1p36欠失症候群は生まれつきの病気であり、現在の医療では根本的な治療法がありません。しかし、けいれん発作や摂食障害、発達の遅れなどの症状に対しては対症療法やリハビリテーションを行うことができます。また、1p36欠失症候群は希少疾患ではありますが、同じ病気をもつ患者さんや親御さんとの交流の機会もあります。
今回は、1p36欠失症候群の治療と家族会について、東京女子医科大学遺伝子医療センターの山本俊至先生にお伺いしました。
1p36欠失症候群の治療は、現れた症状を和らげる対症療法が中心になります。対症療法としては薬物療法が選択されることがあります。たとえば、けいれん発作を繰り返す場合には、けいれん発作を予防するために抗けいれん薬を使用します。
対症療法として手術療法が選択されることがあります。たとえば、先天性心疾患に対しては手術療法が選択されます。先天性心疾患とは、生まれつき心臓の構造に問題がみられる病気を指します。命にかかわる病状が発見されれば基本的に手術が必要です。
口蓋裂のひとつである軟口蓋裂については、医師として手術を勧めるかどうかは個別の判断となります。軟口蓋裂は、滑舌が悪くなる構音障害を伴うため、一般的には手術を必要とします。しかし、発達が遅れていて言葉が十分に出ない場合は、手術をしてうまく喋れるようになるとは限りません。手術にはリスクが伴うということもあり、手術を選択しない親御さんも多いのではないでしょうか。
1p36欠失症候群の患者さんは、患者さんそれぞれのペースで発達が伸びていきます。多くの患者さんは、言葉がなくても自分の気持ちを伝えることができるようになります。
また、お子さんのコミュニケーションの訓練として、発達が遅れていたり、言語によるスムーズな会話ができなかったりする方を対象としたコミュニケーション方法であるマカトン法を取り入れている親御さんもいらっしゃいます。
保育園・幼稚園への入園や就学は基本的に可能です。医療的ケアが必要なお子さんの場合は、特別な考慮が必要な場合があります。医療的ケアが必要なお子さんとは、たとえば経管栄養といって鼻からチューブを入れて栄養管理しているお子さんや、気管切開といって気管に穴を開けて気道確保しているお子さんです。
1p36欠失症候群に限ったことではありませんが、発達が遅れているお子さんは、その場に即した行動ができないという場合があります。日常生活では、病気そのものに対する周囲の理解が必要となります。また、患者さんにはそれぞれ自分一人ではできないことがあります。それについては、周囲の方からのサポートが必要です。
多くの場合、1p36欠失症候群の療育における最初のハードルは、食事がうまくとれるかどうかということです。1p36欠失症候群の患者さんには、咀嚼・嚥下の問題による摂食障害*がみられます。たとえば、柔らかいものから固形のものを食べさせるようにするときの、離乳食の進め方がうまくいかない場合があります。
咀嚼・嚥下の問題を改善するためには、食べること・飲むことの訓練である摂食訓練が有効です。摂食訓練では多くの場合、親子で学んだ方法をご家庭でも実践し、摂食の問題について改善を目指します。
摂食障害…口から食べる行為がうまくいかないこと。
摂食訓練の対応をしている施設は多くありませんが、軟口蓋裂の治療とセットで摂食訓練を実施している病院や、嚥下訓練を単独で実施している施設などがあります。
また、訓練のための母子入院を行っている施設もあります。母子入院とは、母子で宿泊しながら産後のサポートを受けることです。複数の家族が一斉に参加する母子入院の場合、親御さん同士で情報交換をする機会にもなります。
患者・家族会とは、同じ病気を持つ患者さんや、患者さんのご家族が集まって運営する組織のことです。1p36欠失症候群でも「家族会」という組織があり、東京と大阪でそれぞれ毎年1回ずつ、交流会が実施されています。交流会が東京で実施される場合には、東京女子医科大学にて会場を用意することがあります。
患者・家族会は、親御さんしか持っていない情報を交換する機会となります。そういった情報は、病院やWEBサイトから得られるようなものではありません。患者・家族会にアクセスすることで初めて得られるような、実際に即した情報です。交流会に参加できなくても、メールやソーシャルネットワークを利用して情報交換するという方法もあります。
交流会に集まる動機とは、「会いたい」という気持ちではないでしょうか。1p36欠失症候群のお子さんは、他人同士であるにもかかわらず、みなさん兄弟のように似ています。そこで、ご自身のお子さんの成長はもちろんのこと、他のお友達の成長も心待ちにしておられる親御さんが多いようです。「どれだけお互いに成長しているかな」「来年もまた会いたいね」というように、同窓会のような形で集まれることも交流会のだいごみです。
ピアカウンセリングとは、同じ病気や悩みを持っている方同士が悩みを共有したり、励まし合ったりすることを指します。
医療機関においては、真の意味で対等な立場によるやり取りはできないかも知れません。それに対して、ピア、つまり友達同士であれば互いに対等な立場で交流し、互いに理解し合い、癒し癒されることができます。交流会にはこのような「ピアカウンセリング」という、他に得ることのできないかけがえの無い効果もあります。
1p36欠失症候群に限らず、染色体の異常を原因とする病気は、ある一定の頻度で必ず起こります。どこのご夫婦の所にこの病気の患者さんが生まれてくるのか、それは全くわかりません。偶然としかいいようのない出来事です。お子さんが1p36欠失症候群だとわかって、ある日突然当事者になったら、特別のように思われるでしょう。しかし、誰でもなる可能性のあることです。
また、1p36欠失症候群は世界中にたった1人というわけではなく、同じ仲間が日本にいる病気です。私は、そういった仲間同士のつながりが大事だと考えており「家族会」というものを作りました。家族会についてのお問い合わせがある場合は、東京女子医科大学附属遺伝子医療センターにご連絡ください。
東京女子医科大学 大学院先端生命医科学専攻遺伝子医学分野(遺伝子医療センター)教授
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