概要
機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)とは、胃部痛や胃もたれなどの症状が慢性的に続いているにもかかわらず、採血検査や胃カメラ検査などを行ってもその原因となるような異常が特定できない病気です。「機能性胃腸症」と呼称される場合もあります。
機能性ディスペプシアでは、食事をした後の胃もたれ感や早期飽満感、心窩部の痛みや焼ける感じなどが症状として現れ、慢性的に続きます。
原因
機能性ディスペプシアを起こす要因には、主に以下があります。
- 胃の運動機能の障害
- 内臓の知覚過敏
- 心理社会的なストレス
胃の運動機能の障害
食事をすると、胃はその食べ物を貯留するために緊張を緩めて膨らみ(適応性弛緩)、胃のぜん動で適量ごとに十二指腸へ食べ物を送ります。機能性ディスペプシアの患者さんではこの適応性弛緩が不十分であるために(適応性弛緩不全)、胃に十分な食べ物が貯められなかったり、適切な胃のぜん動ができなかったりして、胃もたれなどの症状を起こします。
内臓の知覚過敏
また、胃の知覚過敏が起こり、過食で胃がパンパンになったり、刺激の強いもの(唐辛子の成分であるカプサイシンなど)が胃に入ってくることでより症状を起こしやすい状態となっています。
心理社会的なストレス
さらに、睡眠不足や過労などの身体への負担や、悩みやストレスなど精神面での負担があることも機能性ディスペプシアの原因となります。不安やうつなどの気分の不調も症状に影響を及ぼします。
症状
機能性ディスペプシアは、その症状から以下の2つに分類されています。しかし、実際には、食後愁訴症候群と心窩部症候群が入り混じった症状が現れ、明確に線引きすることができないケースも多くあります。
食後愁訴症候群
食事をした後の胃もたれ感や、早期飽満感(食事の途中でお腹がいっぱいと感じてしまい、十分な量を食べられないこと)などの症状を特徴とするものです。
心窩部痛症候群
心窩部(みぞおちのあたりのこと)の痛みや焼ける感じなどの症状がみられるものです。これらの症状は、食事摂取の有無にかかわらず現れます。
検査・診断
問診
機能性ディスペプシアが疑われる患者さんには、まず自覚症状について詳しく聞きます。どのような症状が、どのような頻度で、どれくらいの期間続いているか、症状はどのようなときによく起こるのかを丁寧に質問していきます。また、その原因にストレスや心理社会的要因が関わっていることもあるため、過労や睡眠不足、精神的なストレスなどがないかを聞いていきます。
上部消化管内視鏡検査(胃カメラ検査)など
胃がんや胃潰瘍など症状を起こしうる病気がないかどうかを調べるために大切な検査が、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ検査)です。その他、必要に応じて血液検査や腹部超音波検査(エコー検査)、CT検査などを行います。
その他
必要に応じて、胃の排出機能を調べる検査(胃排出機能検査)や胃にどれくらい食物を貯められるか調べる検査(ドリンクテスト)を行うことがあります。ただし特殊な検査であるため、機能性ディスペプシアとして治療を開始したあとも改善が得られず患者さんが希望した場合などに行うことが多いです。
治療
機能性ディスペプシアの治療は、主に薬物療法や生活指導です。
薬物療法
症状に合わせて薬剤を選択し治療を行っていきます。心窩部痛や心窩部の灼熱感が主な症状であるケース(心窩部痛症候群)では、胃酸の分泌を抑える酸分泌抑制薬を第一選択として使用します。また、食後のもたれ感や早期飽満感が主な症状であるケース(食後愁訴症候群)では、胃の動きを促す薬を用いて治療します。
しかし実際には、食後愁訴症候群と心窩部症候群が入り混じった症状が現れ、明確に線引きすることができないケースも多くあります。個々の患者さんに合わせて適宜治療薬を選択し、ときにいくつかの種類の薬を併用することもあります。
また、胃もたれをはじめとした上腹部のさまざまな症状に対して、六君子湯という漢方薬の効果が期待できるとされています。
悩みやストレスなどの心理的な負担や、不安やうつなどの気分の不調が原因と考えられる場合には、抗不安薬や抗うつ薬を用いることもあります。また、検査によって症状の原因がわかることで不安が解消され、症状が改善されることもあります。
生活指導
機能性ディスペプシアの症状は、食生活をはじめとした生活習慣とも密接な関係があります。油の多い食事はカロリーが高く、胃の動きを抑制してしまう作用があるため胃もたれなどの症状が起こりやすくなります。
さらに、胃と食道の境目にあり胃酸の逆流を防いでいる筋肉(下部食道括約筋)を緩めてしまう作用もあるため、揚げ物、炒め物、生クリーム、クッキー、ナッツ類など脂質の多い食事を避けるよう心がけることが大切です。
また、アルコールや香辛料、炭酸飲料、コーヒーなどは胃酸の分泌を刺激し、症状を悪化させることがあるため控えた方がよいとされています。食事をよく噛みゆっくりと摂ることも、症状を和らげるために有効とされます。さらに1回に食べる量を減らし回数を増やすことで症状を改善させることができる場合もあります。
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