DOCTOR’S
STORIES
手外科を専門とし、よりよい医療を探求し続ける國吉 一樹先生のストーリー
私が医師になることを決めたのは、家庭環境の影響が大きかったと思います。父が医師だったため、物心つく頃にはどのような仕事なのかを認識していました。苦しんでいる人を助けるというのは分かりやすく、子ども心に素晴らしい職業なのだろうなと思っていました。また、父の職場によく付いて行っていたので病院はとても身近な存在でした。その頃からずっと「将来は医師になろう」と決めていたのです。
しかし、高校生のとき、自分にもっとも適性のある職業が医師とは限らないし、医学部に進むと将来の職業選択の幅が狭くなるのではないかと迷いを感じました。勉強では文系の科目のほうが得意だったため、広告業界や総合商社などへの就職を想像したこともあります。それでも「医師免許を取ろう。やりたいことや適性が見つかったら、そのときまた考えよう」と決心して、医学部1本に絞って受験しました。
医学部入学後は外科系に進み、専門分野として整形外科を選びました。がんなどのように生死に関わる集学的治療*を要する病気を扱う診療科よりも、自分自身のスキルを発揮できそうだと考えたからです。
というのも、がんの治療においては基本的に、現在もっとも推奨される治療法である“標準治療”が行われます。それは化学療法や放射線療法など複数の治療の組み合わせであり、私が期待していたほど外科医のスキルが患者さんの生命予後**を劇的に変えるものではないのではないかと思われたのです。それならば、骨や関節、筋肉、神経、血管などの組織を治療して機能予後***の改善を図る診療科のほうが向いていそうでした。心臓外科や眼科も考えましたが、整形外科では全身の運動器を扱うことや、比較的早く独り立ちできるところが決め手になりました。
そういう意味では、整形外科領域の病気や治療に元々興味があったわけではありません。しかし、実際に治療に携わってみると大いにやりがいを感じ、すぐに迷いはなくなりました。綿密な計画とシミュレーションが重要になることや、計画通りに手術を完遂させれば患者さんが回復し、その結果として喜んでいただけることが整形外科の特徴です。患者さんだけでなく、ご家族の皆さんにも喜んでもらえることも多く、その瞬間は医師冥利に尽きます。
研修医2年目には“鬼軍曹”のような厳しい先生と出会い、非常に鍛えられました。まだ学生気分だった私に対し、周囲のスタッフに対する言動をはじめとしたありとあらゆることを指導してくださった恩師です。たった1年間でしたが、その先生の“愛のムチ”のおかげで変わることができたと思いますし、必要な経験だったと今でも感謝しています。
*集学的治療:手術、薬物療法、放射線療法などを組み合わせて治療を行うこと
**生命予後:病気の経過において生命が維持できるかどうかの見通し
***機能予後:病気の経過において機能に関する後遺症が残るかどうかの見通し
私が現在、サブスペシャルティ領域の専門としている手外科は、上肢全般を診る診療科です。手外科を選んだのは、医師になって1年目、指を切断した患者さんに対する接着の手術に関わったことがきっかけでした。
手術室で顕微鏡を覗いたとき、肉眼ではよく見えない指先の細い血管に糸をかけて縫っていくところが拡大されて観察でき、感銘を受けたのです。血管がつながると動脈が通り、拍動しながら
今になって考えてみると、見えないものを拡大して見るのは幼い頃から好きでした。小学生のときは天体少年で、買ってもらった天体望遠鏡で夜な夜な星や月を見ていました。大学の講義や実習でも病理学だけは好きで、顕微鏡を覗いてガラス標本(プレパラート)を観察する際、正常組織と異常組織のコントラストが興味深く、綺麗だと思ったのを覚えています。
手や肘は小さな器官ですが、その中に骨・関節、腱、靱帯、血管、神経という運動器を構成する全ての要素が備わっています。そのため、診療で求められる知識や技術が多様なところにも魅力を感じました。
2018年に当院へ赴任し手外科・上肢外科センターを開設して今年で3年目になります(2020年9月時点)。千葉大学大学院整形外科学で培ってきた経験を生かして、上肢全般の病気に関する専門的な治療を行っています。
それまで勤めていた千葉大学医学部附属病院では、大学病院の性質上、より複雑な状況を抱える重症の患者さんとじっくり向き合ってきました。一方、当院を訪れるのはよりリスクの少ない患者さんが中心ですが、病状はさまざまで迅速な対応が求められます。経験を重ねるなかで当院の診療にも慣れ、手術の技術や速さがさらに向上していくのを感じています。今後はチームで連携を図りつつ、手術を希望されている患者さんのためにも、たとえば1年間で何件手術できるか、すなわち何人の患者さんの日常生活動作(ADL)の向上に貢献できるかといったことに挑戦していきたいと思っています。
当院の院長としては、経営に尽力するとともに、患者さんの感動体験になるような医療サービスの提供に努めています。そう考えるようになったきっかけは、私が手術を担当した患者さんから「本当に感動しました」と言われたことでした。その方は、スタッフの接し方も含めて総合的な感謝の気持ちを表現してくださったのだと思います。不安を感じていらっしゃったときに看護師が「大丈夫ですよ」と声かけをしたり、手術の進行を丁寧に説明しつつ手を握ったり肩を優しくさすったりしていたことも印象深かったのかもしれません。病院でそんな言葉を聞けるとは思ってもみなかったので驚きましたが、貴重な経験になりました。
それからは、医療を提供するうえで安心・安全の医療は最低限のことであり、プラスアルファとして私たちが目指すべきものは、患者さんの感動体験だと考えています。当院のスタッフにも折に触れてそのことを伝えており、病院一丸となって最高の医療を提供していければと思います。
私が診察するときは、患者さんとできるだけフラットな関係であることを心がけています。1対1のコミュニケーションを意識して、世間話をしたり、冗談を交えながら話したりもします。手術に対する不安がどうしても強い患者さんに対しては、某ドラマの女優さんが言う「私、失敗しないので」というフレーズをよく使っています。“医療の不確実性”は確実に存在するので本来は言ってはいけない言葉ですが、患者さんにはウケがとてもよく「その言葉が聞きたかったです」と皆さん安心されるようです。診察の中でそんなふうに話せるのは私も楽しいですし、患者さんにとっても気さくで話しやすい医師だと感じてもらえたら嬉しく思います。
当院を受診する患者さんにぜひお願いしたいのは、医師に対して気を使うことなく何でも質問していただきたいということです。医療という場において患者さんが持っている情報は医師より少ないのですから遠慮する必要はありません。こちらもできる限り分かりやすく、丁寧に説明できるよう努めます。治療法の選択に関しても、患者さんが主治医に気兼ねなく決定できるような関係でありたいと思っています。
また、できるだけ待ち時間にストレスを感じないよう、病院でゆったりと過ごせるような準備をしてお越しいただければと思っています。たとえば本や携帯ゲーム機など時間を有効利用できるものをご持参いただき、リラックスして診察に臨んでいただけたら幸いです。気になることがあるときは、遠慮なく何でもご相談ください。
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