概要
鼓膜穿孔とは、鼓膜に穴が開いた状態になる病気のことです。主な原因は中耳炎などによる感染症と外傷であり、自然に治ることもありますが、穴を塞ぐ手術が必要になることも少なくありません。
外傷が原因のケースでは、突然の耳の痛みと共に音の聞こえにくさ、そして、場合により耳鳴りやめまいが生じます。一方、慢性中耳炎など長期間の鼓膜の炎症によるものが原因である場合は、耳の痛みを感じることは少なく、むしろ膿が混ざったような耳垂れを生じるのが一般的です。まれにめまいや吐き気などの内耳(耳の奥の部位)の異常による症状が現れることがあります。
このように鼓膜穿孔は自覚しやすい症状ですが、症状が軽くしかも片方のみの場合は気づかず、病院を受診しないことがあります。しかし、放置すると耳の奥にある聴覚や平衡感覚を司る“蝸牛”などが存在する内耳に細菌感染などが及び、めまいや耳鳴りなど治療が困難な症状をきたすこともあるため注意が必要です。
原因
鼓膜穿孔の主な原因は、中耳炎などによる鼓膜の炎症と耳かきなどによる鼓膜の外傷の二つのパターンがあります。それぞれの詳細は以下の通りです。
1.中耳炎などの炎症によるもの
中耳とは鼓膜の奥の空間のことで、鼓膜から内耳の蝸牛に伝える“耳小骨”や中耳の圧を調節する“耳管”などが存在します。耳管は中耳から鼻の奥の咽頭につながっており、外気との圧調整や滲出液の排出を行っています。本来、中耳には細菌やウイルスなどは存在しませんが、“耳管”を通じて鼻咽腔の細菌やウイルスが侵入すると、中耳内に炎症を引き起こし、急性中耳炎が起こります。悪化すると鼓膜に強い炎症が現れ、膿が溜まり自然に穴があいてしまうことがあります。
また、中耳炎は十分な治療を行わないと炎症が慢性化して“滲出性中耳炎”や“慢性中耳炎”に進行することも多いので注意が必要です。
2.外傷によるもの
鼓膜穿孔は外的な衝撃によって発症することもあります。具体的には、綿棒や耳かきなどによる直接な鼓膜への外力、爆発や平手打ちなどによって引き起こされる鼓膜への瞬時的な空気圧の暴露、頭蓋骨骨折を伴うような頭部外傷、飛行機の搭乗やダイビングなどによる圧力の急激な変化などが挙げられます。
症状
鼓膜穿孔による症状は炎症によるものか、外傷によるものかによって大きく異なります。
中耳炎などによる炎症が原因となって引き起こされるものは、耳の痛みや音の聞こえにくさのほか、膿が混ざったような耳垂れ、発熱などの症状が見られます。しかし、滲出性中耳炎や慢性中耳炎など炎症が慢性化した中耳炎によって引き起こされる鼓膜穿孔は、痛みを感じることは少ないでしょう。また、長引く中耳の炎症が内耳にまで波及しているケースでは、目が回るようなめまいや吐き気などが現れることが少なくありません。
一方、外傷による鼓膜穿孔は、原因となる外的衝撃が加わった時点から非常に強い耳の痛みを感じることが多く、ほかにも耳からの出血、音の聞こえにくさ、耳鳴りなどが生じることがあります。また、綿棒などが鼓膜に刺さって穴があいたようなケースでは、耳小骨や蝸牛などにダメージが加わることも珍しくなく、重度な難聴やめまい・耳鳴りなどが現れ、近くを走行する顔面神経を傷つけた場合には、顔面神経麻痺を引き起こすこともあります。
また、原因によらず鼓膜穿孔を放置すると、外耳から中耳や内耳に異物や細菌、ウイルスなどの病原体が侵入して炎症を引き起こすことがあります。
検査・診断
鼓膜穿孔の診断には、“耳鏡”や“中耳内視鏡”などの特殊な医療機器を用いて鼓膜や中耳の状態を観察する検査が必要です。鼓膜穿孔はこのような耳鏡検査や中耳内視鏡検査を行い診断することができます。
しかし、鼓膜穿孔の原因と症状はさまざまであり必要に応じて炎症の程度を評価するための血液検査、聴力やめまいの状態を評価する聴力検査や平衡機能検査、中耳や内耳内の状態をより詳細に確認するための頭部CT、MRI検査などが行われることもあります。
治療
鼓膜穿孔の治療は原因によって異なりますが、中耳炎などによる炎症が原因の場合は、抗生剤の点耳薬や内服薬を使用しながら炎症を抑える治療を行い、経過を見ていきます。鼓膜穿孔は自然に塞がることもありますが、塞がらない場合は難聴が残り再感染をきたすこともあるので鼓膜を塞ぐ“鼓膜形成術”や場合によっては耳小骨をもとの状態に戻す “鼓室形成術”が必要になることも少なくありません。
一方、外傷が原因の場合は、中耳内に水が入るのを避けるなど日常生活に注意しながら自然に穴が塞がるのを待つことがほとんどですが、耳小骨が離断しているケースや穿孔が大きく2~3か月以上穴が塞がらないケースでは、中耳炎による鼓膜穿孔と同じく手術が必要となります。
なお、2019年12月には世界初となる鼓膜穿孔治療薬“トラフェルミン”が保険適用で使用できるようになりました。
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