インタビュー

難聴の検査、遺伝子診断―難聴の最新診断技術(2)

難聴の検査、遺伝子診断―難聴の最新診断技術(2)
岩崎 聡 先生

国際医療福祉大学 教授

岩崎 聡 先生

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この記事の最終更新は2015年09月18日です。

難聴の診断技術は近年、大きく進歩しています。最新の検査・診断について国際医療福祉大学三田病院 耳鼻咽喉科の岩崎聡先生にお話をうかがいました。今回は遺伝子検査とその診断についてのお話です。

難聴になった人たちの悩みに耳を傾けると、次のような声があります。

  • どうして自分は難聴になったのだろうか
  • これから自分の聞こえはよくなるのだろうか、それとも悪くなるのだろうか
  • 人工内耳の手術を受けても、聞こえるようになるのだろうか

このような疑問に答えるために、難聴の「遺伝子検査」が進められています。遺伝子検査によって、難聴発症のメカニズムがタンパク質レベルでより詳しくわかるようになりました。

たとえば、耳の中では電解質がリサイクルされることによって音が聞こえる仕組みになっています。このリサイクルがうまくいかなくなって起こる難聴があります。また、有毛細胞の骨格をつくっているタンパクが生成できなくなり、感覚細胞の機能低下を生じる難聴もあります。このように難聴の原因が特定できることに加えて、難聴の予後―これから難聴がどうなっていくのかが予測できるようになります。

たとえば、先天性高度感音難聴の原因遺伝子であるGJB2遺伝子が見つかった場合、重度の難聴となる可能性が高くなりますが、脳には異常がないことがわかっているため、人工内耳の治療で聞こえるようになることを発症前から知っていただくことができます。

別の例としては、Mit. 1555A>G変異というものがあります。これはミトコンドリアの遺伝子変異ですが、アミノ配糖体系と呼ばれる種類の抗菌薬(抗生物質)で難聴になるという特徴があります。結核の治療で使うストレプトマイシンは難聴の副作用があることが知られていますが、この変異がある方は通常よりはるかに少ない量でも難聴を起こしてしまいます。しかし、このことがあらかじめわかっていれば、別の系統の薬を処方してもらうことで難聴を予防することができます。

また、ヘレン・ケラーでよく知られるUsher症候群の場合も早期に遺伝子検査を行うことで、視覚と聴覚の重複障害となることが予測されるので、視力障害が起こる前に両耳に人工内耳を提案することができ、視力・聴力を同時に失うという最悪の状況を避けることができます。

もちろん、早期発見や人工聴覚の早期使用ですべてが解決するわけではありません。特に小児の場合は家庭や学校など療育・教育環境の整備も含めて、周囲の理解や協力が必要です。

先天性、つまり生まれつき難聴のお子さんや、家族に難聴の方がいる場合は遺伝子検査で原因となる遺伝子の変異を調べることをおすすめします。小児の感音難聴では、およそ半数が遺伝性のものであり、遺伝子診断がとても重要であることがわかります。

このほか、年齢のわりに聴力が悪い方の場合も、遺伝子検査によって加齢以外の要因が見つかることが考えられます。また、難聴では一般に高い音ほど聞こえにくくなりますが、低い音が聞こえにくい方や、中間の高さの音が聞こえにくいといった特殊な聞こえ方をする方は、遺伝子検査によってその原因となる遺伝子の変異が見つかる可能性が高くなります。

日本人に多い代表的な19の遺伝子を調べる検査は、保険診療によって受けることができます。検査費用は小児が無料、成人は12,000円(3割負担)です。結果は患者さんやご家族へのカウンセリングを行い、丁寧にご説明しています。

しかし、代表的な19の遺伝子を調べるだけですべての難聴が明らかになるわけではありません。そこで、国際医療福祉大学三田病院では、難聴遺伝子検査で最先端の信州大学医学部の耳鼻咽喉科学講座と共同研究を行っています。19遺伝子以外でこれまでに見つかったことのある遺伝子を調べる検査は無料で、検査結果が出るまで数ヶ月かかります。また、これまで見つかっていない遺伝子の場合には、結果が出るまで数年かかる場合もあります。

遺伝子検査が受けられるのは、臨床遺伝子専門医の資格を持った医師がいる施設に限られます。全国の耳鼻科医の中で30~40名ほどの専門医がいますが、患者さんに充分な情報提供ができているとはいえないのが現状です。国際医療福祉大学三田病院のウェブサイトでも、耳鼻咽喉科の取り組みをご紹介しています。
国際医療福祉大学三田病院耳鼻咽喉科のホームページ
ご一読のうえご相談・お問い合わせいただければ、それぞれの患者さんがお住いの地域で受診できる施設をご紹介いたします。

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