解離性障害とは本来、連続しているはずの記憶や感覚、人格などに空白の部分があらわれてしまう疾患です。原因は多岐に渡りますが、その多くはストレスが関係しているとされています。そもそも解離性障害とはどのような症状を伴うのでしょうか。解離性障害の原因、症状、またご家族や周りの方々ができるサポートについて、岡山県精神科医療センターの耕野敏樹(こうのとしき)先生にお話を伺いました。
解離性障害は本来連続した記憶や意識、人格が不連続となり、空白の部分が存在している状態です。人々は記憶や意識、人格とは本来何らかの形で統合されて、ひとつの連続した状態にあると仮定しながら生活を送っています。この連続していない、あるいは統合されていない、空白の部分を解離現象といいます。
解離性障害は主に思春期以降の方が診断されます。小さい子でもつらい状況になった際に記憶を忘れることや、普段の自分とは違う自分を出すことで周囲に心配して貰おうとすることがありますが、通常例え非日常的な体験をしたとしても、何らかの形でそれまでの体験と統合され、連続性を持って理解されると考えられるため、年をとるにつれこういった乖離するという傾向は和らぎます。そのため解離性障害と診断されるのは、その状態が思春期や成人後もみられ、それが日常生活や社会生活上明らかな支障を来すようになった場合です。
成人や思春期に解離症状が続くと、日々の生活のあらゆる問題解決に対して柔軟性を失ってしまう結果になります。そのため、日常生活のなかで周りから違和感を覚えられたり、奇異にとられることになります。
たとえば自分自身のなかでは問題解決のために行っていた行動も解離現象が原因で、周囲の人々に違和感を与えてしまい、集団から孤立してしまう悪循環におちいる患者さんもいます。
解離性障害の発症にはその人個人にとって、強いストレスが関係しています。解離性障害を引き起こす原因の一例は下記のとおりです。
<解離性障害の原因>
しかし、ストレスの感じ方は人によってそれぞれ異なります。つまり、その人個人にとって、というところがポイントになります。同じ境遇だからみんなが解離性障害になるとはいい切れません。上記で挙げた原因はあくまで一例であり、実際にはさまざまなことが解離性障害の原因となります。場合によっては解離現症という心理的な現象に見える状態も、背景に脳という臓器の障害が隠れている場合もありますので、同じ状態が続くような場合には専門の医療機関できちんと検査を受ける必要が生じる場合もあります。
幼少時の過酷な状況とは、たとえば、両親が厳しかったり、特定の大人から暴力を受けたりすることのある環境をいいます。このような環境のなかで対人関係に生じる問題の解決策を身に着けていく内に、なかには解離現象という特殊な方法を日常的に用いるようになるという場合もあります。これにも個人差があり、例え同じような環境にいても(実際には同じ環境というのは実現不可能なことですが)解離性障害を発症しない方もいるので、科学的にいえば、一概に原因であるとはいい切れません。
会社や学校での強いストレスとは、人間関係のこじれやいじめなどです。威圧的な上司がいる、いじめを受けているなど、会社や学校での強いストレスも原因は多岐に渡ります。繰り返しになりますが、ストレスの捉え方、感じ方には個人差が大きいため、あくまでその人にとってどうであったかということが大切になります。
自分が交通事故などに巻き込まれ、重体になる経験です。また、目の前で家族や友人が亡くなる経験をしている方は後述するトラウマが解離性障害のひとつの原因となる可能性もあります。こうした場合では、受傷後数ヶ月は何らかのストレス反応が生じることは誰にでもあることです。ただし、そのなかで起こった解離現象が、その後も長く見られるような場合には治療が必要になることもあります。
トラウマ(心的外傷)とは死を予感するような体験をした際に、その記憶をその後も鮮明に思い出すことをいいます。ここでいう記憶には、単なる情報だけでなく、その時に経験した感情や事態の切迫感もリアルに伴う形で想起することを指しています。
ここまで説明してきたように、解離性障害とはある種の心理学的現象が主になって生活への障害を引き起こした場合を想定した疾患名ですので、トラウマが直接的な原因となって発症するものだということは言い切ることはできません。その一方で、トラウマの原因となった体験と似たような状況に直面したときに、そのトラウマ体験を思い出してしまう方が、そのような状況に陥った際に解離現象でその状況を乗り切ろうとしている場合にはトラウマが解離性障害の直接的な原因となります。
前述した意識や記憶、人格の空白の部分である解離現象が起こると、主に人格障害や解離性健忘、離人症(りじんしょう)の症状がみられます。ここではひとつひとつの症状について簡単にご説明します。
人格障害とは患者さん本人によって、それは自分の本来の人格とは異なった人格だと認識しているような人格傾向があらわれ、それが日常生活に大きな影響を及ぼしてしまう、という症状です。たとえば、急に怒りっぽくなる、急に子どもっぽくなるなど、患者さんによって多彩な症状がみられます。
患者さんによって、自分のなかに複数人格があることを自覚している場合とそうでない場合とがあります。
複数人格があることを自覚している患者さんのなかには、人格にそれぞれ名前をつけているという場合もあります。一方で、ほかの人格が存在していることを自覚していない患者さんの場合、ほかの人格が出ているときの記憶や意識が抜けているように認識することになります。
ご本人にとって人生で経験したことのないような堪え難い体験をした場合に、その前後の記憶が想起できなくなるという現象が起こることがあります。健忘の度合いは患者さんによってさまざまです。まれに自分の名前もわからなくなってしまい、警察などに保護されて発見されるような場合もあります。名前や年齢などのすべてのことを忘れている状態を全生活史健忘(ぜんせいかつしけんぼう)といいます。
<全生活史健忘の症状>
全生活史健忘では今までの自分のことのみならず、家族や友人など、自分に関わることすべてを忘れてしまいます。
