DOCTOR’S
STORIES
幼少期からの夢を叶え、常に患者さんを救うために尽力する土井 智喜先生のストーリー
もともと自分自身が小児喘息患者だったため、私にとっては幼い頃から医療従事者の方々が非常に身近な存在でした。今でこそ考えられないものの、当時、小児喘息は“性格のせい”“心身を鍛えれば治る”などと単なる精神論で片付けられてしまう風潮がありました。しかし、幼いころに入退院を繰り返し、呼吸ができず苦しいときなどに主治医をはじめ多くの医療従事者の方々に親切にしてもらったり、お世話になったりする過程で“自分も医療職に就いて困っている人を助けたい”と考えたのはごく自然な流れでした。幼稚園に通っていた頃にはすでに医療職に就きたいと考えていた記憶があり、その夢が揺らいだことは一度もありませんでした。
幼い頃からの夢を叶えるため、私は横浜市立大学の医学部に入学しました。医師になりたいという単なる夢だったものが現実的になったとき、私はどの診療科に進もうかと考えました。そのとき、小児喘息の発作によって急に調子が悪くなり、救急外来に駆け込んだ経験を思い出しました。そうした記憶が“患者さんが苦しいときや困ったときに即座に対応できる医師になりたい”という思いにつながり、救急科を志望するに至りました。また、救急科にはあらゆる病気やけがの方が搬送されてくるため、さまざまな症例に対応する必要があります。それは医療の原点であり、私にとって非常に大きなやりがいにつながるのではないかと考えたことも、救急科を選んだ理由の1つでした。実際に救急医として働いてみるとまさに当時考えたとおりで、その時々でまったく異なる症例を扱い即座に判断していくという過程は、私に毎日気づきを与えてくれます。救急医療は一期一会であり、救急医としてのキャリアを何年積んでも、毎日患者さんに勉強させてもらっているなと感じています。
一方で、いつどのような患者さんが搬送されてくるか分からないからこそ、後進への指導の難しさもあります。他の診療科であれば、ある程度事前に予定を立てて治療を進めることができ、若手医師も担当する患者さんの病気の理解を深めることができます。しかし、救急科はそうではありません。さまざまな病気やけがの、軽症から生死をさまようような重症まで、あらゆる患者さんが突然搬送されてきます。そして、患者さんの状態に合わせて救命を第一に考えてその瞬間ごとに判断を下し、対応します。1つの判断や対応がその後の経過を左右することもあります。そのため、指導の際に意識しているのは、叱ること・褒めることは後からではなくできるだけその瞬間に伝えるということです。緊迫した状況下では後進に厳しい声をかけてしまうこともありますが、尊い命を扱う医療者として、相応の責任と覚悟は必要だと考えています。
当院に異動する前は、母校である横浜市立大学附属の市民総合医療センター高度救命救急センターに勤務していました。そこと比較すると、当院は海が近いこともありマリンスポーツに関わるけがなどで搬送されてくる方が多いと感じます。また、もう1つの特徴は、近くに米軍基地(横須賀海軍施設)があるため外国籍の患者さんが多いということです。
特に印象的だったのは、勤務中に重症肺炎となり運ばれてきたアメリカ国籍の患者さんです。ECMO(エクモ)という体外式の人工肺を用いた治療を当院で行っていましたが、最終的には自国へ戻って治療をすることになり、アメリカの病院と連携をしながら患者さんをアメリカへと送り出しました。そしてしばらくたったある日、元気になったその患者さんがわざわざお礼を言いに病院まで来てくださったのです。日米で連携をして1人の患者さんの命を救えたということは横須賀という土地ならではの経験だったと感じています。
当院では、2014年に
“患者を断らない”というモットーのもと、当院では年間約1万台の救急車を受け入れています(2019年実績)。1日平均で考えると毎日約30台の救急車を受け入れていることになります。これは当然、私1人で対応できる数ではありません。また、医療の進歩は目覚ましく、医療の高度化とともに専門化が進んでいるため、医師だけではなくあらゆる職種の方々が連携して1人の患者さんをサポートするようになってきています。そういった状況をふまえると、それぞれのスペシャリティを尊重することが非常に重要ではないかと考えています。そのため、相手のスペシャリティの範囲で私が分からないことがあれば素直に聞くという姿勢や、常に関係者に対して真摯に接するという姿勢は大切にしています。
精神的・肉体的に大変だと思う瞬間もありますが、私は医師を辞めたいと思ったことは一度もありません。その理由はとてもシンプルかつ純粋なもので“目の前に苦しんでいる患者さんがいる以上、医師として患者さんを救わなければならない”という医療従事者としての責任を感じているからです。そして、それこそが私が医師を続ける理由であり原動力の1つでもあります。もちろんこれまで、残念ながら命を救えなかった患者さんもいらっしゃいます。自分の判断が正しかったか、何かほかの手立てはなかったか、自問自答することも多々あります。
だからこそ、常に医学の進歩・発展のために貢献するという意識や、次に同じような症例に出会ったときには必ず患者さんを助けるという1人の医師としての覚悟は常に持っていますし、そのための努力は怠らないようにしています。幼い頃に医師を目指したときの“初心”を決して忘れず、夢が叶っているという現状に感謝しながら、これからも1人でも多く目の前の患者さんの命を救えるよう、尽力していきたいです。
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横須賀共済病院
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