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聴力の改善を目指す “鼓室形成術”とは――適応と手術の特徴について

聴力の改善を目指す “鼓室形成術”とは――適応と手術の特徴について
長谷川 賢作 先生

社会福祉法人 大阪暁明館病院

長谷川 賢作 先生

目次
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音を伝える能力にさまざまな障害が起こる難聴(伝音難聴)は、手術することにより聴力の改善が期待できます。その手術の1つである“鼓室形成術”の特徴について、大阪暁明館病院 耳鼻咽喉科(じびいんこうか) 部長の長谷川 賢作(はせがわ けんさく)先生に伺いました。

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鼓室形成術は真珠腫性中耳炎(しんじゅしゅせいちゅうじえん)慢性中耳炎など、鼓膜の内側の病気に対して行われる手術です。鼓室の中にある病巣を取り除いたうえで、鼓膜や耳小骨の構造を再建します。それにより音を伝える機能が回復し、聴力の改善が期待できます(伝音再建)。耳小骨の再建は患者さん自身の骨や耳介の軟骨、人工の骨などを使って行われます。

現在一般的に実施されている鼓室形成術は、主に1990年代頃にさまざまな工夫が施され、改良されたものです。術後の頻回な外来通院が不要になり、病巣の除去のみを目的とするのではなく可能な限り聴力の改善を狙うことができるようになりました。

方法は大きく分けて、外耳道を削って病巣を見やすくして手術をし、病巣をきれいにした後に外耳道を再建する“外耳道削除・再建型”と、外耳道を残して元の形を保持しつつ手術をする“外耳道保存型”とがあります。どちらも長所と短所がありますので、当院では症例に合わせて手術方法を選択するようにしています。また耳の中の小さな骨を繊細なタッチで操作する必要があるため、当院では主に手術用顕微鏡を用いて手術しています。また、耳の周囲には、顔面神経、平衡感覚の神経(半規管)、聴覚の神経、味覚の神経などがあるため、これらを傷つけないように細心の注意をはらった手術が求められます。

原因となる病気によって治療の目的が決められるため、手術の詳細は患者さんによって異なります。代表的な適応疾患に真珠腫性中耳炎、慢性中耳炎があります。これらは放置すると難聴が進行するため、手術による病巣の摘出と合併症の予防が重要となります。

真珠腫性中耳炎の手術の目的

慢性の炎症が続くことで真珠腫という塊ができ、これが周辺の組織を破壊して進行します。先天的に耳の中に真珠腫が形成されて、徐々に大きくなる場合もあります。

真珠腫は大きくなるにつれて感染を伴いやすく、難聴のほか難治性耳漏(なんちせいじろう)が出現することもあります。顔面神経麻痺が起こったり、頭蓋内(ずがいない)へ進展して髄膜炎(ずいまくえん)脳膿瘍(のうのうよう)などの合併症を発症したりすると、回復が困難になります。

したがって手術の目的は、第1に真珠腫を摘出して真珠腫の進行に伴う合併症の予防をすること、第2に低下した聴力の改善となります。真珠腫性中耳炎の根本治療は手術治療となり、重症の場合は複数回に分けて手術をすることもあります(段階手術)。

慢性中耳炎の手術の目的

慢性中耳炎とは、中耳に起こった炎症が慢性化した状態です。炎症が治まった状態や活動性の炎症の場合も含みます。鼓膜には穿孔(せんこう)(穴が開いた状態)がみられ、自覚症状としては繰り返す耳漏、聴力低下、耳鳴りなどがあります。

慢性中耳炎を長年にわたり放置すると難聴は進行します。また先に述べた真珠腫を合併することもあり、これにより顔面神経麻痺や頭蓋内への進展を併発すると完全回復は困難です。日常生活に不自由が生じる前に手術でこれらの合併症の発症を予防し、可能な限り聴力を改善することが望ましいと考えます。

