褐色細胞腫は良性と悪性、また大きさや分布によっても治療法が異なります。それぞれの治療方法と治療後のフォローについて、引き続き京都医療センター 臨床研究センターの成瀬光栄先生にお話を伺いました。
褐色細胞腫と診断されたら、まずは手術で原因部位である副腎を摘出する方法が考慮されます。ただし、手術中の血圧変動を避けるため、ドキサゾミンメシル酸塩などのカテコールアミンの作用を抑制する薬を一定期間服用してから手術を行います。また、代謝が亢進し発汗などで水分が失われていることもあるので、手術前には十分な補液(生理食塩水を点滴で補充すること)によって体全体の血液量を保っておく必要もあります。
手術は、腫瘍の大きさにもよりますが約80%のケースで腹腔鏡を使って副腎を摘出する方法(腹腔鏡下副腎摘出術)をとります。この手術は全身麻酔で行い、手術時間は数時間になります。腹腔鏡手術では、通常、お腹に全部で4箇所の小さな穴を開けます。
一方、腫瘍が大きい場合は、お腹を大きく切る開腹手術を行うことも考えます。約90%のケースでは片方のみに腫瘍が発生するため、通常は全摘出を行います(片方の副腎が機能していれば正常量のホルモンを産生することができることがわかっているため心配ありません)。
両側性に腫瘍がある、あるいは将来、反対側にも腫瘍ができる可能性がある場合は部分摘出も検討されます。
手術後は手術部位からの出血がないかを確認するため、お腹の中から外に体液が流れるようにドレーンと呼ばれるチューブを挿入することになります。ドレーンは特に異常がなければ、翌日〜数日で抜くことができ、退院後に支障になることはありません。
良性・悪性に限らず、まずは手術前に血圧のコントロールを行い、二次的な疾患の予防をしなければなりません。このときカテコールアミンの作用を抑えるα遮断薬および必要に応じてβ遮断薬という薬を内服します。褐色細胞腫が良性で手術による摘出ができた後は、多くの場合このような薬を飲む必要はなくなります。
一方、すでに多臓器に転移がみられる悪性褐色細胞腫に対しては、現在CVD療法(シクロホスファミド・ビンクリスチン・ダカルバジンの3種類の抗がん剤を併用する治療)という抗がん剤治療が行われています。
また、保険適応外ではありますが、手術によって取りきれなかった部分に対する治療や手術不可能な症例に対する治療として、131I-MIBGを点滴で静脈注射するという方法もあります。この物質は褐色細胞腫に取り込まれやすく、体内でγ線やβ線を放出することによって褐色細胞腫の抑制に効果を発揮するとされ、すでに欧米で施行されています。しかし日本では、2015年12月の時点では自費負担となり、100~300万円程かかる治療になっています。しかし、2016年4月以降は先進医療に指定され、一部保険適応になるため自己負担額はもう少し軽減されます。
そのほか、スニチニブという分子標的薬の臨床試験が海外実施されています。
手術後は一時的に低血圧になることがありますが、多くは約1日で正常血圧に戻ります。良性の褐色細胞腫である場合、手術で摘出してしまえば、手術を受けた80%~90%の患者さんは症状なく過ごされ、再発もありません。
ただし、前述のとおり褐色細胞腫は病理組織からの良性と悪性の区別が難しく、良性と診断された場合であっても何年かして転移が出現する可能性があります。そのため基本は手術後も生涯にわたり、医師が定期的にフォローしていく必要があります。
一方、悪性褐色細胞腫の場合は骨や肝臓・肺など他臓器に転移し、だんだんと症状が悪化していきます。心不全や腸閉塞、重篤な感染症を合併するケースもみられます。悪性の場合、基本的には少しでも有効であれば抗がん剤治療を続けることになりますが、劇的な改善は難しいのが現状です。
繰り返しますが褐色細胞腫は良性・悪性の診断が非常に難しく、中には再発までの期間が30年もある方もいます。そうなるとずっと同じ医師がフォローすることは困難で、これが褐色細胞腫治療における課題のひとつだと感じています。
また、悪性褐色細胞腫は若い方が発症するケースも少なくありません。入退院を繰り返し、長期にわたる抗がん剤治療を続けなければいけない現状は、患者さんにとって精神的につらい点です。
また、近年では遺伝子検査による問題も出てきています。
褐色細胞腫の原因遺伝子の特定は今後ますます進んでいくと予測されます。そして家族が発症した場合に、遺伝子検査を受けたいという血縁者の方も増えてくるかもしれません。しかし、その遺伝子をもっていても一生涯発症しないケースもあることから、遺伝子検査の実施は十分なインフォームドコンセント(事前の説明)と実施体制のもとですべきだと考えています。
医仁会武田総合病院 内分泌センター長
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