会話をしているときに聞き返しが増えたり、なんだか聞こえにくいといった聞こえの不調を、仕方ないと諦めていませんか。難聴は日常生活の質の低下につながるうえ、認知機能の低下と関連のあることが明らかになっています。聞こえの違和感を覚えたら耳鼻咽喉科を受診し、改善に向けた治療を検討することが大切です。本記事では難聴の特徴とともに、検査や治療の選択肢について大阪暁明館病院 耳鼻咽喉科 部長の長谷川 賢作先生に伺いました。
聴覚障害は、音を聴く能力が障害されて、話し言葉や周辺の音が聞こえにくくなったり、聞こえない状態(難聴)になったりすることです。この障害は大きく分けて3つに分類できます。音を伝える部分の障害を伝音難聴といい、音を感じる部分の障害を感音難聴といいます。また、伝音難聴と感音難聴の両方共に障害された状態は混合性難聴と分類されます。
音を伝える部分の障害(伝音難聴)は外耳や中耳に原因があり、外傷性の耳小骨離断、鼓膜穿孔などが挙げられます。音の振動エネルギーを内耳まで効率的に伝えることができない状態です。
音を感じる部分の障害(感音難聴)は内耳、蝸牛神経、脳に原因があり、突発性難聴など聴神経の病気や加齢性難聴があります。音を感じる細胞の減少とともに、聞き分けが難しくなることもこの障害の特徴です。
聴覚障害の程度は以下の4つに分けられますが、難聴の種類によって違いがみられます。“伝音難聴”は軽度から中等度、“感音難聴”と“混合性難聴”は軽度から重度までさまざまです。
軽度……小さな声や騒音下での会話が聞き取りづらい。会議での聞き取り不良も多くはこれに含まれる。
中等度……普通の声の大きさの会話が聞き取りづらい。
高度……非常に大きい声か補聴器を使用しないと会話が聞こえない。また、聞こえても聞き取りに限界がある。
重度……補聴器を装用しても聞き取れないことが多い。
耳漏(耳から膿などが出ること)、耳の痛み、耳鳴り、めまい、頭痛などの症状を伴う難聴がある場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診することが大切です。また、徐々に聞こえにくくなる加齢性の難聴の場合でも、生活していて聞き返しが増えてきた、家族内での齟齬が増えてきたなどと感じたら、医師に相談することが望ましいでしょう。
難聴は認知機能低下に影響する因子として、もっとも大きなウェイトを示すことが分かっています。
聞こえが悪いと他者との会話が億劫になり、引きこもりがちになります。社会的孤立や孤独感もあり、入ってくる音の情報が減ることで脳への刺激が減り、認知機能の低下につながるのではないかと考えられます。認知症リスクを減らすためにも年のせいだから仕方ないと放置せず、聞こえの不調は耳鼻咽喉科に相談しましょう。
耳の聞こえに違和感を覚えたら早期に受診することが大切です。主な検査を以下に挙げましたが、初診では主に問診、身体診察、純音聴力検査によるスクリーニングが行われ、その後、語音聴力検査や耳音響放射検査など、考えられる原因や症状に合わせて検査が選択されていきます。当院でも一般的な聴力検査のほか、歪成分耳音響放射(DPOAE)や聴性脳幹反応検査(ABR)などの他覚的聴力検査を行っています。
診察用顕微鏡で外耳道や鼓膜に見える部分の異常がないかをチェックします。
聞こえの程度を調べる一般的な検査です。耳にヘッドフォンを当てて低音から高音までの検査音を聞き、音が聞こえたら手元のボタンを押す検査で、おおよその聴力レベルを把握します。
言葉(「ア」「カ」など)の聞き分けがどの程度できるかを調べる検査です。感音難聴の場合はこの検査で異常がみられます。また、補聴器の適合を調べる際にも行われます。
耳にイヤホンを入れて、音の刺激に対する内耳の有毛細胞*からの反射波を検出する他覚的聴力検査です。
*有毛細胞:内耳の内部にあり、音の振動を電気信号に変えて脳に伝える役割をしている。
音に対する脳の反応をみる検査です。主に内耳から脳幹レベルまでの聴覚反応を他覚的に検査します。
耳に陽圧・陰圧を加えて鼓膜の可動性や中耳の状態を調べる検査です。
中耳や内耳、蝸牛神経などの形態の観察をします。
補聴器を調整した後にどの程度聞こえが改善したかを確認する方法です。
まれに自己免疫性の病気で起こる難聴などを調べるときに行われます。
まずは問診でいつ頃から聞こえにくくなったのか、聞こえづらさはどの程度かについて、ご自身の状態をしっかり医師に伝えていただきたいと思います。聞こえの程度について説明するのは難しいと思われるかもしれませんが、「普段、家族と話をするときに苦労する」といった、できる限り具体的な状況をお話しいただけると診断の参考材料になります。
難聴の原因となる病気はさまざまあり、それにより治療の選択肢は異なります。ここでは、主に行われる治療の種類について紹介します。
中耳炎、急性感音難聴(突発性難聴)、遅発性内リンパ水腫などによる難聴の場合、抗菌薬、ステロイド薬、利尿薬、ビタミンB12などが処方されます。
真珠腫性中耳炎、慢性中耳炎、耳硬化症などによる伝音難聴の場合、鼓膜形成術、鼓室形成術、アブミ骨手術といった手術により、聴力改善が期待できます。鼓室形成術についてはこちらで詳しく解説します。
加齢性の難聴を含む軽度から高度の難聴に対して用いられます。こちらで詳しく解説します。
補聴器を装用しても効果が認められない重度の難聴に対する選択肢として、人工内耳埋込術、人工中耳埋込術があります。人工内耳は主に重度の感音難聴、人工中耳は主に重度の伝音難聴や混合性難聴の患者さんに適応されます。
耳は、多少の騒音下でも音や言葉を聞き分けることのできるとても優れた感覚器官ですので、できる限りご自身の耳を使って生活してほしいと思います。われわれ耳鼻科医は難聴の診断・治療を進めるにあたり、まず自分の耳で音を聞き分け、周囲との会話がスムーズにできるように回復できるかをポイントに検討し、それが難しい場合は次の手段を考えていきます。今はさまざまな選択肢がありますので、提案させていただく治療法は1つではないこともあります。まずは聴覚を専門とする耳鼻科医にご相談ください。
会話が減った、引きこもりがちになった、頑固になったように思われて孤立感が強くなったなど、難聴の進行に伴う周辺状況の変化は分からないうちに進んでいることも多くあります。たとえば、「聞こえないけどそれほど不自由はない」と思っているのは本人だけで、周囲のご家族などからは「話しかけても答えてくれない」という訴えがある、というようなことは日々の外来でよく経験します。
医師への相談と適切な治療により、聞こえの改善は期待できます。「よく聞こえないけどこんなものか」と思われるのではなく、「聞こえないからもう少し聞こえるようにできないか」と考えていただければと思います。社会的な孤立は認知症のリスクにもつながります。お1人で判断せず、聞こえの改善に向けて方法を一緒に考えていきましょう。
社会福祉法人 大阪暁明館病院
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