概要
手掌多汗症とは一般的に“手汗”と呼ばれるもので、幼少児期あるいは思春期頃に発症し、精神的緊張によって手のひらに多量の発汗を認める病気です。
多汗症は全身の発汗量が増える“全身性多汗症”と、体の一部に限って発汗量が増える“局所性多汗症”に分類され、手掌多汗症は局所性多汗症に含まれます。
症状が現れる部位として、手のひらのほかに足裏、頭部・顔面、腋などがあります。手のひらと併せて足裏に多汗症が生じることも多く、手のひらと足裏に限って発汗するものを掌蹠多汗症と呼びます。
原因
手掌多汗症の主な原因は、精神的緊張によるものといわれています。
どのようにして起こるかについてはまだはっきりと分かっていませんが、発汗を司る交感神経がほかの人よりも過敏に反応しやすいのではないかと考えられています。
また、近年は家族内での発症が報告され、一部の患者には何らかの遺伝子が関係している可能性が指摘されています。
症状
精神的な緊張が強い時や物を持つ時などに、一時的に両方の手のひらに多量の汗を認めます。症状が重い場合には時にしたたるほどの発汗がみられ、手のひらが常に湿って指先が冷たくなり、紫色になることがあります。
発汗量は日中に多く、寝ているときには発汗しないのが特徴です。季節による発汗量の変動もみられ、寒い時期には発汗量が減少し、暑い時期には発汗量が増加する傾向にあります。
また手のひらに多量の汗をかくことで書類に汗染みができる、握手の際に相手に不快感を与えるのではないかと感じる、したたる汗で電気機器が破損するなど日常生活に大きな支障をきたします。これによってQOL(生活の質)が低下するばかりか不安症(不安障害)や対人恐怖症になる人もいます。
検査・診断
手掌多汗症では、ガイドラインによって診断基準が設けられています。6か月以上にわたって手のひらに多量の汗を認めることに加え、以下の6項目のうち2項目以上当てはまる場合に手掌多汗症と診断されます。
- 初めて発症したのが25歳以下であること
- 発汗が左右対称にみられること
- 睡眠中には発汗しないこと
- 多汗が1週間に1回以上あること
- 家族歴がみられること
- 上記によって日常生活に支障をきたしていること
問診だけで診断されることもありますが、発汗検査が行われる場合もあります。発汗検査には、ヨードを加えた紙に手のひらをつけた時の変色度合から発汗量を確認するヨード紙法や、特殊な発汗計を用いて発汗量を測定する換気カプセル法などがあります。
治療
手掌多汗症では、まず外用薬による治療やイオントフォレーシス治療が行われるのが一般的です。そのほかの治療として、注射による治療や手術などがあります。
外用薬による治療
塩化アルミニウム外用薬を手のひらに塗布します。重症の場合には外用薬を塗った後、ポリエチレンフィルムなどで覆って密封するODT療法(密封療法)が行われることもあります。
イオントフォレーシス治療
水道水の入った容器内に手のひらを浸し、10~20mAの弱い電流を流す治療法です。通電する際に生じる水素イオンが汗腺に作用して発汗を抑えるとされ、手掌多汗症に対して非常に有効です。
1回30分の治療を10回前後行うと発汗量が減ってきます。効果を維持するには、その後も1週間に1~2回行うのがよいといわれています。
注射による治療
手のひらに2cm間隔でボツリヌス菌毒素を注射し、発汗を促す交感神経のアセチルコリンという神経伝達物質の放出を抑えることで発汗を抑制します。
この治療を行うことによって1週間程度で発汗量が減少し、効果は約6か月持続します。ただし、現在のところ保険適用外とみなされています。
手術
全身麻酔下で腋の下から内視鏡を挿入し、内視鏡を見ながら多汗の原因になっている胸部の交感神経を遮断します(内視鏡的胸部神経遮断術)。
手掌多汗症における有効率はほぼ100%で、もっとも効果のある治療です。しかし少なからず体に負担がかかるほか、術後の合併症として代償性発汗(手のひら以外の場所の発汗が多くなる)が高頻度に起こります。
そのため、一般的に内視鏡的胸部神経遮断術は重症の患者で保存的治療による十分な効果が得られない場合に検討されます。
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