女性の生き方に寄り添う医師でありたい

DOCTOR’S
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女性の生き方に寄り添う医師でありたい

産婦人科医として常に技能向上を追い求める松本 貴先生のストーリー

医療法人伯鳳会 大阪中央病院 副院長・婦人科部長
松本 貴 先生

本当は精神科医になるつもりだった学生時代

私は、高校生の時まで医師になろうとは思っていませんでした。身内に医師は1人もいませんし、学校の成績が特別よいわけでもなかったからです。元々は工学部に進学しようと考えていました。しかし、高校1年生のときにお願いした家庭教師が医学生で、大学生活について色々と聞いたり「うちの医学部に入るのは意外と難しくないんだよ」と言われたりしているうちに、医師を目指そうと思うようになったのです。それからは猛勉強して、無事に医学部に合格することができました。

しかし、医師になるにあたって、その程度のモチベーションしか持ち合わせていなかったので、入学後は「自分は医師には向いていないのではないだろうか? 本当に医師になってよいのだろうか?」と悩んだこともありました。そのころ心理学に興味を持ち、ユングやフロイト、近年話題のアドラーの本などを読みふけっていたので、「医師になるのを止めて受験をし直すくらいなら精神科医になろう」と考え直して勉強するようになりました。ところが医学部5、6年生のとき、病院を回って臨床実習を受けるなかで「自分は内科系より外科系の才能があるのではないか?」と思い始めたのです。

外科系の中でも、精神科と同じく脳に関わる脳神経外科に進むことを最初は考えましたが、顕微鏡を見ながら行う手術には苦手な部分がありました。一般外科も、長時間立って行う手術が自分には向いていないと思いました。そこで、最終的に選んだのが産婦人科でした。

“女性の一生”を診る産婦人科医という仕事の魅力

産婦人科は手術時間が短く、帝王切開の手術などはおよそ1時間もかかりません。また、診察するときに患者さんの悩みや相談を聞いてサポートする側面があり、1番向いていそうでした。医局の教授も私を誘ってくださって、その先生の颯爽とした姿に憧れたことが決め手になりました。結局、産婦人科医になってからは腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)*でモニターを見ながら長時間の手術を行っているのですから、ちょっと不思議な感じがします。もちろん、今ではこの道を選んでよかったと思っていますが。

産婦人科医は女性しか診ないけれども、女性の一生に寄り添う仕事です。赤ちゃん、小児、思春期の方、20歳代から50歳代の若い方、高齢の方という、ほぼ全ての年齢層の患者さんと接します。病気だけを切り分けて考えて治療するのではありません。患者さんの人生の中でその病気がどのようなものなのか、患者さんはその後どのような人生を送っていくのかという視点を持ち、幅広い年齢の患者さんの相談に応じられるのが、産婦人科医の醍醐味です。

*腹腔鏡下手術:お腹に小さな穴を開けてカメラのついた器具などを挿入し、モニター画面を見ながら行う手術

腹腔鏡下手術で開腹手術を上回るパフォーマンスの実現へ

2003年、42歳のとき10日間にわたってアメリカへ行きました。腹腔鏡下手術を専門とする産婦人科医の間ではとても有名で、医療機器の開発にも携わっていらっしゃる、チャールズ・コー先生の手術を見学するためです。

お会いして手術の様子を見学させていただいたとき、先生は腹腔鏡下手術でマイクロサージェリー(肉眼では見えにくい小さな組織に対して顕微鏡を用いて行う手術)のような繊細な手術を行っていらっしゃいました。眼科などで使われている“8-0”という細い縫合糸を用いて、卵管と卵管をつなぐような手術です。高度なテクニックを目の当たりにして、私は「腹腔鏡下手術でもこのようなことができるのだ」と驚きました。

私はそのときまで、“腹腔鏡下手術で開腹手術と同じパフォーマンスを再現する”ということを目標にしていました。開腹手術とはお腹を切って行う手術のことで、患部を広く見渡せて自由度が高いことが特徴です。そのため、高度な技術が求められる腹腔鏡下手術で開腹手術と同等の手術ができるならよいと考えていたのですが、そうではないと気付きました。

