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インタビュー

子どもの頃に感音難聴が起こる遺伝性疾患「ペンドレッド症候群」とは

子どもの頃に感音難聴が起こる遺伝性疾患「ペンドレッド症候群」とは
松永 達雄 先生

国立病院機構東京医療センター臨床研究センター 聴覚・平衡覚研究部長/臨床遺伝センター長

松永 達雄 先生

耳や神経に異常があるために、音が聞こえにくい状態を難聴といいます。難聴の原因は様々ではっきりとわかっていない面も多いのですが、子どもの頃に起こった難聴の場合、遺伝的な要因が関連しているケースが半数を占めます。このうち、SLC26A4という遺伝子に変異が生じた場合、ペンドレッド症候群という、進行性の難聴と甲状腺腫を合併した疾患と診断されることがあります。本記事では難聴と遺伝の関係を踏まえ、近年原因の解明が進んでいるペンドレッド症候群についてご紹介します。東京医療センター 臨床遺伝センター長、聴覚・平衡覚研究部長の松永達雄先生にお話しいただきました。

難聴とは、耳や神経に何らかの異常があるために、音や話し声などが聞こえにくい状態です。

大人になって突然耳が聞こえにくくなる(突発性難聴など)方もいれば、幼い頃からずっと耳が聞こえづらいという方もいますが、子どもの頃に起こった難聴の場合、原因の半数は遺伝と考えられます。

現在の統計では、先天的な難聴の7割、4歳までに現れた難聴の5割は、遺伝子の異常が原因と考えられています(中耳炎のような一時的な難聴を除く)。

ベントレット難聴 データ
東京医療センター 難聴の遺伝子診断のパンフレットを参考

遺伝性難聴を引き起こす原因遺伝子には、GJB2遺伝子やSLC26A4遺伝子など数百種類が存在します。今回ご説明するペンドレッド症候群とは、このSLC26A4遺伝子の異常によって難聴が生じる遺伝性の疾患で、難聴の原因遺伝子としては2番目に多いといわれています。

ペンドレッド症候群は遺伝性の難聴をきたす病気で、遺伝性難聴のなかでは患者数が多いことが知られています。上図のように、遺伝性難聴には症状が難聴のみのタイプと、それ以外の症状を伴うタイプがありますが、ペンドレッド症候群は後者に該当し、難聴に甲状腺腫(甲状腺が腫れること)を伴った場合に診断されます。

難聴は体のどの部分が障害されて難聴が起こっているかに応じて、伝音難聴、感音難聴、混合難聴の3種類に分類されます。先天的又は幼少期に起こった難聴の場合、そのほとんどが感音難聴に該当します。

難聴 種類

 

1・伝音難聴(でんおんなんちょう):外耳または中耳に障害が生じるタイプの難聴。

2・感音難聴(かんおんなんちょう):内耳や聴神経に障害が生じるタイプの難聴

3・混合難聴(こんごうなんちょう):伝音難聴と感音難聴の両方が合わさったタイプの難聴

ペンドレッド症候群を含めた遺伝性の難聴のほとんどは感音難聴にあたります。

ペンドレッド症候群における最も特徴的な症状で、急激に難聴の状態が悪化したり、一度聴力が落ちてから回復したりすることがあります。

また、幼少期からの難聴で診断が遅れた場合、言語発達の遅れが生じることもあります。

繰り返すめまいや平衡障害(まっすぐに歩けないなど)が起こります。ひどい場合は立っていられないほど強いめまいが生じることもありますが、安静にしていれば数時間~数日で自然に治まります。

甲状腺

ペンドレッド症候群の患者さんの多くは幼少期または先天的に難聴の症状がみられますが、甲状腺腫が現れる年齢は早くても10歳前後、通常10代~20代の時期であり、難聴よりも遅れて現れるという特徴があります。ただし、ペンドレッド症候群の患者さん全員に甲状腺腫が現れるわけではなく、甲状腺が腫れないままの方もいます。そのような場合は、SLC26A4遺伝子の異常が原因で難聴が起きているとわかっていても、ペンドレッド症候群ではなく「非症候群性の難聴」と診断される場合が多いです。その場合、特別な甲状腺検査で鑑別もできますが、放射線物質を用いるため、日本では行わないことが多いです。

甲状腺腫がみられる一部の患者さんには甲状腺機能低下症が起こることがあります。甲状腺機能低下症では、慢性的な倦怠感(体がだるい)、疲労感、抑うつ感、無気力(意欲がわかず仕事が手につかない)などの症状が現れます。

ペンドレッド症候群の患者さんの内耳には、前庭水管(ぜんていすいかん)の拡大という奇形が非常に多く見受けられます。

前庭水管とは、内耳から頭蓋骨の内側表面に向かって伸びている管で、この管が拡大している状態を前庭水管拡大といいます。前庭水管拡大はSLC26A4遺伝子異常による難聴のほぼ全例に生じます。

