概要
PCB(poly chlorinated biphenyl:ポリ塩化ビフェニル)中毒とは、ポリ塩化ビフェニルという有機化合物が体内に取り込まれることで引き起こされる健康被害です。
PCBは耐熱性や絶縁性に優れていることから、かつては変圧器や電気機器絶縁油、塗料、複写紙などのさまざまな製品に使用されていました。しかし、PCBは脂肪に溶けやすいため食物連鎖の過程で体内に蓄積しやすく、その結果、皮膚や肝臓、神経などにダメージを与えたり、がんの発生に関係したりすることが判明し、現在では全面的に使用が禁止されています。
日本では、1968年に米ぬか油の製品に高濃度のPCBが混入し、大規模な中毒事件が発生したことがあります。この事件は“カネミ油症事件”として知られ、発疹や色素沈着などの皮膚症状、倦怠感、しびれ、食欲不振などの症状を引き起こしたとされています。PCBが体から排出されれば症状は改善されますが、カネミ油症事件でPCB中毒を発症した患者は、事件から40年以上経過した2014年度の検査においても血中にPCBが多くとどまっており、改善までには非常に長い時間が必要といわれています。
原因
PCB中毒は、人体に有害なPCBという有機化合物を体内に取り入れることによって発症します。体内にPCBが入ると、受容体*に結び付いて酸化反応が生じ、活性酸素が過剰に作り出されます。活性酸素は免疫機能を維持する重要なはたらきがある一方で、過剰に作られると細胞を傷つけるためさまざまな病気を引き起こす可能性があります。
現在、PCBは全面的に使用が禁止されていますが、流通していた時代にPCBに汚染された魚などを通じて今でも少量を摂取していると考えられています。しかし、ごく少量であるため、健康に害はないと考えられています。
*受容体:ホルモンや神経伝達物質などの化学物質と結び付くタンパク質。1つの受容体が受け取れる化学物質は1つのみで、結合後は細胞の核に情報が伝わり、遺伝子の発現や酵素の産生などといった反応が生じる。
症状
PCB中毒では、以下のような症状がみられます。
皮膚:顔や体幹部のニキビのような発疹、爪・顔・歯肉の色素沈着
目:充血、目やに、まぶたの腫れ、視力低下
呼吸:咳、痰
四肢:手足のしびれ、知覚鈍麻、関節痛
内分泌:月経異常
体内に吸収されたPCBは徐々に体外へ排出していくため、これらの症状は時間が経過すると改善していきます。しかし1968年に生じたカネミ油症では、PCBを含んだ食用油を長期間摂取したことで現在もなお症状が残っている方が少なくないとされています。
また、PCBが体内に入ると、活性酸素が過剰に発生して細胞を傷つけることが明らかになっており、がんになるリスクが高くなるといわれています。
なお、カネミ油症患者から生まれた赤ちゃんにもPCB中毒のような症状が現れたことが報告されており、PCBは胎盤を通して母体から胎児に移行すると考えられています。
検査・診断
PCB中毒が疑われる場合は、問診や血液検査を行います。
問診では、症状や生活環境といった情報を把握します。また、類似した症状がある家族や近隣の方がいないかどうかの確認も行われます。血液検査では、血清中性脂肪の増加や血清ビリルビンの減少などが確認されます。
上記からPCB中毒が疑われる場合は、血液中のPCB濃度を測定する必要があります。
また、PCB中毒は全身にさまざまな症状を引き起こすため、重症度の確認や、別の病気との鑑別のために目や皮膚、呼吸器などの各症状に合わせた画像検査などを行います。
治療
PCB中毒は体内に取り込まれたPCBが全て排出されることによって改善します。しかし、PCBの排泄速度は非常に緩やかであり、完全に排泄されるには長い時間を要します。現在のところ、PCBの排泄以外の治療法はありません。
そのため、治療の主体は各症状を改善するための対症療法となります。具体的には、しびれなどの神経症状には薬物療法を、皮膚症状には薬物療法や手術など、呼吸器症状には薬物療法を行います。
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