手術の目的は鼓膜穿孔を閉鎖し、感染巣を処置して耳漏を止めることです。鼓膜穿孔を閉鎖する手技を鼓膜形成術といいます。次に、鼓室内の病巣を清掃して音の伝わりを確認します。必要があれば術中に耳小骨の可動性を確認し、不良の場合は再建します。

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術中の様子

当院が心がけているのは、合併症のリスクが少なく、術後は定期健診のみで済むような“メンテナンスフリー”の手術です。外耳道の後壁を適宜削開して良好な視野を保ち、伝音再建では耳介軟骨を薄切りして陥凹しにくい鼓膜・外耳道側壁を形成し、形を保持できるように努めています。

また、病状が進行している患者さんの場合、鼓室を清掃するときに神経がダメージを受けないように顔面神経モニタリング下での手術を行っています*。必要と判断した際は患者さんに説明を行い、術後の顔面麻痺のリスクを減らすために選択していただきます。

*顔面神経モニタリング:この器械は顔面神経の支配領域に針電極を刺して、術中の過度の刺激から神経麻痺を防ぐ目的に使用します。装置そのものにリスクや副作用の危険はありません。鼓室形成術の顔面神経モニタリングは保険適用でないため、当院では費用を病院負担としています(費用は手術を受ける病院によって異なります)。

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手術はほとんど全身麻酔ですので、手術中の痛みはありません。術後、軽度の痛みがあるときは鎮痛剤で抑えます。入院中は耳を消毒しますが、これに伴う痛みはほとんどありません。

*麻酔科 部長代行:西村 友美(にしむら ともみ)先

手術時間は病巣の進展具合により異なりますが、当院での真珠腫性中耳炎の手術の場合は3〜5時間、慢性中耳炎の手術の場合は1~3時間程度で行われます。

当院の鼓室形成術の入院期間は2泊3日から長くても1週間程度です。これは主にシャンプーなど術後のセルフケアができるかどうかの違いです。皮膚を縫った場合は、1週間以内に耳後部の抜糸を行い、通常約3日~1週間で鼓膜や中耳の状態がほぼ安定して退院することができます。

出血

手術中の出血は通常ごく少量です。鼓膜を再生させるために側頭部の組織を採取したときは、手術後に血腫ができることもあります。その場合には創部を再開放して処置します。

感染

耳漏などもともと感染巣を手術する場合が多いため、手術前後や手術中に抗生物質を使用して増悪を予防します。

味覚の低下

手術によって甘みを伝える神経が傷つき、味覚が低下・消失する場合があります。ただしこの神経が障害を受けても多くの場合は反対側の神経が残っているため、徐々に慣れてくるようです。

めまい

病巣が進行して内耳に達している場合は、術後にめまいが発生することもあります。多くは術後数日以内に治まる軽度のものです。

そのほか

まれに耳の後ろの切開部分にケロイドが形成される場合もあります。

当院では伝音再建した場合、術後1か月程度は重いものを持つなど怒責(いきむこと、お腹に力を込めること)を伴う作業は控えていただくようにお伝えしています。また、手術直後から聞こえがよくなることもありますが、ほとんどの場合は中耳の滲出液(しんしゅつえき)が消失してから聴力改善を自覚できるようになります。

鼓室形成術は聴力改善を期待できる手術ですが、まれに悪くなることもあります。場合によっては術後に耳鳴りを自覚し、残存することもあります。

症状の進行具合によっては複数回に分けて手術を行うことがあり(段階手術)、その際は2回目以降に聴力改善の操作を行うことがあります。

病気の種類により術式や聴力の改善率は異なりますので、詳しくは担当の医師に相談ください。

自分の耳で聞いて生活することがもっとも望ましい姿だと思います。病気によって聴力が悪くなったり、加齢に伴って悪くなったり、難聴の原因はさまざまありますが、できることなら原因への治療を試み、それが困難なときには的確な代償手段をおすすめしたいと考えます。この適応判断には患者さんの既往症はもちろんのこと、年齢や生活環境など個別の要因が関わってくると思われますので、相談しながら一緒に検討していきましょう。

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