離人症は自分が自分であるという感覚が途絶え、まるで外側から自分をみているように感じるような体験をすることです。たとえば話をしているときに、自分が勝手に話をしているような感覚になる場合です。
この現象は解離性障害に罹患していない健常な方でもときどきみられることがあります。しかし、解離性障害の患者さんではこの症状が頻発して、その違和感から生活に支障をきたしている状態です。
解離性障害では、からだが動かなくなることもあります。また、なかにはてんかんのように、ピクピクと手が動くことやけいれんを認める患者さんもいます。これを解離性けいれんといいます。通常てんかんは脳の異常による疾患ですが、解離性てんかんの場合は脳に異常は認められません。
解離性障害の症状がひどくなると、感覚の不連続が多くなります。感覚が不連続になると、寒暖差や痛みを感じにくくなることがあります。たとえば、意識や記憶が解離現象によって途切れている際に怪我をすると、患者さんは身に覚えのない怪我をしたことになります。
自傷行為とは自分の意志で自分の体を傷つける行為です。解離性障害の患者さんのなかには、意識や記憶、感覚の連続性を取り戻そうとする試みとして自傷行為をする方もいます。しかし、解離性障害の患者さんを含め精神疾患の患者さんすべてが自傷行為をするわけではありません。
解離性障害の治療では、まずは患者さんやその家族との面談を行います。詳しく聞き取るなかで何らかの生物学的な問題が確認されるなど、症状への対処が面談では間に合わないような場合に薬物療法が選択される場合もあります。解離性障害に有効な薬剤はないため、薬物への心理的依存に配慮しながら、薬物療法はあくまで二次的な症状や被害に対して使用します。
<解離性障害の二次的な症状>
たとえば解離現象が続き、眠れなくなることや、興奮してしまい周囲の人間関係を壊してしまうことがあります。このような二次的な症状を緩和させるために、薬物療法を行います。また解離性障害の患者さんのなかには、抑うつ症状を持っている方もいるため抗うつ剤を一時的に使用するような場合もあります。
大切なことは解離性障害が現在の生活場面で具体的にどのような形で支障をきたしているか、また客観的に判断して将来どのような問題が生じてくると考えられるかをまずしっかり話し合うことが大切になります。
早急に問題の解決が必要となるような問題があるような場合(重要な人間関係の破綻、経済的な問題、生命に関わるような問題)には入院も含め検討が必要となります。治療全体を通じて大切になることは、そうするなかで相談することの出来る人との関係性を体験していくことや、人に相談することに慣れていくことです。
解離性障害の治療では同じ病院に定期的に通うことが、治療のひとつになり、症状改善につながります。なぜなら患者さんの症状の連続性や不連続を確認して、その方の全体像を知る必要があるからです。同じ病院に解離現象が酷いときにのみ通院するのではなく、体調がよいときも通院することで、医師が患者さんの症状の連続性を持ってみることができます。
解離性障害の治療のためには通院する日時や一般的な通院頻度や面接時間を設定し、それに沿って通院するということに慣れていくことが大切です。ここまでにも述べたように、解離性障害の治療では相談するという対人関係のあり方を体験すること、また同じ病院にきちんと通うことが症状改善のために必要だからです。
たとえば月に何回通院するか、1日に何分の診察を受けるかなど、その病院の一般的な通院頻度を基に決めていきます。その治療期間を決めたら、緊急で対応する問題の有無を確認しながら、症状の良し悪しに関わらず通院する習慣を練習していきます。
解離性障害の治療では医師と患者さんの間で信頼関係を築いていくことも必要になってきます。その過程のなかでは不信感を抱いたり、ネガティブな印象を抱くような場合もお互い生じる可能性があります。もちろん場合によっては主治医や病院を変えることが必要な場合もありますが、主治医のよいところや悪いところを認識することも大切です。
解離性障害の治療には、症状の緩和や軽減のほかに問題解決が必要です。問題の程度にもよりますが、病院だけでは解決できないことがあるという認識は大切です。経済的な問題や育児の問題など、人が抱える問題で社会の協力が必要な問題はたくさんあります。その場合には地域の保健師さんに相談することや、警察の協力を仰ぐことが必要です。もちろんそれ以外のさまざまな機関との連携も必要となります。
その各機関との連携発信の役割は病院が担います。
解離性障害の患者さんは、誰にも助けてもらえないと思う方や孤独感を抱いている方がいます。家族や周りの方々は、患者さんの意見や責任を尊重しながら、患者さんの味方になり、協力してあげることが重要です。
その際にはサポートする側が一方的にすべてのことに対して協力するのではなく、患者さんの意思決定や責任の裁量に配慮しながら「ここからここまでは協力しよう」と患者さんと一緒に決めていくようにすることが大切です。その旨を患者さんにきちんと伝えて、お互いに感情を鎮めて穏やかなサポートすることが大切です。
解離性障害のサポートでは解離現象に注目するよりも、患者さん本人がどのような人となりだったかを理解することがよいと考えます。解離現象によって空白の時間があると、患者さんご自身も周囲の方々も、患者さんがそれまでどのような生活を送っていたかを見失ってしまいます。その方が自分をどのような人物だったか再発見できるよう、周囲が手助けすることにとても意味があります。
患者さん本人のペースになりますが、解離性障害は克服することが可能です。しかし、通院や薬物療法ですぐに克服できるわけではありません。治療を開始したら、まずは解離現象と共に過ごす日常生活を大切にしていくことを目標にし、周りのサポートを受けながら病気の克服を目指しましょう。
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現実感がない
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多重人格なのでしょうか。
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