン薬・シクロスポリンは蕁麻疹に対して保険適用外。
**免疫系細胞から分泌される物質で、細胞間の情報伝達を担う。知覚神経に作用することでかゆみを引き起こす。
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