粒子線治療には、重粒子線(炭素イオン線)による治療と、陽子線による治療があります。兵庫県立粒子線医療センターは、重粒子線治療と陽子線治療の両方が行える施設です(2023年8月時点)。
本記事では、兵庫県立粒子線医療センターの特徴や、重粒子線と陽子線の使い分け、粒子線治療の流れなどについて、同院の放射線科長である寺嶋 千貴先生に伺いました。
当院の特徴の1つは、重粒子線と陽子線、どちらの治療も受けることができる点です。当院では、一人ひとりの患者さんの病態に合わせて、重粒子線と陽子線のどちらが適切かを選択しています。
重粒子線治療と陽子線治療、両方の設備が整っている当院には、遠方から来られる患者さんもいらっしゃいます。
粒子線治療は、記事2『肝細胞がんに対する粒子線治療とは? 粒子線治療のメリット、デメリット』でお伝えしたとおり、がんが消滅するまでに時間がかかるため、定期検査をして経過観察することが大切です。治療後も定期的に通院をしていただきたいのですが、遠方にお住まいの患者さんでは難しいことがあります。そのため、当院が患者さんの経過観察を診るための「マイカルテ」というファイルを、患者さんにお渡ししています。
マイカルテの使い方をご説明します。地元の病院で定期検査を受けていただいた後、CT画像や採血などのデータをマイカルテに入れて、患者さんから当院に郵送していただきます。これらのデータから、粒子線治療の効果の判定や再発の有無、お困りの症状が現れている場合は、放射線治療の副作用によるものか、といった診断などを当院の医師が行います。その診断結果を書面にしたのち、患者さんに返送しています。このように、マイカルテは患者さんが当院で定期検査を受ける機能を代替します。必要があれば、患者さんの地元の医師に向けて手紙を書いたり、電話で確認したりすることもあります。
重粒子線と陽子線の違いは2つあります。
1つめは、照射時の角度の差です。当院の重粒子線は上からの45度刻みの照射となります。患者さんに横になっていただく照射台を水平方向に回転させることである程度の照射角度の自由は得られますが、照射方向が限定されることが重粒子線のデメリットです。その一方、陽子線は、360度どこからでも照射することができます。
2つめは、照射範囲の差です。下の画像をご覧ください。
右2つの画像は、陽子線と重粒子線を照射したときに、腫瘍細胞に与える影響力の段階を表した画像です。中心部の赤色の線から、紫色、緑色、黄色、青色の線にかけて、影響力が小さくなっています。陽子線治療と重粒子線治療を比べると、グラデーションの横幅が、重粒子線治療のほうが狭いことが分かります。このように、重粒子線のほうが正常細胞に与える影響が少ないことが分かります。
しかし、重粒子線は、陽子線よりも少し奥に進みやすいという特性も持ち合わせています。
当院では、治療を開始する前に、必ずコンピューターを用いてシミュレーションを行います。重粒子線と陽子線治療どちらともシミュレーションを行い、粒子線の当たり方や、正常組織への被ばく量などを計算をして、どちらが患者さんの病態に適しているのかを検討したうえで選択します。
本項では、兵庫県立粒子線医療センターにおける受診方法と、初診から治療完了までの流れをご説明します。
当院で粒子線治療を受ける場合、入院は必須ではありません。遠くにお住まいの方は入院を選択されることがほとんどですが、近隣にお住まいの方であれば通院も可能です。以下に、当院における治療の流れを示します。
肝細胞がんの場合、照射回数は、4回、10回、12回、20回のいずれかから病態に合わせて選択します。照射は1日に1回であるため、当院に足を運んでいただく期間は、検査期間も含めて、最短であれば2週間、最長で6週間ほどです。
当院は紹介制の病院であるため、受診をご希望の場合は、がんの診断を受けた病院の検査結果と、主治医に記入いただいた紹介状をFAXで送っていただきます。
当院では、それらの情報から病態を勘案し、粒子線治療の適用について確認します。粒子線治療が適用している場合は、初診予約をして来院していただきます。
1)で初診予約していただき、当院に来院していただいた後は、2日間にわたってCT、MRI、採血検査などを受けていただきます。
2)の検査結果をもとに、当院の医療従事者側で約5日間かけて治療計画を熟考します。治療計画が完成したら、患者さんにご説明をします。同意をいただけたら、4)の治療リハーサルに進みます。
初回治療の前日は照射の練習として、治療リハーサルを行います。患者さんには、照射中の呼吸の練習などをしていただきます。
粒子線治療を受ける際は、治療台の上に仰向けかうつ伏せの状態になっていただきます。照射中は痛みを感じることはありません。
照射中は治療リハーサルどおり、一定のリズムで落ち着いた呼吸をしていただくことを患者さんにお願いしています。照射中は、粒子線とは別の、呼吸の動きを見るための赤外線を患者さんに照射しています。この赤外線は、咳などの呼吸の乱れによって粒子線が正常細胞に当たることを避けるために用います。呼吸の乱れがあると、この赤外線が感知して粒子線の照射が中止されるようになっています。しかし、中断せずスムーズに照射が終了できるよう、落ち着いた呼吸をしていただくようにお願いしています。
治療終了後は、入院されている方には退院していただきます。その後は、遠方の方であればマイカルテを通じて、近隣の方であれば当院にお越しいただき、経過観察を行います。
皆さんに覚えていただきたいことは、粒子線治療でしか治療が望めない肝細胞がんがある、ということです。皆さんの中にも、今後、手術やラジオ波焼灼術などでは治すことができず、「もう打つ手はない」と主治医の先生に言われてしまうような肝細胞がんを患われる方がいらっしゃるかもしれません。
もしそのような場合には、「粒子線治療でしか治療が望めない肝細胞がんがある」ということを思い出して、主治医にご相談ください。どうか諦めないでほしいと、切に願っています。
兵庫県立粒子線医療センター 医療部放射線科長兼放射線科部長
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