マイクロサージェリーは、肉眼では見えないような細部を顕微鏡で拡大することで繊細な手術操作が可能となる方法です。腹腔鏡下手術でもこの技術を再現できたら、開腹手術を上回るパフォーマンスが実現するはずです。そのとき、私自身の腹腔鏡下手術のさらなる技術向上を確信しました。

日本に帰る飛行機の中で、「凄いものを日本に持って帰っている」と思うと涙が出てきました。それは、『西遊記』で天竺(てんじく)から経典を持ち帰る三蔵法師のような心境だったのです。このときの経験は、術者としての大きな転機となりました。

お礼の手紙で近況報告をしてもらうことが1番の喜び

日々の診療のなかで、「その後元気でやっています」というお礼の手紙をいただいたり、患者さんや紹介先の先生から「妊娠できました」と報告をもらったりすると、とても嬉しく思います。私が専門とする婦人科良性疾患は命に関わる病気ではなく、30歳代や40歳代と若い患者さんが多くいらっしゃいます。その方たちが残り数十年ある人生をどのように生きていくのか医師には分からないからこそ、後でよい報告をもらえたときは感慨深いものです。

患者さんの中には、30歳代など若いときに子宮全摘術を行う方がいらっしゃいます。治療の後で離婚される方もいて、「本当に子宮を取ってよかったのだろうか」と私も悩むことがあります。しかし、数年後に「再婚して今、幸せです」と便りをくださると、治療をしてよかったと心から思えます。

強い痛みが生じる子宮内膜症などの婦人科の病気の患者さんは、パートナーの手助けが欠かせないような生活を送っていることも少なくありません。治療して痛みが取れ、能動的に人生を楽しめるようになった患者さんがいらっしゃることは、産婦人科医としての大きな喜びです。

患者さんに満足してもらえる質の高い医療を目指して

よりよい手術を提供するために私が特に心がけているのは、正確な手術操作です。そのためには、“心技体(精神力、技術、体力)”という言葉があるように、技だけではなく手術のときに動ける体とぶれない心も重要です。私はどちらかというと “体”のほうに重きを置いています。人の動作は体の中心とつながっていて、手術するには脊柱(せきちゅう)が柔らかく動かせなければならないと考えているからです。手術をこなせる体をつくるために、ヨガやピラティス、スポーツ選手が行っているような初動負荷トレーニングなどに、日々取り組んでいます。

また、技術の向上とともに、患者さんに満足してもらえるような診療を心がけています。診察室では、患者さんにどのように病気を理解してもらい、治療選択してもらえばよいのかを考えながら、じっくりと相談に応じます。「あなたは人生で何をしたいですか」「妊娠を希望しないなら子宮はもう取りましょう」「子宮を残しても妊娠は難しいので体外受精を検討しましょう」といったことまで深く話し合います。そうしなければ、患者さんに最高の人生を送っていただくことはできないと考えているからです。

研鑽に励む婦人科医たちの“輪”をつくりたい

2020年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、対面での学会や研究会の中止が相次ぎました。そこで私は、“西梅田婦人科ラパロセミナー”というオンライン形式のセミナーを開催し、ぜひ話を聞きたいと思った先生を招いて講演をしていただいています。地域の先生方にも案内を出して、毎回約200~300名の参加者が集まっています。

最近では、当院のチーム全体での技術向上にも試行錯誤しながら取り組んでいます。また、当院の医師に限らず意欲がある先生はどなたでも教えたいという思いから、セミナーなどで指導やアドバイスを行うことにも力を入れています。そうして施設間の垣根をなくし、産婦人科医の大きな“輪”をつくることが目標です。産婦人科医が集まって語り合ったり、お互いに励まし合ったりして研鑽を積める環境をつくれるよう、寄与していきたいと思っています。

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