概要
遺伝性網膜ジストロフィーとは、遺伝子の異常によって網膜に進行性の機能障害をもたらす病気の総称で、さまざまな病気があります。もっとも多いのは、暗い場所でものが見えづらくなったり(夜盲)視野が狭くなったりする“網膜色素変性症”で、そのほか視野の中心部分がぼやけて見える“黄斑ジストロフィー”、難聴に網膜色素変性症を伴う“アッシャー症候群”などがあります。
網膜は目の外から入る光を神経の信号に変え、脳に伝える重要な役割があります。遺伝性網膜ジストロフィーは遺伝子の異常によって網膜が障害され、視力低下や視野が狭くなるなどの症状が現れます。症状には個人差があり、若年期からこうした症状が現れるケースもありますが、特定の遺伝子が原因の場合であれば早期に遺伝子治療を行うことが視機能の改善につながるのではないかと考えられ、研究や開発が進められています。
原因
遺伝性網膜ジストロフィーは、遺伝子の異常(変異)が原因で発症します。遺伝性網膜ジストロフィーの原因遺伝子は、これまで260以上確認されています。
遺伝子はヒトの体をつくる設計図のようなもので、遺伝子が変異するとタンパク質が正常に作られず病気の症状が現れます。遺伝性網膜ジストロフィーは、主に視細胞*の遺伝子が変異することで視細胞が正常にはたらかなくなり、網膜の機能が低下します。
*視細胞:網膜に存在する細胞。網膜に入った光は、視細胞で電気信号に変換されて視神経を通じて脳に伝わる。
症状
遺伝性網膜ジストロフィーの症状は、原因となる遺伝子によって症状や進行の程度が異なります。
若年期から視野が狭くなったり暗い場所でものが見えにくかったりする症状が現れることもあり、中には強い視機能障害が現れるケースもありますが、発症年齢や視機能障害の程度には相当程度の個人差があります。
検査・診断
眼底検査やOCT(光干渉断層計)検査、ERG(網膜電図)検査など、さまざまな検査を行って網膜の状態を調べます。
眼底検査は眼底カメラで撮影するか眼底鏡を使って眼底に異常がないか確認します。眼底をしっかり見るために点眼薬を使って瞳孔を開く場合もあります。OCT検査は近赤外光を利用して数秒で網膜の断面図を撮影し、ERG検査では網膜に強い光を当てて光刺激に対する網膜の反応を観察します。
治療
これまで、遺伝子網膜ジストロフィーに対する根本的な治療法は確立されていませんでした。しかし、対象の患者や実施している施設は限られますが、近年“両アレル性RPE65遺伝子”の変異が原因で発症した患者向けに注射薬が開発されるなど、研究開発が進められています。
ほかにも、視機能の低下による日常生活の支障を支援するための“ロービジョンケア”も行われます。ロービジョンケアとは、視機能の低下によって日常生活にさまざまな支障を抱える患者に対する支援です。眼科医師のほか、視能訓練士や看護師など多職種のスタッフが連携して、リハビリテーションや福祉制度利用の支援などを行います。
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