難聴は命にかかわる病気ではないため、軽視されている一面があります。しかし、「聞こえ」の問題が日常生活の質を大きく左右するものであることは間違いありません。今回は老人性難聴のお話を中心に、国際医療福祉大学三田病院 耳鼻咽喉科の岩崎聡先生にお話をうかがいました。
年齢を重ねるにつれて聴力が衰えるのは誰もが経験することですが、この加齢による聴覚障害は複合的な要因によって起こります。感音難聴のところで述べた有毛細胞の減少など内耳の機能の低下だけではなく、脳の中枢機能の低下、そしてことばを認識する認知機能の低下が合わさって起こっているのです。
このため、単に音の聞こえが悪くなっているだけではなく、音源の定位:つまり音がどの方向から聞こえているのかがわかりにくく、大勢で同時に話しているときに会話を聞き逃してしまうということがあります。また、ゆっくりと話してもらわないと理解しづらい(時間分解能の低下)というのも老人性難聴の特徴です。
老人性難聴は年齢が上がるにつれて発生の頻度が高くなります。65歳以上では25〜40%、75歳以上では40〜66%、そして85歳以上では80%に達するとされ、65歳以上で老人性難聴のある方は1,655万人にのぼると推測されています。
老人性難聴は加齢だけではなく、酸化ストレスによって進行が早まることが分かっています。動脈硬化・高脂血症・糖尿病・高血圧などは酸化ストレスと大きく関わっており、老人性難聴のリスク要因となります。そして強大音(過剰に大きな音)にさらされることも酸化ストレスのひとつです。難聴が軽度のうちから補聴器を使って不必要な強大音を避けるとともに、規則正しい生活を心がけることは、老人性難聴の進行を遅らせるために有効です。
また、補聴器を効果的に使用するためには、難聴が発症したらできるだけ早期に補聴器の装用を始め、認知訓練(トレーニング)を行うことが重要です。音源定位の認知低下を改善するためには、音の方向感が分かるように補聴器を両耳に装用して顔を見せるように正面から話しかけます。時間分解能の低下を補うため、まわりの人がゆっくりと話しかけることも大切です。
補聴器には耳あな型や耳かけ型などさまざまな種類がありますが、現在日本で主流になっているのは外耳道レシーバータイプというものです。従来は補聴器本体から出た音をチューブでイヤーピースまで誘導して外耳道に送っていましたが、外耳道レシーバータイプではイヤーピース自体がスピーカーになっており、補聴器本体が分離していることで小型化が可能になりました。また、本体とイヤーピースをつなぐケーブルもごく細く目立たないものになっています。
国際医療福祉大学 教授
岩崎 聡 先生の所属医療機関
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