赤ちゃんがRSウイルスに感染すると、重症例の場合入院することがあります。しかし重症化していないRSウイルス感染症では、自宅でのケアで治癒するとされています。赤ちゃんがRSウイルスに感染した際の治療法と、入院治療の際に行われる呼吸管理、自宅での看病などについて、前回に引き続き千葉市立海浜病院の橋本祐至先生にお話を伺いました。
咳がひどく、ミルクや水分が補給できない赤ちゃんや子どもには入院して点滴の処置をすることがあります。
そのほかにも呼吸障害が強い場合も入院が必要です。
RSウイルスに対し、抗菌薬を含め有効な薬剤はありません。そのため、今ある症状を和らげるための対症療法を行います。
ゼーゼーとした呼吸は、肺のなかの細気管支が炎症で狭くなってしまっていることから生じるものです。息を吸うことは比較的できるものの、息を吐くことが難しい状態になります。その息を吐く時の苦しそうな様子が「ゼーゼー」している状態です。その場合には生理食塩水の吸入や、気管支拡張薬の吸入を行います。
痰や鼻水が多くでる場合や、肺の奥で固まってしまっている場合には痰を出しやすくする薬を吸入したり、内服したりします。また、ご自宅で保護者の方が痰や鼻水の吸引を行うことも効果があります。この際、市販の吸引器を使用して問題ありませんが市販の簡易的なものでは奥までは十分吸引できないことが多いです。その場合は受診しましょう。
生理食塩水や気管支拡張薬を吸入することで、痰を出しやすくします。痰が出ることで呼吸の苦しさが緩和されます。
医療機関に受診した場合には解熱剤などを処方されることがあります。また、汗を拭きとって、肌を清潔に保つようにしましょう。熱が上がりきったら、衣服は涼しい格好にしてあげて下さい。
呼吸が浅く、速くなる状態がみられる場合、十分に酸素が取り込めなくなっている可能性があります。その場合には人工呼吸器による呼吸補助と酸素投与による治療を行います。
人工呼吸管理には、①口鼻マスクやフェイスマスクを使用して、患児に比較的苦痛を伴わない形で呼吸補助を行う非侵襲的陽圧換気(ひしんしゅうてきようあつかんき:気管挿管を行わずにマスクを用いて陽圧をかける)と、②気管挿管(気道確保のために、口から気管にチューブを挿入すること)を行い、患児をしっかり眠らせて行う侵襲的な人工呼吸管理があります。
人工呼吸管理を行う際には、気管内に直接チューブを挿入するために、いくつかのリスクがあります。
気管チューブ挿入時には、声帯損傷のリスクがあります。
また、人工呼吸管理中は、気胸(肺に穴があいて肺の外に空気が漏れること)、人工呼吸器管理中の細菌感染(人工呼吸器関連肺炎)のリスクがあります。
千葉市立海浜病院では、2015年10月にHCU病床(準集中治療室)の開設に伴いNPPVによる人工呼吸器を導入しました(気管挿管を行わずに、顔にマスクを装着し、肺に陽圧(ようあつ:内部の圧が外部より高い状態)をかける治療法)。これによって、気管挿管を行わずに人工呼吸管理ができるようになり、お子さんへの苦痛が非常に軽減され、かつ十分な呼吸管理ができるようになりました。また、気管挿管での人工呼吸管理に比べて、お子さんの合併症リスクも軽減されました。
千葉市立海浜病院で使用しているNPPVで使用するマスクは、顔全体を覆うトータルフェイスマスクです。密閉されているため、口や鼻から肺に空気を送り込みます。
また、当院ではトータルフェイスマスクのサイズがXXSサイズからLサイズまであるため、赤ちゃんだけでなく子どもにも対応できるようにしています。
気管挿管に比べ、
などのメリットがあります。
赤ちゃんや子どもの場合、目が覚めているときに、装着を継続することが困難な場合があります。そのため鎮静剤の投与やNPPVマスクを外すことで対応しなくてはなりません。
一方、咳、鼻水は1週間程度持続することが多いです。特殊な治療がないため、すぐには良くなりません。自然経過でゆっくり改善していきます。
経口摂取不良や咳込み嘔吐での入院の場合は、5~7日程度、呼吸障害での入院の場合は7~10日程度の入院期間が必要になってきます。
RSウイルス感染症の有効な治療法はなく、おもに症状を緩和して体の負担を減らす対症療法を行います。対症療法は、重症例でなければ自宅でも可能です。痰や鼻水がよく出る際には保護者の方が吸引してください。また、肌を清潔に保つために汗をかいていたらこまめに拭いてあげてください。哺乳がしっかりできて、咳・鼻症状だけであれば自宅で観察でも良いですが、哺乳できなくなる、ゼーゼーしてきた場合は、入院が必要な場合が多いため、受診をして下さい。
RSウイルス感染症は特効薬がないため、主な治療法は対症療法です。赤ちゃんは自分のからだの不調を言葉にできません。保護者の方が赤ちゃんの様子をよくみておくことが重要です。
汗を拭くことや、痰や鼻水の吸引などは自宅で行えるケアです。保護者の方だけでなく赤ちゃんにも、手洗いや手指消毒をしっかり行うことでRSウイルスに感染することを予防していくことも重要です。
うさぴょんこどもクリニック 院長、千葉市立海浜病院 小児科 非常勤医師
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