概要
眼をカメラに例えたとき、虹彩(茶目)はシャッターに相当します。虹彩の中央には光が通る穴が開いており、これを瞳孔と呼びます。虹彩の端は虹彩根部と呼ばれ、眼球の外壁である強膜(白目)に内側から付着しています。また虹彩根部から眼球の後方に向けては毛様体という組織が連なっています。虹彩根部が毛様体や強膜から剥がれてしまうことを虹彩離断といいます。
原因
眼球を打撲すると、眼球の変形に伴い虹彩離断を生じることがあります。
症状
前房出血や虹彩毛様体炎が生じると、以下のような症状を自覚します。
- 視力低下
- 霧視
- 眼痛
- 充血
小さい虹彩離断の場合には、無症状のこともあります。一方、虹彩離断が大きい場合には、虹彩の端に三日月状の裂隙がみられ、また瞳孔の偏移(位置ずれ)や変形が起こります。その場合、羞明や複視を生じることがあります。
検査・診断
視力検査、細隙灯顕微鏡検査、眼圧測定、隅角鏡検査、眼底検査などが行われます。
- 視力検査:前眼部の損傷、炎症や出血などにより視力低下を起こします。
- 細隙灯顕微鏡検査:スリットの光で角膜の状態、前房の混濁状態、前房の深さ、瞳孔の状態、水晶体偏位や脱臼の有無を観察します。
- 眼圧測定:炎症のため眼圧が下がることが多いのですが、前房出血が多いときは眼圧が上がることがあります。この眼圧上昇は一時的なもので、少なくとも数週間でもとに戻ります。逆に、毛様体解離(毛様体までもが強膜から剥がれた状態)を生じると、低眼圧が続くことがあります。外傷後に高眼圧であれ低眼圧であれ、眼圧に異常を伴う場合は再出血の頻度が高くなります。また、受傷後しばらくして眼圧が再上昇することもあるので注意する必要があります。
- 隅角鏡検査:角膜にレンズを当てて、虹彩根部周囲の隅角を観察します。離断した虹彩の後方には、通常は虹彩に隠れている毛様体突起が観察されます。
- 眼底検査:鈍的眼外傷により、網膜振盪症、網膜出血、硝子体出血、網膜剥離などが起こることがあります。
治療
前房出血はまずは自然と吸収するのを待ちます。なかなか吸収されないときには、角膜血染症になる恐れがあるので、発症して1週間以降に出血を洗う手術(前房洗浄)を行います。しかし手術により新たな出血を生じることもあるため、注意深く経過をみます。
虹彩毛様体炎に対しては、炎症の状態に応じて点眼薬など薬物での治療を行います。瞳孔偏位や変形による視力低下、羞明や複視が生じた場合には、離断した虹彩と強膜とを縫合する整復手術を行います。
眼圧上昇には発症から1年前後で上昇する早期型と10年以降に起こる晩期型があります。早期の高眼圧に対して多くの場合は点眼薬あるいは内服薬による治療を行います。眼圧下降点眼薬の種類としては房水産生量を減少させるβ受容体遮断薬や炭酸脱水酵素阻害薬が効果的です。毛様体解離を180度以上生じた症例は眼圧が上昇しやすいのですが、範囲が狭くても眼圧が上昇することがあるので、眼外傷後は毎年経過をみていく必要があります。
晩期型の眼圧上昇に対しては一般的な緑内障(開放隅角緑内障)に準じた治療を行います。点眼治療から始めて、効果が弱い場合には緑内障手術(線維柱帯切除術)を行います。レーザー治療(線維柱帯形成術)は効きにくいとされています。
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