また、ペンドレッド症候群の患者さんにはMondini(モンディーニ)型という蝸牛の回転数の不足や、三半規管、前庭の奇形がみられることもありますが、認めない場合も多くあります。

ペンドレット 写真
ペンドレッド症候群の患者さんの右耳のCT画像における前庭水管拡大を矢印で示した。(松永達雄先生ご提供)
ぺンドレット 慶應義塾 新規仮説
慶應義塾大学プレスリリースによる新規仮説

これまでの研究では、SLC26A4遺伝子の変異によって内耳のイオン組成を維持するために必要なペンドリンというたんぱくが異常をきたし、うまく内耳のイオン組成を維持できなくなるために、ペンドレッド症候群は発症するといわれていました。

しかし、この仮説では、難聴が変動・進行するというペンドレッド症候群特有の症状を説明することができませんでした。

今回の研究では、患者さんの血液からiPS細胞を作製し、ペンドリンを発現する内耳細胞に分化誘導して実験を行い、難聴のメカニズムを調べました。

実験の結果、内耳細胞の機能そのものは正常に近いレベルで保たれているものの、異常なペンドリンが内耳細胞の中に凝集(溜まること)することで、内耳細胞が脆弱化(もろくなる)することが判明しました。

脆弱化した内耳細胞は細胞ストレスに弱く、些細なイオン環境の変化や刺激で死んでしまうため、患者さんの内耳細胞が減少していきます。この結果、内リンパ液が吸収できなくなり、難聴が進行していると考えられるのです(内耳変性仮説)。

このようなメカニズムであれば、ペンドレッド症候群の症状の変動性を説明することができます。

内耳は、音を感じる有毛細胞(内有毛細胞、外有毛細胞)や支持細胞、血管条など複数の細胞から構成されます。有毛細胞は一度死滅すると二度と再生しませんが、他の細胞の一部は死んでも再生します。

ペンドレッド症候群において、ストレスによって最初に死滅する細胞は、再生可能なタイプの細胞だと考えられています。そのため、ペンドレッド症候群の患者さんの場合、一旦急激に聴力が落ちても細胞が再生すれば、自然に回復することがあります。

しかし、有毛細胞などの再生不可能な細胞が死んでしまった場合、再生できる細胞がいくら後になって再生しても聴力は元に戻りません。

だからこそペンドレッド症候群においては、できる限り早い段階で詳細な検査を行い、難聴の原因がペンドレッド症候群である診断を受けて、細胞死を防ぐための治療や対策をすることが大切になるのです。

遺伝子

近年では、遺伝子検査によって難聴の原因や予後を知ることができるようになってきています。

ペンドレッド症候群は幼少期または赤ちゃんの頃に難聴が現れるので、この時期に遺伝子検査でSLC26A4の変異が確認され、ペンドレッド症候群と診断されれば、早い段階から将来を考えながら治療や言語訓練といった対策を講じることができます。しっかりと療育や適切な対応を意識すれば、言語発達の遅れや難聴の進行を防ぐことにも役立ちます。

このように遺伝子検査は難聴の進行・悪化の予防や、次の子どもが難聴になる確率の予測など、様々な面で役立つ可能性があるので、子どもに難聴が疑われる場合はなるべく早い段階で検査を受けていただくことをお勧めしています。

ただし、遺伝子検査にはメリットだけではなくデメリットもあります。たとえば遺伝子検査は、「難聴の原因は遺伝」「次の子どもも25%の確率で難聴になる」「将来的には症状が悪化する可能性がある」「親類に難聴の遺伝子保有者がいる」など、予期せぬ情報を知ってしまうきっかけにもなります。遺伝子検査を受けるメリットは確かにありますが、患者さんやご家族の負担になる恐れもあるのです。

遺伝子検査のメリットとデメリットを理解したうえで検査を受けていただくため、遺伝子検査を実施する前には必ず患者さんに対して十分な説明を行います。そして、リスクを理解したうえで検査を希望する方にのみ、遺伝子検査を実施します。

遺伝子検査はあくまで診察の一手段であり、最終的には患者さんやそのご家族の意思で選択するものですから、私たち医療者側から強制することはありません。

難聴の一般的な遺伝子検査は、遺伝子診療の体制や設備が整っている病院で受けることができます。しかし、難聴の原因遺伝子は400種類以上あるとされており、その各遺伝子に何百という変化が起こりうるため、保険適用範囲の検査ではごく一部しか調べることができません。保険適用の検査で原因が判明せず、より詳細な遺伝子検査を受けたい場合は、臨床研究の一環としての検査になります。

このような遺伝子検査は、日本国内では東京医療センターと信州大学で提供しています。

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  • 国立病院機構東京医療センター臨床研究センター 聴覚・平衡覚研究部長/臨床遺伝センター長

    松永 達雄 先生

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