概要
アッシャー症候群(Usher syndrome)とは、先天的な遺伝子異常を原因として発症する難聴と視力障害を主要症状とする症候群を指します。難聴や視力低下は、社会生活を送る上で大きく影響をおよぼす場合もあります。 難聴と視力障害との合併を特徴する疾患は多岐に渡りますが、アッシャー症候群はそのなかでも最も頻度が高いものと考えられています。日本における調査ではおよそ10万名あたりにつき6、7名の方がアッシャー症候群に罹患していると報告されています。アッシャー症候群は原因遺伝子によってもいくつか分類をされますが、タイプによってはユダヤ系の人種で多いなどの特徴もあります。
原因
アッシャー症候群の原因は先天的な遺伝子異常であり、アッシャー症候群を発症しうる遺伝子以上は現在までのところ10個のものが同定されています。アッシャー症候群は3つのタイプに細分化されますが、タイプ1を引き起こす原因遺伝子としてはMYO7A遺伝子異常がもっとも多く、次にCDH23遺伝子異常です。 タイプ2とタイプ3はそれぞれUSH2A遺伝子、CLRN1遺伝子と呼ばれる遺伝子にともなう異常が最も頻度が高いです。 アッシャー症候群に関連した遺伝子は、聴覚、平衡感覚、視力に関わるタンパク質の産生に深く関与して言います。耳の構造は外耳、中耳、内耳と分かれていますが、アッシャー症候群に関与する遺伝子は、内耳中に存在する「有毛細胞」が正常にはたらくためにとても重要です。有毛細胞は、音の振動を電気信号に変えて脳に情報を伝えたり、体の傾きを感知するのに重要なはたらきを持っています。また、眼球の構造の中で、網膜は視力を既定するのにとても重要なものです。網膜には光や色を感知する役割を持つ「視細胞」が存在しており、アッシャー症候群に関連した遺伝子は視細胞が正常にはたらくのに重要な役割を果たします。アッシャー症候群でみられる遺伝子異常があると、内耳の有毛細胞や網膜の視細胞が正常に機能をすることができなくなり、難聴や平衡障害、視力障害(網膜色素変性症)が出現すると考えられています。 アッシャー症候群の遺伝形式は、「常染色体劣性遺伝」と呼ばれる遺伝形式です。この遺伝形式では、両親は症状を発症はしていませんが遺伝子異常を有しています(保因者と呼びます)。異常な遺伝子がそれぞれ両親からお子さんに遺伝すると、お子さんが病気を発症することになります。
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症状
アッシャー症候群の主要症状は、難聴と平衡感覚障害、視力障害(網膜色素変性症)です。遺伝子異常の違いにより症状の進行の仕方は異なることが知られており、タイプ1~タイプ3まで分類されています。
① タイプ1 生まれつき重度の難聴(感音性難聴)がみられます。目の症状は10歳前後より生じ始め、ものの見える範囲が狭くなったり、光は感じられるがものが読めない、などの症状が出現します。平衡感覚の障害もともなっており、一人で座ったり歩いたりするのが正常よりも遅れます。また自転車に乗るのに困難を覚えることもあります。
② タイプ2 生まれつき高音障害型難聴(高い音になるにつれて程度が重くなる難聴であり、たとえば体温計の音が聞こえにくいなどがあります)がみられます。目の症状は思春期以降よりみられることが多いとされています。また平衡感覚は正常である場合が多いです。
③ タイプ3 このタイプはアッシャー症候群の中では比較的まれなものであり、進行性の難聴が特徴です。そのほかの二つの障害、すなわち平衡障害と視力の問題の発症時期はさまざまです。
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検査・診断
アッシャー症候群は遺伝子異常であり、タイプに応じた原因遺伝子が特定されているものもあります。こうした遺伝子異常を検出するための遺伝子検査が行われることがあります。 また内耳障害(聴覚や平衡障害)、視力障害(網膜色素変性症)を検出するための検査が行われます。耳の聞こえを聴力検査で行ったり、人為的にめまいが生じるかどうかを誘導することもあります。網膜色素変性症では眼底検査を行いますし、そのほか視野検査、網膜電図が併用されます。新生児に対して聴覚のスクリーニング検査が行われており、本検査で聴覚障害が指摘されることもあります。
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治療
アッシャー症候群の治療は、内耳機能の保持と網膜色素変性症の治療が中心となります。これらの症状は先天的な部分もありますが、社会生活を送るにつれて徐々に困難を覚えるようにもなります。早期の治療介入がとても大切です。症状の程度に応じて、補聴器や人工内耳の使用が検討されます。また、視力障害に対しては対症療法として遮光眼鏡(通常のサングラスとは異なるレンズ)の使用、ビタミンAや循環改善薬の内服など、低視力者用に開発された各種補助器具の使用などが行われています。より根治的な治療方法として、iPS細胞を用いた治療や人工網膜の使用なども実用段階に近づいており、予後の改善につながることが期待されています。
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